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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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翔サイド 8

 やっかいなことになった。

 それまでも、ちょっとうざいな、とは思ってたんだ。せっかく関わる仕事が終わってホッとしたのもつかの間、追いかけようとしてる所に電話が来た。

 まあ、追いかけるったって、マンションにいるのはわかってるから、残りのお好み焼きを平らげ、理人と別れた後で道香のマンションに行く……つもりだった。


『神沢さんですか?私、宇梶です。今、神沢さんの会社の近くにいるんです。ちょっとだけでも会えませんか?』

 普段ならハッキリと断る所だが、道香の同僚ともなるとあまり無下にも出来ない。

 しかも、今かなり時間も遅い……。

 道香の所に行きたい気持ちと、女性を深夜に1人にさせておくのも心配な気持ちとを天秤にかけて、宇梶さんの方をとってしまった。

 とりあえず道香は安全だし、宇梶さんのアプローチをしっかりお断りするために、会社へ向かった。


 *****


「じゃーん!どう?」

 着替えのために借りてた資料室から出てきた道香を見て、止まった。

「コラ!彼氏!!なんとか言いなさいよ!」

 要がニヤニヤしながら横からつっつく。

「……うん、すげー綺麗。道香、やっぱお前すごい綺麗だわ。要!お前に任せて良かった。ありがとうな!」


 結局、要の押しの強さに負けて、道香は渋々ミスコンに出場することになった。

 決まったら早かった。

 要はスタッフは既に押さえてある、と豪語していただけあって、スタッフとして出演する中でもレベルの高い人材を押さえていた。

 それが、演劇サークルの衣装係。

 演劇サークルではない要は、今までもメイク担当として演劇サークルを手伝っていたらしく、その腕を買われて逆に演劇サークルの方からミスコンのスタッフとして参加しないか、と言われていたらしい。

 条件として、要のイメージに合うモデルを用意すること。演劇サークルでも部員を何名か考えていたらしいが、要が連れてきた道香で皆一発オッケーが出て、話は進んだ。


 そして今日、ミスコン当日。

 道香はブラウンのグラデーションのドレスを身にまとって、凛と立っていた。

 テーマは「オータムクィーン」

 薄い茶色から濃い茶色までを足元からグラデーションにして、それを薄い葉っぱ形の生地を何重にも重ねて落ち葉をイメージしたドレスに仕上がっている。

 首もとは、立ち襟のようになっていて、そこからつながる上半身は体に沿うライン。腰から下はお姫様のようにふんわり広がっている。確かに、これは道香じゃないと着こなせないかも。痩せてる子だと貧相な感じになるし、このボンキュボンを見事に活かしたデザインだ。頭には小さめのティアラがちょこんと乗っている。

 露出はあまりないのに、色気を感じるのはデザインのせいなのか、雰囲気あるメイクのせいなのか……。


「やっ、やだー!なに急に!アタシはメイク担当で、衣装のデザインや制作は演劇サークルの衣装係さん達よ」

 資料室からわらわらと道香を着付けた演劇サークルの子達が出てきて、お互いに労を労っている。

「もう!みんな、本番はこれからよ!さっ、道香、講堂のステージまで翔にエスコートしてもらいなさい」


「……道香?」

 横に行き顔を覗けば、それまでお人形のように固まっていた表情がみるみる真っ赤に染まっていった。

 あ、今頃脳に到達したのか。

「……みっ、みんなが、すごい頑張ってくれたからっ……」

「そうだな。すごい綺麗だ」

「ど、ドレスがね!」

 そっぽを向いてしまった道香の、真っ赤になってる頬に手を添えてこちらを向かせる。

「ドレス()だけど、道香()綺麗」

 それまでも赤かったのが、ぶわわ!と音がしそうに更に赤さを増した。

 そこでやっと気づいた。綺麗だ美人だと噂されまくっていた道香だが、本人はそういうことを言われ慣れてない……ってことに。


「ちょっと!イチャイチャは終わってからにしてよ。さ、行くわよ」

 要が皆を引き連れて、先に歩き出していた。

 俺は真っ赤になってしまった道香の手を取り、それについていった。


 *****


 事務所の入っているビルの1階にあるコンビニには、イートインコーナーがある。そこで1人でコーヒーを飲んでいる宇梶さんが外からも見えた。

 確かに、スラッとした和風美人でこういう女性を好きな男性は多そうだ。

 清楚でおしとやかな感じで、ウチの社員達は「グラマラス三枝」か「大和撫子宇梶」かみたいに噂しあっている。

 でも、俺にはそう見えない。

 道香の方がよっぽど純粋で清楚だ。宇梶さんは肉食系に見えるのは俺だけなんだろうか?


 こちらに気づいた宇梶さんが、にこりと笑ってしなやかに椅子から降りた。

 店内に入って宇梶さんと向かい合う。

「こんな時間に女性1人でうろうろしてたらダメですよ」

「ふふ、優しいですね」

「お宅までは送れませんので、タクシーを呼びます」

 ケータイを取り出し、かけようとしたら手を重ねられ止められた。

「ね、一杯だけでいいので付き合って下さらない?」

 下から見上げるように見つめられた。

 多分、大抵の男はこの目線にメロメロになるのだろう。

 あー、めんどくせぇ……。

 ふと横を見ると顔見知りのコンビニの店長が、レジの中からニヤニヤしながらこっちを見ている。しっしっと追い払う仕草をしながら、仕方なく宇梶さんを連れて店を出た。


 手近なバーに入り、本当に一杯だけで帰るつもりだった。

 そんなに広くはない店内には、平日だからかちらほらお客さんがいるくらいだった。カウンターに座り、俺はジンバック、彼女はカシスオレンジをオーダーした。

「翔さんは、彼女はいない、と言ってましたが、おモテになるでしょう?」

「モテる、という定義がわかりません。芸能人のように現れればそれだけで人が集まるようなレベルは別ですが」

「謙遜ね。翔さんも現れれば人が騒ぎますわ。現にウチの社内でも、いらっしゃると女子社員は仕事になりませんの。こんな風に翔さんと二人で飲んだ、なんて言ったら私、恨まれてしまいますわ」

「じゃあ、帰りましょう」

 ぐっとグラスをあおって空にした。

「また、一緒に飲んで下さいます?」

 腕に手を添えられた。それをそっと外す。

「いえ、変に誤解されるのは嫌なのでやめておきます」

 ハッキリそう言ってやった。

「誤解……。それは私が?三枝さんが?」

 急にぶっこんできたな。

「誰にでも、ですよ」

 支払いをして店を出る。呼んでいたタクシーに彼女を乗せた。

「じゃあ、また」

 宇梶さんはめげずに次があることを匂わせる。それを気づかないフリをしてドアを閉めた。

 はーっとため息が出る。

 ああいう駆け引きをするような女は、俺はあんまり好みじゃない。

 自分のシャツをくんくん嗅ぐと、彼女の香水の移り香がある。これでは道香の所に行けない。

 仕方なく自分のマンションに帰ることにした。

 道香の温もりが恋しいが仕方ない。今日行っても、多分、怒ってるだろうし……なぁ……。


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