翔サイド 12
今まで思っていたことを全て道香に晒した。
道香はこれ以上ないくらいに赤くなって、潤んだ瞳で俺を見あげている。
ずっとこんな甘いことを言わなかったのは、普通の道香といたかったから。
美辞麗句や口説かれるのに慣れてなかった道香は、大学のミスコンの後、知らない奴らから突然言われるようになったそれらに疑心暗鬼になっていた。
まったく、ミスコンで優勝までしてあれだけ称賛されて、少しは自惚れてもいいようなものなのに、道香は演劇部のおかげだとしきりに言っていた。
多分、同じ時に俺が言っても、意識してる分素通りして俺を信用しなくなるか、逆に更に意識してギクシャクしたに違いない。
まあ、ちょっと、いや、だいぶタダ漏れしてたような気もしなくもないが。
今みたいな素直な反応を見たかった。
「好きだよ。道香……好きだ。愛してる」
思いっきり甘く、道香に真っ直ぐ届くように言った。
「翔……」
泣き止まない道香の涙を指ですくって舐めた。
「どうだ、まいったか」
「……っ、もう、もうっ!……まいりました……」
泣き笑いになってる道香を、ぎゅっと抱きしめた。
「し、翔……、す……好き……。翔のこと、私も好き」
「……えっ……」
寝転がりながら抱き締めていたので、耳元で道香の告白がダイレクトに聞こえた。
道香からこんなにハッキリと言われるとは思ってなかったから、不意討ちすぎて聞き返してしまった。
「私、大学の入学式で翔を見て、多分、一目惚れだった。でも、理人を通じて知り合って、翔のその屈託のない笑顔とか、誰にでも優しい所とか、どんどん好きになってたの」
顔を見たいのに、首に腕をからめた道香がそうさせてくれない。
「ずっと、翔の隣に立つ自信がなくて……。ご、ごめんね……。私、自分でもわかってるんだけど、……あの……、すぐ、ヤキモチ妬いちゃうから……、交友関係の広い翔の側にいるのが、辛くなりそうで……」
「なんで?」
「なんで……って。だって、翔モテるじゃん……。男女問わずだけど、キレイだったり、可愛い女の子とかいっぱい知り合いにいるでしょう?」
なんか、段々言葉に力が入ってきたな。
「何言ってんの?俺の中で1番キレイで可愛いのは道香なんだけど?」
止まったのをいいことに、グイっと腕を外す。見下ろした道香は、思った通りまた真っ赤になってる。
「心外だなぁ。道香、俺が浮気すると思ってんの?」
「えっ!?い、いや、そういうことじゃなくて……」
「言って?」
「え?」
何を言ってるのかわからない、という表情になってる。こんなに簡単なことなのに。
「道香の口から言って。「私だけを見てて」って」
ポカンとした後、ふるふる震えて言った。
「しゅ、羞恥プレイなの!?」
「あははは!道香はそれが恥ずかしいの?羞恥プレイじゃないけど、道香の口から道香の望みをちゃんと言ってごらん?全て叶えてあげるから」
赤い顔で睨まれた。
「全部、だなんて、無理……」
「………………」
「……?、翔?」
ウチのソファーで、俺のシャツを着て、顔を赤らめて、柔らかい体を横たえて、涙目で俺を見上げて、俺を好きだという、俺がずっと大事にしてきた女……。
「……道香……」
自分でも分かった。声に熱が込められていることに。
その頬をスリっと触ったら、道香の腹から盛大に「ぐぅぅぅぅ~」と、空洞に響く音がした。
「……っ!やっ、やだ!もう!き、昨日あのまま寝ちゃって、今朝だって何もしてないうちに翔が来たから!もーっ、聞かなかったことにしてぇぇ!そんなに笑わないでぇぇぇ!」
別の意味で顔を赤くして、あわあわ言い訳してる道香を前に、大爆笑してしまった。
*****
道香の格好から、外食には行けなかったので、冷蔵庫にあるもので、道香がパスタを作ってくれた。
実は俺も、昨日の夜メシも今朝も何も食べてなかったから、けっこうな量を平らげた。
とにかく着替えたい、という道香のもっともな希望で、道香のマンションにまた車で行こうと家を出たら、玄関先に見覚えのある紙袋が置いてあった。
「さっき宇梶さんが持ってた……」
菓子折の袋。
なんだかそれがあるだけで、えも言われぬ不気味さが漂っていた……。




