翔サイド 11
迷った顔を振り切って、俺に向かって飛び込んできた道香が、すごくかわいかった。
「やっと、来た」
道香が自分で選んで俺の所に来た、ということがすごく嬉しくて、つい力強く抱き締めてしまった。
変な感じだが、道香を手にいれた、と思ったら自分のテリトリーに入れたくなった。つまり、自宅に連れて帰りたくなった。動物的本能か?
エレベーターを降りようとしたら、道香が部屋着を気にしてためらった。
確かに、黒いTシャツにショートパンツというラフな格好で、豊満な胸もスラリとした足もまるわかりで色っぽい。これを世の男どもに見せるのはいかがなものか、と思う。
俺が着ていたシャツを貸してやったが、大きくてシャツに着られているのがかわいい。
俺の服をきてる、ってこともなんか変な高揚感があって、そのまま車に乗せた。
「この家に入ったら、もう俺のモンだからな?」
道香が自ら来てくれたことで、彼女が決断してくれたと分かっていたけど、あまりに長く待ちすぎて、つい疑心暗鬼になって聞いてしまった。
「う、うん……」
軽く頬を染めながら、躊躇いがちに、けど肯定を示してくれた。
安堵して、降りようとしたときスマホが鳴った。画面を見て、誰からかわかった瞬間、うんざりした。
『あ、翔さん?今日はお休みですよね?今、どちらにいらっしゃいます?』
宇梶さんだった……。
「何かご用ですか?」
下の名前で呼ばないで欲しい。そもそもケータイだから表示でわかるが、最初に名乗らないのは親密さをアピールしたいのか、ただ単に礼儀知らずなだけなのか……。
なるべく事務的に言ったのにメゲなかった。
『今、ご自宅の前にいるんですけど、お会いできません?』
電話を切って、道香を見ると、怪訝な顔になってる。聞こえていたなら、そりゃそうだ。
「道香、一緒に来る?」
「えっ!嫌よ、ここで待ってる」
「一緒に来いよ。その方が手っ取り早い」
「だっ、って……」
目線がさ迷ってる。
それでなくても、今さっきやっと俺の懐に入ったばかりだと言うのに、それをとたんに披露出来るような性格じゃないことは分かってる。
でも……
「来いよ。俺を助けて」
「た、助けてって、そんな大袈裟な……」
しばし考えた後、二人でため息をついて車を降りた。
なんなんだ、この女は。
お礼に、と言って菓子を持ってくる……のはともかく、自宅までフツー来るか?
道香を見れば察して退散するかと思ったら、案の定、見た目と違ってメンタル強かった。
更にわざとなのか会話が噛み合わない。このままここで長く話していたくない。
困惑してる道香が
「翔……、中に……」
「やだ」
入れたくないんだっつーの!
道香はわかってない。交遊関係が広い、とはいえ実は自宅に入れたことあるのは、道香と理人しかいないということを。
「すいませんが、ここからはプライベートなので、お引き取り下さい」
乱暴な態度になりそうなのを理性で抑えて言った。
道香を見る目が鋭い。
「……じゃあ、三枝さんは?」
道香がちょっとピクっと動いた。
その体をグイっと自分の元に引き寄せた。
「俺の彼女なんで」
ここまでハッキリ言えばわかるだろう。
道香が嫌がりそうだから、仕事上ではずっと他人のフリをしていた。本当はアレだってかなり我慢していたのだ。
もっと見せつけてやろうかと思っていたら、とんでもないことを言い出した。
「翔さん、三枝さんの見た目で騙されてません?彼女、社内で同期の男性とも抱き合ってましたけど?」
道香より先に俺の方が、頭に血がのぼった。
「あなたこそ、道香を見た目だけで判断しないで頂きたい」
宇梶さんは愕然とした表情になって、止まった。
もう話すことも無駄だと思って、ほっといて家に入った。
箍が外れた。
道香を侮辱されて腹が立ったっていうのもある。
家に入って、あからさまにホッとした道香を見て、もう我慢できなかった。
こちらを見た道香に顔を近づけても、逃げなかったし。
そのまま唇を合わせた。
……ヤバい。
メチャクチャ気持ちいい。
今まで、俺からふいにキスをすることはあったけど、道香はされるままだった。
それが、拙いながらも遠慮がちに応えてくれようとしてる……。
「……ん、……ふっ……、はぁ……」
本人は無意識なのか、漏れてくる声すら気持ちいい。
なんつー声を出しやがる。
このまま突っ走ってしまいそうになって、一旦唇を離した。
「抱き合ってたのは瀬名か?」
「宇梶さんと二人で飲みに行ったの?」
さっきの聞捨てならない案件を問いただしたら、反撃を食らった。
お互い見つめあったまま沈黙……。
「あー、もうダメ」
キスでふにゃふにゃになってるくせに、下から睨み付けてくる赤い顔が、すげーかわいい。
嫉妬されることがこんなにクるとは思わなかった。
「道香、俺の彼女になるか?」
「やだ」
マジか。まだ言うか。
他に何が足りない……
「ちゃんと言ってくれなきゃ、やだ」
故意にやってるのはわかった。
でも、道香がこんな風に俺に拗ねてみせるのは初めてで、自分の熱が顔にじわじわ集まるのを感じた。
「かわい……」
道香ふわりと微笑んで、ポロリと呟いた。
なんだと?
「そんなに言葉が欲しいなら、くれてやる」




