道香サイド 14
「道香センパイ……。なんかおかしなことになってません?」
週明け、午前中外出して昼休みに帰ってきたら、沙良ちゃんに捕まった。
またお昼を食べていなかったので、自分のデスクで大慌てで買ってきたサンドイッチにかぶりついてる所だった。
「……。おかしなこと?」
企画のフロアはまだお昼から帰ってきてる人が少なく、離れたデスクに数人いるくらいだった。それでも、沙良ちゃんは私の横にピッタリくっついて小声で話始めた。
「宇梶さん、神沢さんの自宅に行った、とか吹聴してますけど。それを、後輩の子達がキャアキャア盛り上げてて……。私、よっぽど言ってやろうかとも思ったんですけど、道香先輩は嫌がりそうだし……。もう、どうなってるんですか!?」
あー、確かに自宅には来たわね。嘘をついてるわけではないけど、真実を述べているわけでもない。
「んん、沙良ちゃんには言っておくね。翔とちゃんとお付き合いすることになりました」
「…………。照れ隠しに真面目に言ったつもりかもしれませんが、顔真っ赤ですよ……」
だよねー。顔が熱いの自覚してました。
「でも、そっか。そうなんですね。良かった。確かに、道香先輩今日はなんか落ち着いてる」
「そ、そうかな?」
実はさっき行っていた取引先の担当の人にも言われた。『あれ?三枝さん、今日は雰囲気なんか違いますね』と。
「あの問題はどうなったんですか?付き合うことになって、浮かれてスルーして、後々結局我慢する……みたいなのは良くないですよ!」
沙良ちゃん……。リアルすぎる……。
「それは、大丈夫。ちゃんと話し合ったから」
「何を話し合ったんだ?」
沙良ちゃんと二人してこそこそ話していたら、背後に人が来ていることに全く気付いていなかった。
「瀬名先輩!」
「俺ですら聞いたぞ。宇梶さんが神沢さんといい仲になってるって」
現れたと思ったら、いきなりそれ?
「そうですよ!どうするんですか、あれ!」
沙良ちゃん、「あれ」呼ばわりはダメでしょ。
「…………。ほっとくわ」
二人とも止まった。
「だって、嘘を言ってるわけでもないし……。周りが煽ってる部分もありそうだし……」
そこまで言ったら、私のデスクの内線電話が鳴った。
二人に目線を送って出る。
「はい、企画1部の三枝です。……えっ!は、はい……」
電話を切って、すぐに立ち上がった。
「どうした?」
瀬名君が心配そうに聞いてきた。
「し、翔が……、来てる……」
沙良ちゃんも瀬名君も、目を見開いて口が開いてる。そんな二人を置いて、急いでエントランスに向かった。
*****
会社の正面エントランスは、総ガラス張りで建物3階分吹き抜けだ。
道路に面した部分はショーウィンドゥになっていて、新製品が美しくディスプレイされている。
受付カウンターの横には、子供の背ほどもある毎月変わるフラワーアレンジメントが華を添えて、軽く打ち合わせが出来るよう応接セットが2ヶ所置いてある。
昼時には光が沢山入って、人も多く出入りする広く賑やかなエントランスで、金髪に白いTシャツにジーパン、上に紺色のミリタリージャケットを羽織ってソファーにゆったり座ってる翔はものすごく目立っていた。
周りがスーツや制服の人が多いから余計に浮いてる……。なのに本人はちょっと下を向いて携帯をいじって、周りのことなど気にしてない。
最近、要に言われてツンツン立てなくなった金髪が光に当たってキラキラしてる……。
ランチから帰ってきたであろう、制服の女性社員達が通りすぎながら、色めき立っている。
受付穣が私に気付き「あちらに……」と手を促してくれたけど、その顔はあからさまに「あれ、誰!?」って言ってる。
それでなくても目立つのに、なんでわざわざ正面から受付を通して私を呼び出したかな。
何か用があるなら、ケータイに連絡くれれば、外で待ち合わせとか出来たのに!と、思いながら翔に近づくと、こちらに気づいた翔が、ふわりと甘く微笑んだ。
「道香」
げっ!!
「しっ!」
あわてて向かいのソファーに座って、人差し指を口に当てた。
「何?どうしたの?」
小声で素早く聞くと、見覚えのあるベージュの手帳を差し出された。
「ウチに忘れてったろ。使い込んであったから仕事用かと思って」
「あっ、良かった~!探してたの。翔の所にあったのね。ありが……」
一昨日、服を着替えにマンションに戻って、また翔の家に連れてかれた。そのままお泊まりして、実は今朝は翔の家から出社したのだ。週末のゴタゴタで、翔の家に持って行った荷物に紛れていたのだろう。
会社でも探して見つからず、不便を感じていた所だったので、つい普通に接してしまった。
手帳が見つかったのは嬉しいが、今のやり取りを誰に聞かれてるかわからない。周りを気にして目線を漂わせた先に、宇梶さんを見つけてしまった……。




