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彼と彼女のなりゆき  作者: キョウ
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道香サイド 6

「三枝のこと、好きなんだ。俺と付き合わない?」


 ずっと同期として、それ以上でもそれ以下でもない付き合いだと思ってた瀬名くんに、急に告白された。

「……えっ?……は?ん?」

 私の中ではあまりにも唐突突然だったので、耳に入った言葉がすぐに脳ミソに到達しなかった。


 翔の会社と打ち合わせた後、会食と銘打った飲み会に行く、前だった。

 翔や理人達は部長達と一緒に先にお店に向かって、まだ少し仕事がある人は後から合流する流れだった。

 ちゃっかり宇梶さんは部長や翔達と一緒に行った。ちょっと気になったけど、そこまで目くじらを立てる程ではない、と自分に言い聞かせる。

 私も、メールをチェックし、他部門に連絡事項を言付けて、デスクを片付け、更衣室に行く途中で瀬名くんに呼び止められた。


「三枝、店行くなら一緒に行かない?他のやつらはもう出たみたいだぞ」

「うん。ちょっと待って。更衣室にカバンあるから」

 カバンを持って更衣室を出る。従業員出入口で待っててくれた瀬名くんと店に向かった。

 店は会社から歩いていける距離なので、夜のネオンが明るい繁華街を並んで歩いた。

「それにしても神沢デザイン事務所って、スゲーよな」

「何が?」

「顔で採用してんのかな?」

「そ、それはないでしょー!いくらなんでも!」

「神沢さんも男から見て格好いいけどさ、如月さん?だっけ?あの人モデルでも生きていけそうだよな。なんでスーツなんだろ?デザイン会社ならオシャレなカッコすればいいのにな」

 理人の私服が、実はめちゃモード系のコジャレたファッションだということを知っている。私服で歩いてると本当にモデルばりの佇まいで、それこそ女性の目線がすごくて大変なことになるんだよ~、と心の中で言った。

「二人が揃って来ると、ウチの女性陣が裏でキャーキャー言っててすごいんだぜ?今日だって、関係ない奴が飲み会に来たがってて部長に止められてたし」

「あはは、そこまで?」

 瀬名くんは同期の中でのムードメーカーだ。

 営業だけあって、喋りが上手くて、同期以外でも男女共に社内で友人知人が多い。

 ひょろっと長身で、顔は笑うとエクボが出来る親しみやすい所が、実は女性達に人気なことを本人は知っているのだろうか?

 人気者…という点では翔と似てる部分もあるけど、翔の強烈なカリスマ性には及ばないかな……なんて失礼なことを考える。


「三枝はどっちが好みなの?」

 唐突な質問に一瞬止まってしまった。

「……え?いや、別に……。どっちとかないから」

「……。ふーん」

 訝しげにこっちを見てる。

「だよな。なんか雲の上の存在みたいで、俺らとは世界が違そう」

「……そう、……かな」

 毎日のように顔を会わせているはずの翔が、この一言で急に遠い存在になったような錯覚に陥った。

 店まですぐそこ、という所でふいに瀬名くんが止まった。


「どうしたの?忘れ物?」

 グイっと腕を捕まれて、道の端に引っ張ってこられた。

「あのさ、三枝のこと好きなんだ。俺と付き合わない?」

 真っ直ぐ目を見て言われた。

 こんなにどスレートな告白は初めてで、意味がわかったとたん、じわじわと顔が赤くなった。

「な、なんでっ、急に……」

「急じゃない。ずっと前から好きだったんだけど、最近焦ったんだ」

「焦っ……?」

 捕まれた腕はそのままで、逃がさないという強い意思が感じられた。

「神沢さん、三枝のこと気にしてる」

「えっ……!」

 私も翔も、仕事ではほぼ会話はなく接触は少ない。確かにこないだランチのお誘いがあったけど、沙良ちゃんの機転で皆仕事だと納得したようで、あの後特に何も言われたりしなかった。

「俺、すごい視線感じてんだよね」

「そ、それは気のせいなんじゃないの?」

 しょ~う~!何やってんのよ~!

「あんな人と三枝を取り合うようになったら、俺、自信ない。同期として過ごした年数くらいしか勝てそうな所ないから、焦ったんだ」

 ごっ、ごめん……。

 付き合いの長さだけでも翔のが上だから~……、と言えない申し訳なさで、何も言えなくなってしまった……。

「三枝、好き。好きなんだ。今すぐ返事しろ、とは言わないから、考えてもらえるか?」

 言われ慣れない言葉連発で、顔が赤いのがなかなか引かない。

「わ、わかった……。ちょっと頭冷やしてから入るから、先に行ってて」

 両手で頬を隠して瀬名くんを見たら、すごい嬉しそうに笑っている。

「三枝のそのギャップが好き。かわいいよな」

 そう言って瀬名くんは店に入っていった。


「好き」だの「かわいい」だの、この歳になってこんなに直球で言われるとは思わなかった。


 翔に……、言われたことないかも……。


 と、ふと気づいて自分がまた嫌になった。

 翔は言葉にしなくても、態度で示してくれてるじゃん!それを……、わかっていながらこんなこと思うなんて……。


 店内に入ると、すぐさま目に入ったのは翔の隣でにこやかに笑っている宇梶さんだった。

 翔が私に気づいてこちらを見たのを、思いっきり目を反らしてしまった。

「三枝、こっち」

 瀬名くんの隣に呼ばれて、翔を見ないようにして座った。


 途中までは覚えてるんだけど、ここから段々記憶があやふやになる。

 告白されて気分が高揚していたのと、翔と宇梶さんが気になってヤキモキしていたのが混ざりあって、いつもよりお酒を飲むピッチが早かったとは思う。

 隣の瀬名くんが「大丈夫か?」と心配してくれてたのも覚えてる。

 気づいたらいつの間にか翔に外に連れ出されてたのも……、覚えてる。

 でもこの辺からいよいよ怪しくて、翔がいなくなりそうで怖かったような、でもギュッって抱き締めててくれたような、夢うつつのような断片的な記憶しかない。


 でも覚えてる限りでも、瀬名くんは翔に私が介抱されていたのを見た……、わけで。

 あれが金曜だったから、月曜に会社に行って瀬名くんに何か言われるのが怖い。

「なんで、怖い?」

 人の気もしらないで、呑気に風呂上がりに爪を切ってる翔が憎い。

「だって!翔と理人はウチの会社じゃ、そりゃもう雲の上の人なのよ?!そんな人に介抱されてた、とか、絶対噂になってる!女性陣に鬼のように攻められるー!」

「あのな、雲の上とか言ってんじゃねぇ。ここにいるだろが。それにあの時、理人が瀬名を連れてったから、なんか上手くやってくれてんじゃねえ?」

 なに、その信頼。

 私よりも理人の方が遥かに翔とツーカーだ。

「それに……」

「……?」

「瀬名とかいう奴は、喋らないと思うよ」

 なんでそんなことがわかるのよ。


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