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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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道香サイド 12

 あのまま、フェードアウトして欲しかった自分と、追いかけてきて欲しかった自分と、両方いることは自覚してる。

 でも、実際追いかけられると、どうしていいのか分からない。

 それが怒気を含んでいれば、尚更……。


 *****


 メチャクチャお邪魔してることは分かってるけど、今すぐ頼れる所に来てしまった。

 そう、理人の所だ。

 今日は日向さんも来ていて、また私やらかした!と思ったものの、日向さんは余裕の表情で私を中に入れてくれた。

 どうやら誤解は溶けたようで、一安心。

 そして、二人の会話や態度を見てると、お互いに相手を信頼してるのがよく分かった。

「いいなー……」

 思わずポツリと呟いていた。

 ものすごいめんどくさそうな理人に、どうしたのか聞かれる。めんどくさそうな顔をしてるのにちゃんと聞いてくるのが理人だ。

 私がふてくされてると、日向さんが、どストレートに聞いてきた。

「あのっ、三枝さんは神沢さんのことが、好き……なんですか?」

 直球が刺さるー。

 ふてくされてた手前、恥ずかしいけどつまりはそういうことなのよね。

 昨晩のことを説明してたら、またどんどん気持ちが沈んできた。


「昨日は酔ってたし、もう……限界……。翔が、私の目の前で、他の女に優しいの見るの、もうやだ」

 日向さんが心配そうな顔をこちらに向けて聞いてきた。

「あの、それって神沢さんは三枝さんがそう思ってることを知ってるの?」

「奈都、鋭い。三枝は翔の前で意地張りすぎなんだよ」

「だって……」


 ピンポンピンポンピンポンとチャイムがなった。三人で玄関を見た。

 うわあ、もう来た。

「言っとくけど、俺は呼んでないからな」

 と、理人が嫌そうな顔をして玄関に向かう。


「道香!」


 翔がものすごい勢いで入ってきた。

 まともに顔を合わせられない。

「ああ~、日向さんまでいるのにー。ゴメンな、迷惑かけて。でもって理人、目線、目線が痛いー!刺さってくるー!」

 多分、理人があのクールな目元でめちゃ冷たい目線を投げつけてるんだろうな、ってことはわかる。


「道香、帰るぞ」

「やだ」


 顔をそっぽに向けたまま、短く答える。

 翔が、はーっと長い息を吐いた。


「道香、いいかげんにしろ」


 あまり聞いたことのない、冷たく低い声にビクっとした。

「来い」

 お、怒ってる……。

 メールもそうだったけど、命令形が怖い。

 理人が「あー、マジ、切れた」と呟いてるのが聞こえた。

 真っ青な顔でノロノロと立ちあがり、玄関に向かった。扉を開けて待ってた翔が理人たちに謝っている。


 バタンとドアが閉まった後、翔はそのままスタスタと廊下をエレベーターの方へ歩き出していた。

 廊下の反対側には非常階段がある。

 逃げようと思えば逃げられる。

 ダッシュで非常階段へ通じるドアに飛び込んで、閉めてしまえばいいのだ。部屋の鍵は非常階段やゴミ捨て場のドアも開けられるし、閉められる。

 ……前にもこんなことあった。

 そうだ、キスされた時だ。

 私が嫌だと思ったら、すぐ逃げられる。

 エレベーターの前で止まった翔がこちらを振り返った。

「来ないのか?」

 無表情で言われた。


 今、ここで行かなかったら、もう翔とは会えない。

 今まで、断ったり逃げたりしてきても平気な顔して側にいてくれた翔だけど、これがラストチャンスだと、あの無表情の目が言っている。

 そう気付いたら、足が勝手に動いていた。


 一歩踏み出したら、翔の顔が甘やかに緩んだ。

 そのまま勢いで走り出して、満面の笑顔で両手を広げてる翔に飛び込んだ。

「やっと、来た」

 痛いほどギュウと抱きしめられて、その存在をとても大きく感じる。

 体を離して手を繋がれた。そのままエレベーターに乗り、翔が1階のボタンを押す。

「!、翔、どこ行くの?私、部屋着なんだけど……」

 突然、ガバリと来ていたダンガリーシャツを脱いだ翔は、それを私に着せた。

「おっきいよ……」

 肩幅なんてもちろん、袖だってブカブカで子供が大人の服を着てるみたい。

「いいから、着とけ」

 部屋着はないけど、この格好もどうなの?

 と思っていたけど、手を繋いだまま翔の後について行ったらマンションの来客用駐車場に停まっている、黒いスポーツカーの前にいた。

「乗って。今度は逃げるなよ?」

 助手席のドアを開けながら、翔がちょっと凄んでこちらを見た。

「う……」

 自分から飛び込んだ手前、もう何も言えない。

 大人しくシートに座ったら、ご丁寧に翔がシートベルトまでしてくれた。


 発車した車は見覚えのある経路を通って、翔の家に着いた。

 翔はマンションではなく一軒家に一人で住んでいる。築40年になる木造平屋をリノベーションして、外見と中身の印象が全く異なるこの家を数年前に完成させた。

 私は実はこの家がすごく気に入っている。けど、私のマンションが翔の会社に近いから、と翔がこっちに来ることが多くて、この家にあまり来ていない。

 生垣に囲まれた駐車場に、家と全く似合わないスポーツカーを停めた。

 エンジンを切った後、翔がこちらをゆっくり見る。

 意味深に見つめられて、心臓が跳ねる。

「あっ……あの、昨日は、ゴメン……なさぃ……」


「この家に入ったら、もう俺のモンだからな?」

 真剣に言われた。

 その意味をちゃんと分かってる。

「う、うん……」

 翔の顔がニヤリ、になったとたん、スマホの着信音が車内に響いた。

 私のじゃない。

 翔がダッシュボードにあったスマホを取って画面を見たとたん、嫌そうな顔をした。

 人差し指を立てながらこっちを見て、電話に出る。

『あ、翔さん?今日はお休みですよね?今、どちらにいらっしゃいます?』

 静かな車内だから、向こうの声は丸聞こえだ。

 ……って、宇梶さん?

 チラ、と翔を見たら、メチャクチャ不機嫌な顔をしていた。

「何かご用ですか?」

 うわ、めちゃ固い声だわ。と思ったのに電話の向こうの宇梶さんはメゲなかった。

『今、ご自宅の前にいるんですけど、お会いできません?』

 二人で顔を見合わせてしまった。

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