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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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道香サイド 17

「理人が……お見合いするって…。元カノと……」

「はあっ!?」

 つい、大声を出してしまった。

 だって、なんで?どういうことになってるの?


 翔の会社にその相楽とかいう人が直接来る、というから、気になって、外出してるのをいいことに、翔の会社の様子を見に行こうとした。

 会社の入ってるビルの1階にあるコンビニが見えてきたあたりで、コンビニ横のエレベーターホールに続く出入口から、真っ青な顔したなっちゃんが飛び出して来た。

 その後を、女の子が追いかけてる。

 声をかけようと近づいたら、聞こえてしまったのだ。


「あっ……、ゴメンね。どうなったか気になって来ちゃった……。んだけど、今のはどういうこと!?」

 教授の親戚と会う話から、どうなって理人の見合い話になった?そもそも、理人の元カノなんて―――……

 そこで、久々に黒髪ストレートのお嬢様の顔を思いだした。

 莉乃ちゃんか。


 スマホを取り出して、よく行くホテルへとかけた。二人はきょとんとした顔をしている。

 いつも良くしてくれているホテルの支配人に話を通してもらい、無理言ってスイートを取った。

「よし、二人とも行くわよ!」

「「はっ?」」


 *****


 そうして無理矢理連れてきたスイートルームで、なっちゃんの口から詳細を洗いざらい聞いた。

 要約すると、翔の会社に仕事を依頼してきた相楽さんをお断りするのに、相楽さんの親戚である教授の後押しを貰いに行ったら、その代わり理人が莉乃ちゃんとお見合いしろ、と言われた……。ってことらしい。

 まさかここに莉乃ちゃんが出て来るとは……。

「道香さんは、その如月さんの元カノさん、知ってるんですよね?」

 なっちゃんの同僚の万由ちゃんに聞かれた。

 かわいらしい女子力高めな見た目とは裏腹に、サバサバした性格らしく、なっちゃんを心配する様子からは本当の友人なんだな、と伺える。

「知ってる……。っていうか、でもアレ、付き合ってた……のかな?」

 歯切れの悪い私に二人の視線が集まる。

 私の知ってる理人と莉乃ちゃんの関係を説明した。

 あの頃の理人は、いつもあんまりヤル気がない感じで、それは周りの友人関係でもそうだった。

 仲良くなった翔や要、私には誠実に対応してくれてるのに、その他大勢には素っ気ない。

 その線引きはハッキリしていて、彼の懐に入ればものすごく大事にしてくれるのに、そうではない人には冷たく見えたことだろう。

 莉乃ちゃんは完全に『その他』だったのに彼女はめげなかった。

 めげなかった?のか、はたまた理人のあの性質に気づいてなかったのか……。

「でもね、付き合ってたとは言い難いと思うの…。莉乃ちゃんは理人に話しかけたり、一緒にランチしたりしてたけど……、理人はくっついてきたのを相手してるだけ、みたいな。私から見て理人は莉乃ちゃんに好意があったかどうか……」

 理人から、直接莉乃ちゃんへの気持ちを聞いたことない。だからハッキリとしたことは言えないけど、私がわかるのはなっちゃんに対する理人は、今までの理人とは全く違う、ということだけだ。


「それを聞くと、奈都わかってる?やっぱり如月さんにとって奈都は別格なんだよ」

 万由ちゃんも同じようなこと言う。

「奈都が話す如月さんと、私の知ってる如月さんは別人みたいだもん。こないだ定食屋さんに来た如月さんも普段と全然違った。奈都を見つけたとたん、雰囲気が柔らかくなって奈都に向ける甘々な視線はこっちが照れるくらい、好きが駄々もれだったよ?」

 そ、そんな理人、どんな?

「じゃあ、理人があんなに甘々なこと言ったり、すぐくっついてくるのは私だけなの?メチャクチャ優しく触れてくるのは私だけなの?」

 なっちゃんっ……!

 ごめん、そんな理人が想像出来ないっ……!!

 万由ちゃんもそうみたいで、つい二人でキャーキャー言ってしまった。

「わかってると思うけど、理人ああ見えてすごく優しいから、莉乃ちゃんのことも無下に出来なかっただけだと思う。でもなっちゃんに見せる優しさとは違う。自信、持っていいんだよ?」

「道香さ~ん……」

 真っ赤になって涙目になって弱ってるなっちゃん。

「私も翔にずっと素直になれなかったけどね。でも理人となっちゃんを見て、すごく仲良くしてるの羨ましくて…。あの時のなっちゃんのおかげで翔と向き合えたから……、私もなっちゃんの力になりたい」


 理人が私達三人にかけた、スマホの着信履歴は凄かった。んー、これだけでもなっちゃんへのすんごい執着が伺える。

 その隙間に翔からの履歴もあった。


『道香?日向さんと一緒?』

 電話越しだと、いつもよりちょっと低く響く声が心地いい。

「教えなーい。そっちこそ理人と一緒なんでしょ?」

『……そう。もう、見てられないくらい落ちてる。そのホテルのラウンジにいるから来いよ』

「! なんで、場所……」

 翔に、ここのことを教えたことない。

『会いたい』

 一言で私を固まらせるの、やめて欲しい。

 なっちゃんと万由ちゃんが二人してニヤニヤしてる。

「きょ、今日はダメ。女子会なの!理人は身辺整理してこいって言ったでしょ」

『くっ、わかったよ。また連絡する』

 今日は自分の家に帰ってもらおう。翔の声を聞いたら私まで無性に会いたくなってきてしまった。

 ふと、なっちゃんを見ると、瞳が不安げに揺れてる。

 ああ、わかる。

 会いたいけど、会いたくない。

 その狭間で揺れてる。

「いいのよ。まだ会いたくないんでしょ?」

 その言葉にふにゃりと力なく微笑んだ彼女がかわいい。


 その夜は三人で並んで寝た。学生時代に戻ったように、女子だけでいつまでも下らない話や恋愛話をしたのが楽しかった。


 ずっと見てきた理人や、最近知り合ったばかりだけどすごくいい人のなっちゃんが、二人ともうまくいくように祈りながら眠った。


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