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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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道香サイド 1

 翔を初めて見たのは、大学の入学式の時。

 背が高い彼は、新入生の中でも頭ひとつとび抜けてて、とても目立っていた。

 背が高いだけでなく、小さい頭にガッチリした体つきで、美大なのに何かスポーツ選手みたいな体格で、ぶっちゃけ浮いてた。

 男性らしく整った顔で、コロコロ変わる表情は少年のようで無邪気に見え、それでいて、本人はのほほんとしたもので、周りに注目されてることにまるで気付いていないようだった。


 それから、彼の背が高いこともあり、大学内でチョコチョコ見かけることはあったけど、近づくことはなかった。

 次に見た……というか会ったのは、私が入っている高科ゼミの部屋。

 ドアを開けて顔を除かせた彼が、金髪になっててビックリしたのを覚えてる。

 それは今も続いてて、もうすっかり見慣れたし似合ってるんだけど、当時からメチャクチャ目立ってた。


「……ん、道香、今、何時?」

 床にひいた布団から声がする。

 ベッドのサイドボードの時計を見る。

「……6時前」

「サンキュ。あー、もうちょっと寝れるな…。……なぁ、そっち行っていい?」

「……いいけど……」

 がばっと起き上がった彼が、デカイ図体でベッドに上がってくる。

「あー、あったかい……」

 布団にもぐりこんできた翔は、私を後ろから抱き締めて首筋に顔を埋めた。

 なにこれ?

 付き合ってもいない男女がこの距離感はナシでしょ。

 体の大きな彼に大事そうにすっぽり包まれてると、何か勘違いしそうになる。


 私が大学の頃から住んでいたマンションの近くに事務所を構えた翔は、仕事を初めてからしょっちゅう泊まりにくる。

 最初は「ゴメン!何もしないから今夜だけ泊めて!残業してたら帰れなくなった……」と真夜中過ぎに来た時には殴った。

 でも、もう電車もない時間だったし、見るからにくたくたボロボロの状態で、無下に出来ず泊めてしまったのは惚れた弱味だった。

 それからなし崩しにちょくちょく泊まるようになった。

 けれど、最初の宣言通り一切手を出して来ない。

 今みたいに布団にもぐりこんできて抱きしめてくるのは、ただ単に抱き枕がわりなのだ。


「うあ!寝すぎた!」

 翔が突如叫んで起きた。

 二人してぬくぬくとしてたら二度寝してしまった。時刻は7時半を過ぎていた。

『神沢デザイン事務所』の代表である翔は、事務所の鍵を開けるために誰より早く出勤するのが常なので、この時間だとちょっと遅刻、くらいの寝坊だ。とはいえ、スペアキーを理人に持たせているので、多分今日は彼が鍵を開けているだろう。

「あー、道香があったかくてふわふわでいい匂いするから寝すぎた」

「なっ!なにそれ!私のせい!?そもそも、なんでウチに泊まるのが普通になってんのよ!」

 枕を至近距離で投げつけてやったのに、しっかりキャッチされた。

「だって、ここ事務所から近いし」

「理由がそれだけなら、もっと近くに引っ越ししなさいよ」

「俺が道香と一緒にいたいし」

 !!息が詰まる。何しれっと言ってるのよ!

 私が固まってたらずいっと翔が迫ってきた。

「ど?そろそろ俺と付き合う気になった?」

 ニッコリと屈託のない笑顔で言われた。


「で?ひっぱたいて追い出した、と」

 目の前で小指を立てながらカプレーゼをフォークで丁寧に口に運んでいるド派手なおじさんが言った。

 ド派手なおじさん…東海林 要(とうかいりん かなめ)は、白地に明るいブルーのピンストライプのシャツに、なんていうの?これ?貴族がするようなヒラヒラしたタイをして、スラックスは紫だ。髪は大抵ウィッグを愛用していて今日は緑のストレートボブだ。うーん、全身見ると目がチカチカする。

「だって……。デリカシーの欠片もないんだもん」

「もん、じゃないわよ!アンタ、翔がどんだけ優良物件だかわかってんの!?」

「ぶっけん……」

「30手前で今からブレイク必須のデザイナー!背も高くてイケメン、アンタのことを一途に思って早10年。かといって無理矢理手も出さずアンタの気持ち最優先で、性格もヨシ!!こんな男二人といないからね!?」

 ものすごい勢いで前のめりで説明してくれなくても、翔のスペックなんてわかってる。

「何がダメなのよー」

 ため息と共に言われたものの、説明つかない。

「そもそもさぁ、道香のマンションに布団どころか、翔の着替えも歯ブラシもあるんデショ?それってもう彼氏のポジションじゃないの?」

 そのうえ一緒の布団で抱きしめられて寝ています…とは言えない。

「なんていうか……、あまりにも長く近くにいすぎて……、付き合うとか彼氏とかってゆーのがピンと来ない……ってゆーか……」

 モソモソサラダをつつきながら釈明してたら

「要するに今更恥ずかしい、と」

 バッサリ切られた。

「……う…」

 既に自分の顔が赤いことは分かってる。

 それでなくても、このド派手なおじさんでイタリアンレストランの中で目立ってるのに、その連れが真っ赤になってたら余計怪しい!

「そ、それに!翔の言い方が軽くて、信憑性が薄いってゆーか……」

「バッカねぇ!10年も周りチョロチョロしてんのに信憑性もヘッタクレもないデショ!!告られてんデショ!!!」

 派手なおじさんが凄い勢いで怒ってきた。

 でもこれは反論出来る。

「告白……、されてない」

「へ?」

「されてないの!翔の口から「好きだ」とかハッキリしたこと言われてないんだもん!そりゃ、不安に……」

「なるわね」

 言いかけた所を要に先越された。


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