道香サイド 5
なんか、フワフワする。
さっきまでイライラして嫌な気持ちだったのに、今はなんかあったかいし安心出来るし、心地いい……。
近くにある温もりにスリスリ頭を付けてたら、そこから声がした。
「そんなに俺の腕の中気に入ってるの?」
「うん、気持ちいい……」
「…………」
ん?
俺の腕の中?
ガバッと急に起きたら、ガンっと頭を殴られたように痛い。
「バッカ、急に起きんなよ」
ガンガンする頭を押さえて横を見れば、私のベットの上で頬杖をついて寝転がってる翔がいる。いつものウチに置いてあるパジャマ代りのスウェット姿だ。
それ自体はもう見慣れた光景なんだけど……、あれ?私、いつの間にマンションに帰ってきたの?
と、我に返って自分の姿を見ると、ブラとキャミソールとショーツしか着てない!
「スーツ、シワになるから脱がせたぞ」
こともなげに翔は言って、律儀にコートハンガーに掛かってるスーツを親指で示した。
「あ、あぅ……。アリガトウ、ゴザイマス……」
だったら、パジャマも着せてよ!
昨日は翔の会社の人と一緒に飲みに行ったはず……。
そうだ、飲み会で翔の隣に座って、お酌したり料理を取り分けたり、ずーっと離れない宇梶さんが気になって気になって、自棄になって飲み過ぎたんだった。
そこで、はたっと思い出した。
そうだ、私、瀬名くんに―――
「同期の瀬名と何かあったのか?」
心臓が飛び出るかと思った。
一人で思い出してたら、隣に翔がいたことを忘れてた。
「や、別に……、何もないよ。……昨日、翔がここまで連れてきてくれたんでしょ?ありが……」
ここまで言いかけて止められた。
キスで。
まだ頭は痛かったのに、与えられる刺激で痛いのが吹き飛んだ。
翔は唇以外、どこにも私に触れてない。
逃げようと思えば、自分から動けばなんなく逃げられる。わざとだ。前にキスされた時は驚きと恥ずかしさで、思わず逃げてしまったから……。
だけど、今は逃げない……逃げたくない私がいた。
「……みち……、逃げないの……?」
聞きながら角度を変えて唇を貪ってくる。
「ん………、にげ…」
上手く喋れない。
逃げない。
だって、好きな人からキスされてるのに、めちゃくちゃ嬉しいし気持ちいいのに、逃げるわけない。
なのに、翔は絶対わかって言ってる。
「……ん……、しょー……」
「ん?」
止まって、至近距離で顔を覗かれる。
「道香……、俺の彼女になる?」
その聞き方がズルい。
顔を見れば、甘く微笑んでゆるんでる。
なんかムカつく。
「まっ……、まだなんない!」
「「まだ」かよー……」
ガックリしたフリをして、ニヤニヤしてる。
翔は私が躊躇してる理由をしっかり解ってる。解ってて、ずっと待っててくれてるのは、すごく申し訳ないとは思ってる。でも、それを面白がってることは私だって解ってるんですからね!
「待つよ」
大きくて暖かい手が頭に乗っかった。
「ちゃんと、待っててやるから。ただ、待ってる間に他の男にやるつもりはないがな」
優しく髪を撫でる手が気持ちいい。
「……う、うん……」
その手が首に周り、ぐいっと抱きしめられた。
ずっとここにいたい。
翔の腕の中に。
でも、翔はそういう人ではない。
沢山の人に囲まれて、みんなの輪の中で光輝く人。
私だけが独り占め出来ない。解ってる。
解ってるけど、人気者の翔を見るのは嫌。
なんて傲慢で我が儘な私の心。そうなってしまう自分が嫌だ。
付き合ったら、もっとその気持ちが大きくなりそう。それが怖い。
「なぁ、俺、拷問にかけられてるの?」
「へ?」
上から降ってくる情けなさそうな声に我に返る。
「そんなカッコの道香とくっついてると、否応なしに反応しちゃうんだけど……」
何を言ってるのか理解したとたん、ベットから突き落としてやった。




