17話
ナナはペンダントをかざす。よく見るとそれは立体の菱形で、中にキラキラと輝く宝石が入っている。光に誘い込まれながら黒い煙は吸い取られていく。そして足先から色が明るくなっていく。深みのある青緑色のスカート、白いブラウス、月と星のチャームが付いたミニシルクハット。灰色と黒から新たな色が生まれていく。
ナナの後ろで見守る二人の所に僕も並んだ。彼女が腕を下げると、顔を下げたまま僕たちに向き合う。
「……ありがとう、ございました」
震えた声でお辞儀をする彼女。マイが一歩でて、ナナの前に立った。
「顔を上げてちょうだい」
ナナがゆっくりとマイの目を見る。
「今まで行ってきたこと、そして昨日までのこと。貴女の意思ではなくとも、裁かれなければいけない罪の対象になるわ。市民の生活を脅かした罪と軍人の職務を妨害した罪、そして命を奪おうとした罪。どの罪も重罪で、間違いなく、死刑にされるでしょう」
冷酷に淡々と告げていく。でもそれが現実であって、口を挟んではいけないこと。マイがどんな顔をしているのか分からないが、ナナはとても悔しそうな表情をしている。僕は唇を噛み、胸を押さえた。
「……でもね」
声の明るさが戻る。
「私、貴女みたいな心の綺麗な人を見殺しになんてできない! 前のユウを見ているようでね、貴女が怯えた目をしているとどうしても助けたいと思うの。だから、私たちができる最大で最善の案を受けてもらいたいのね」
マイの手に一枚の紙がふわりと落ちる。
「私たちと一緒に働きましょう。特殊部隊三班の隊員として。今までのことは大丈夫、私がなんとかするから! 貴女の強大な魔力とサポートで私たちを導いてほしいの。自分を信じて。
私たち魔術軍隊特殊部三班は貴女の入隊を望むわ」
あのときの光景が広がった。空気や香りまで、鮮明に。手を差し伸べられた、忘れもしない思い出の記憶。今、僕とナナは反対の立場にいる。
「私……」
ナナが紙を受け取り、ぎゅっと掴んでいる。
「私、生きてもいいんですか……」
「えぇ、もちろんよ」
マイの優しい一言でナナが顔を歪ませた。何度も、何度も紙とマイの顔を見ている。
「ユウ、後は貴方に任せるわ」
彼女が後ろを振り返り、僕に微笑んでみせた。助けてくれた時の笑みと一緒だ。入れ替わり、僕が前に立つ。言うことは決めていた。絶対に、言わないといけないんだ。
「ユウ……」
「ナナ」
僕は笑った。
「言いたいこと、言ってごらん」
ナナは大きく目を開き、下を向く。
「私は……私は、皆と一緒に生きたい……」
「うん」
「皆と笑い合って、支え合って、生きたい」
「うん」
「ユウと一緒に暮らしたい」
「うん」
「温かくて優しい居場所が欲しい!」
「うん」
「いっぱいいっぱい褒めてほしい!
頑張ったねって言ってほしい!
もちろんダメなことはダメって言ってほしい!
私のこと信じてほしい!
大丈夫だよ、わたしならできるよって、わたし、頑張るから!
せいいっぱい、がんばるから……!
だから……だから……」
「私に、生きる理由をください……」
彼女は小さく息を吐いた。
「……こんなわがまま、きいてくれる?」
僕は屈んで目線を合わせた。
仲良くなりたいと最初に思ったあのときのように。
「わがままなんかじゃないよ」
彼女の頭を撫でる。
「今まで頑張ってきたね。居場所はここにあるよ」
ぽろぽろ涙が零れていく。やっと本当に解放されたんだね。
よかった、よかった……。もう……こっちも泣きそうだよ……。
「ユウ……ありがとうっ」
「もうナ、ナっ⁉」
安心して立ち上がったところにナナが抱きついてきた。体と顔が固まる。涙が引っ込み、徐々に顔が熱くなる。こう……色々と……その……とりあえず彼女を見る。肩が震えていて、小さく嗚咽を漏らしていた。その姿が今まで見てきた明るく強い彼女ではなくて。か弱く、そして素朴で純粋な、本当の彼女がそこにいる。僕は柔らかく、彼女の背中を摩った。
あっ。後ろの二人を思い出し、ちらりと見やる。マイは目頭を押さえ、タクは背中を向けていた。僕だけじゃない、二人もナナを助けてくれたんだ。自然に笑みが戻ってきてくれた。
彼女のいつもの甘い香り。
彼女だけの、たったひとつだけの香り。
ちゃんといる、僕の側にいるんだ。
それだけで心嬉しくて。
僕は少しだけ腕の力を強めた。
これから共に歩いていこう。
新たな決意は僕の心の中に、春風が運んできてくれた。
皆と笑い合って生きていこう。
太陽の暖かさを受けて、僕は空を見上げた。
そして、ずっと、これからもずっと、生きていくんだ。
果てしない青空は驚くほど、綺麗だった。




