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空想のサクラ  作者: 秋山 楓花
第二章 彼らは何を望むのか
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7話

 太陽が真上から傾き始める。大きな雲の間から容赦なく光が降り注ぐ。僅かに日光の肌を刺す力が強くなってきたな、と額に手を当てた。汗はかいていないが、じわりじわりと体が熱くなっていく。

 

「っおい! 集まれ!」

 

 タクの呼び声に振り返る。彼に動揺が見える。

 

「どうしたの、タク?」

「ドローンが異常反応を示した」

「なんですって⁉」

 

 彼はマイにパソコンを渡す。両方のドローンのモニター映像が動いては止まり、そして、ぶつんと切れた。

 

「なによこれ……! 今どこにっ⁉」

 

 彼女から取りあげて、彼はキーボードをいつもより強く叩く。空が淀んできたのか、辺りが暗くなる。

 

「っ……なぜだ、両方とも城壁外だ……! ここから近い、急いで取りに行くぞ!」

「まって! もしかして罠じゃ」

「ソレルナに一番知られてはいけない物を置いていくわけにはいかないだろ!」

 

 ユウの意見に耳を貸さず、彼は小型化したパソコンを懐にしまって走っていく。

 

「ここはしょうがないわ。行くわよ、二人とも」

 

 私たちの肩を叩いて、彼を追う。ユウとアイコンタクト、そして彼女の後に続いた。分厚い雲がこちらにまで広がり、大きな影を落とす。

 

 


「ここか」

 

 タクが立ち止まる。走って二、三分だろうか、息が弾む、苦しい……。

 

「透明化、解除してもいいよな?」

「えぇ」

 

 ここにあるであろうドローンを、四人で囲むように立って見下ろす。周囲に人の気配はない。生温い風が張り詰めた空気の間を通っていく。

 

「解除」

 

 そこに現れた黒い物体は

 

「「「「っ……⁉」」」」

 

 ドローンの姿をしていた物とは思えないほど、破壊されている。折れたネジ、切れた銅線、ひん曲がった基盤。

 

「……っクソ!」

 

 強い舌打ちと共に、タクはしゃがんで部品を手に取っていく。悪意のあった壊され方でなければ、こんなになるなんて……。少しだけ湿った体が一気に冷えていく。

 

「綺麗に記録部分だけ抜き取られているな……」

「そんなっ⁉ 僕たちの情報になる物はいれてなかったよね⁉」

「えぇ、ソレルナの景観だけのはずだから……。でもこれって透明化を見破って壊したことに」

 

 会話が止まる。最近もあった、この感覚。後ろから急に漂う、ゴーストの気配。

 振り向けば、地上から黒い煙を巻き上げながら生まれる人型ゴーストがこちらへ歩いてくる。

 しかも土からとめどなく、生えるそれが、私たちを囲んでいく。

 

「……ねぇ、嘘でしょ? これ、夢じゃないのよね?」

 

 この状況に動揺するマイ。

 

「……現実だね、マイ」

 

 意外と落ち着いているユウ。

 

「どうする。放置すれば増え続けるぞ」

 

 通常運転のタク。

 

「わ、分かりきってるでしょ、やるしかないわ。でも少ない魔力でどうやって切り抜けるか……」

 

 そして私は、右手にナイフを持つ。

 

「任せて」

 

 目の前にいる一体に向かって走る。

 

「ナナっ⁉」

 

 黒マントの魔力制限のおかげか、将又不安定な体内魔力のおかげか、前よりも少ない魔力で体を動かすコツが掴めた気がする。ターゲットにすれ違いざま、三回の斬撃。粒子になって溶けていく。後ろからの攻撃。前転で避けて

 

「はっ!」

 

 ダッシュからの、四体まとめて斬る。

 そこから連続攻撃!

 よしっ……思った通り体力は少ない。

 私でも捌けるくらいだ。

 

「ナナっ!」

 

 マイの声、一旦三人のいる場所に戻る。皆武器や本を構えて、奴らに向かい合う。

 

「いけそう?」

「多分、いける」

「分かったわ。陣形はスピツァフィーア! ナナは逃げ道の確保、他は全力で彼女のサポート!」

「「了解!」」

 

 大きく息を吐く。出張から珍しい事例が多発して、戦闘でメイン攻撃を任せられるようになった。まぁ、一回目はそうならざるを得なかったからだけど……でも、今回は違う。私の動きで全てが決まる。何としてでもこの状況、打破しなければ!

