プロローグ
一人暮らしにもようやく慣れ始めた頃、アパートに一通の手紙が届いた。
差出人は父親で、珍しいこともあるもんだなと、そのときは不思議に思ったものだった。
俺の名前は西川辰彦。大学に入ったばかりの俺は、周囲の誘いのままにいくつかのサークルに顔を出す毎日を過ごしていた。
大学に入ったのも、「勉強がしたい」とかいう高尚な考えがあったからではなく、たんに高校を出てすぐに仕事に就くのが嫌だったからだ。両親は小さいながらも会社経営者。いずれはその会社を次ぐことになるのかなと思ってもいた。
そう、今日この日までは。
「父危篤、すぐ帰れ。……だったら笑えないなぁ……」
差出人は父親なので、それはないだろう。なら母か、などと笑えないことを思いながら封を切った。
質の悪い冗談を思ったことが悪かったのか、
それとも、遊びほうけていた自分への罰なのか、
手紙の内容は俺の冗談よりも質が悪かった。
『会社倒産。大学止めて働け』
簡単極まるその一言を見た瞬間、俺の頭の中が真っ白になる。
無言でその場に突っ立つこと数秒。
「……待てよオイ」
とりあえず、それしか思い浮かばなかった。