〜プロローグ〜 邂逅
“事実は小説よりも奇なり”
その言葉通りの体験をした自分は、一小説家を目指す者にとって幸運なことなのであろうか……。
『―――ひぃ君、ずっと……ずっと一緒だからね―――』
「痛っ……!!|」
頭部の痛みでフッと我に返る。
「そうだ、俺は……」
目の前には割れたフロントガラス。大きくひしゃげたボンネット。
さっきのカーブで対向車と衝突して―――
ドアを開け外に出てみる。肌を刺すような寒さだ。
吹雪で数メートル先もぼやけて見える。
ザクッ……ザクッ……雪を踏み固める俺の足音だけが雪の山道に不気味に響く。
体が重い。頭から出血しているようだが、なんとか歩くことはできた。
「……相手の車は?」
何歩か歩いた所で俺は愕然とした。
ガードレールを突き破り、5メートルはあるであろう崖下の河原にに小さな車が横たわっていた。
「マジ……かよ……」
なんとか崖を滑り降り、車内を確認した。
運転席の男は血だらけだった。
「大丈夫ですか!!」
大丈夫ではないのをわかっていながらも、そう叫びながら窓ガラスをバンバン叩く。が、反応は無い。
ドアを開け引きずり出そうと試みたが、ドアはピクリとも動かない。
――他に同乗者は?
助手席には……いない。
後部座席には……
………いた!!
まだ中学生くらいであろう女の子が、ドアに寄り掛かるようにして気を失っていた。
ガチャ……
今度はドアが開いた。
女の子が外に倒れてこないようゆっくりドアを開け、そっと抱き抱えた。
「おい! 大丈夫か!?」
だらんと垂れたその子の頭を抱え、顔をこちらに向けさせる。
「……………!!!!!!」
俺は言葉を失った。
そこにいた少女は……
俺の初恋の人だった。
「おい! 大丈夫か!?」「救急車呼んでくれぇ!!」
上の方から何やら騒がしい声が聞こえた気がしたが、俺の頭には何も入ってこない。
ズキン!!
再び頭部を痛みが襲った。
ドクン、ドクン……速まる心臓の鼓動。
段々と目の前の少女の顔が霞んでいく。
意識が遠のいていくのがわかる。
「俺は……死ぬ……のか……?」
「……か………れ……ん…………」
そして俺は少女を抱いたまま気を失ってしまった。
この時の俺は、これから訪れる運命をまだ知る由もなかった。
いや、心のどこかで予感はしていたのかもしれない………。