 

「その道を」

 

 片手サイズの魔方陣を展開する。マントのせいでできることは限られているけど、三人と比べたら融通が聞く魔術だ。どれだけ変幻自在に力を操れるか、これが『月の力』を使いこなす上で肝要な技術だ。

 

「開けなさいっ!」

 

 陣から一直線に駆ける光線は何体ものゴーストを突き通した。黒い霧が立ち込めるその空間に、小さな隙間が顔を出す。

 

「いくよ」

 

 道を中心に前列三体。

 三つの玉を発射、ナイフ準備。

 怯んで、そこ!

 腹をかっさばくように、横一文字!

 

「次」

 

 五体、一体見逃すか。

 わわっ、矢が飛んできた。

 って、ちょうど相手しないつもりのゴーストに⁉

 さすが、司令官!

 

「ありがとうマイ!」

「後ろは任せて!」

 

 よぉし……!

 弾丸十個用意。

 しゃがみ避け、足元斬って。

 回転ジャンプの反動で二体の胴。

 からの、後ろには弾二個プレゼント!

 怯んだら、全体斬り。

 そして弾丸八個一斉発射!

 

「マイ、なんとかなるかもしれない!」

「オーケーよ! ユウ、タク! ゴーストの主を探して! どこかに隠れているはずよ!」

「わかった!」

「承知」

 

 いつもより敵の動きが見える。昨日は調子悪かったけれど、今日は絶好調かも! もしかして、ブラッディムーンのおかげ? なら、他の二つはどうなんだろう……いや、今はそんなことどうでもいい。少しずつ前に進んでいる。このままいけば

 

「うがぁっ」

 

 えっ?

 

「よ、く、も」

 

 切り裂いた首元から失われていく黒。

 私はゴーストと戦っていたはず。

 なのに。

 

「敵、対、者、め……」

 

 

 なんで目の前に人がいるの?

 

 

『……っ僕を殺すなんて、どうして!』

 

 男の苦しそうな顔。

 

『嫌われても……はっ……しょうが、ないよ……』

 

 一瞬で目の前が真っ暗になる。

 あの月夜のように。

 

『「ナナ!!」』

 

 またやってしまった。

 魔力で人を傷つけてしまった。

 なんで? どうして? 人が?

 

「っは⁉」

 

 見える。黒い世界に、黒い奴ら。

 ゴーストの群れに、人の姿が。

 十人? いや、三十人。

 違う……全て影のローブを被った人間だ。

 

 あそこで倒れているのも。

 

 霧になったのも。

 

 地から這い出でるものも。

 

 ということは?

 

 

 ()()()()()()()()

 

 

 

「ナナ! 危ない!」

 

 マイの声で正気に戻ったのも束の間、影に足を掴まれた。宙に浮いて、ひゅっと喉が鳴る。そして一気に私を飲み込み、気付けば身動きが取れなくなっていた。三人も手を縛られている。これでは攻撃できない。

 

「ついてこい」

 

 冷酷な声が私の隣で聞こえる。

 

「言う事聞かなけりゃ、こいつの首を掻っ切るぞ」

 

 黒いナイフが喉すれすれまで近づいているのが分かる。私の顎から汗が、黒い地面に向かって落ちていった。もし、私が踠いて奴が本当に斬ってきたら、右の首筋にある吸収口に当たるかもしれない。運が悪ければ、死ぬ。

 

「……分かったわ。そのかわりゴーストを消してもらえるかしら?」

「あぁん?」

「だって貴方たちの仕事は、私たちをソレルナに入国させることでしょ? こんなにいてもしょうがないじゃない。お出迎えが多くて結構だけれども。それとも……こんなにいないと仕事を全うできないのかしら?」

「……ちっ、お前ら。消せ」

 

 うじゃうじゃいた人型ゴーストが地上に吸われていく。そして残ったのは影のローブ……影と一体化できる魔術用のローブを着た人間、約十人。だったら、あのとき見た黒い世界は……なんだったのだろう?

 

「歩け」

 

 足の拘束は外れたけれど、手はそのまま。心の中で舌打ちして、歩いていく。

 



――城壁に触れそうなくらい、近づいた。胸の鼓動が耳まで響く。途端、立ち止まると奴らは跪いた。頭の方向は仰々しい門が開く、その先に。メイド二人と執事一人、そして美しい女性が立っている。

 

「ご苦労。一人と三人を引き離すことはできなかったか」

「まぁ、流石シェリルムのトップエリートさんだけあるぜ?」

「リイ、何かあったら言ってね?」

「……えぇ、大丈夫よ、キノ」

 

 一人のメイドが一歩前へ、そして私を見る。

 刹那、思いっきり睨みつけられた。

 反射で目を逸らすと、彼女は深々とお辞儀をする。

 

 

「偽りの姫と、招かれざる敵対者さん。

 ようこそ、ソレルナ・ステラ帝国へ」

 

 

 矛盾した言葉を吐いたメイドの表情は、笑んでいるような、怒っているような、なんとも不気味な顔だった。

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