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空想のサクラ  作者: 秋山 楓花
第一章 彼女は何を想うのか
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10話

 嘘偽りない言葉だとルシナに伝わるように、僕は微笑んだ。彼女は回復キットのパッチを腕に押し当て、少しだけ僕の目を見て、頭を下げた。彼女の表情が見えなくて不安になりつつも、またゴーストに向き合う。そろそろクールダウンも終わるころだ。


「君もそう思ってくれるならだけど……」


 僕自身忘れていたことだ、正直これでいいのかと疑問は残る。いや、当たり前だと思って無意識にやっていたことでも意味はあるはずだ……!

 剣を持つ両手を握りしめる。するとルシナが僕の隣に立ち、大砲の口を奴に向けた。


「指示はお願いします、ユウさん」


 僕を見て、彼女は照れくさそうに少しだけはにかんだ。体……心の中で熱いものが巡り、溢れそうな口元をぐっと締める。


「……っよし‼ 任された‼」


 僕は勢いよく飛んだ。全ての感情、想いを乗せて、高く、高く。橙色と共に!


「エフゥティ!!」


 一気に着陸し、回避に移る。大技を成功させ、士気も高まっていく。


「僕がこの場を撹乱する! ルシナはこいつの弱点を狙ってくれ!」

「弱点ってどこですか⁉」


 こいつは猪、獣型第三類。そしてルシナの砲術、上部は狙いにくい。だとすれば。


「第二結合部位……前足の付け根だ! 焦らなくていい、確実に弱点を打つんだ!」


「はいっ!」


 いつから僕は忘れていたのだろう。ひたすら強くなろうと思って、閉じこもっていた。できないことが恥ずかしくて、悔しくて、情けなくて。またそうなるのは嫌だ、の一点張りで。


「準備完了、一発目いきます!」


 でも、『一人の強さよりも三人の強さ』だってやっと気付いた。二人に迷惑をかけるから強くなるんじゃない。二人と助け合えるようになるために強くなるんだ。


 仲間の怖さに取り憑かれていたのはルシナだけじゃない、僕もだったんだ。


「発射!!」


 爆発音と砂嵐が、悲鳴を上げるゴーストの周りに竜巻を起こす。途端、勢いよく風が僕たちに体当たりしてきた。


「ぅわあっ!?」


 想像以上の破壊力に変な声が出た。音が止んでも風はまだ治まらない。まさに圧倒的火力……パワーだけみればタクと良い勝負なんじゃないか⁉


「うおぉぉ! すげぇよルシナ! こんなに火力高いなんて! これならあと一回当てれば勝てるぞ!」

「あ、ありがとう、ございます……が、がんばります!」


 何も言わせない攻撃力とガッチガチのロケットランチャー! 男の浪漫を目の前にして興奮しないわけがない! 一方彼女は照れて動きがカクカクになりつつも、瞳は爛々と輝いている。

 喜びも束の間、空気が変わる。前を向き直し一呼吸、黒い一線が飛んできた。ルシナの方だ!


「いけるっ!」


 彼女は衝撃波を打ち相殺、でも突進してくる! 砂で濁った視界からいきなり顔を出す。


「ひっ」

「ゲシュウィン!」


 一人と一匹の間を駆け抜け、ターンする。上手く当たったようでゴーストはふらついた足取りで距離をとる。もう一押しだ!


「ルシナ、急いで砲撃準備だ!」

「っ! はいっ!」


 一瞬怯んだ彼女だが、すぐ大砲を持ち上げ魔力を溜め始める。奴はバランスを崩し座り込む。


「はっ⁉」


 僕の頭上には無数の黒線。すぐさま降ってきたそれを躱す。

 立ち上がろうとしているな?


「させるかっ!!」


 後ろ足を斬るとガクンと体が落ちた。


「今だ!」

「発射!!」


 威勢のいい声を合図に、僕は大きく跳び上がる。足元でまた爆発音が轟く。砂煙の中、地面に降りて目を凝らす。まだいるかもしれないと、剣を持ち直した。ゆっくりと前が鮮やかになり


 そこには晴れやかな空が広がっていた。



「……倒した……」


 つい口から零れた。喜びが全身を駆け巡り、飛び跳ねたくなる、が。ぐっとこらえてルシナを見る。彼女は冷静に黒の霧を吸収し終えると、大砲を魔力に戻し、空を見上げている。僕も剣をしまい、ルシナに近づく。彼女は泣きそうで笑いそうな、そんな複雑な顔をする。


「ユウさん」


 僕の名を呼ぶと自分の手を見つめて、ぐっと握ったり開いたりをゆっくり繰り返す。


「……久しぶりに仲間と戦い、勝った快感を思い出しました。ずっと、忘れてました、この感覚。なんとも言えないけれど……でも凄く嬉しいのは分かるんです」


 そして僕の目を見た。


「まだ気持ちの整理はつかないけれど、何かこう……吹っ切れました。そう、胸の中でストンと落ちた感じ……俺、ユウさんと同じメンバーだったらよかったんだけどな」

「僕は……ううん、きっと僕じゃない誰かなんだと思う。大丈夫、神様が巡り会わせてくれるさ」


 おいで、と言いたくなったのをこらえた。これから彼女は新しい世界を見るのだから。


「はは……ずるいや、ユウさん」


 少しだけ悲しそうな顔をする。


「でも、そうか……そうですよね。ユウさんに、褒めてもらって、勝負に勝って、ほんの少し自信がつきました」


 彼女は思いっきり頭を下げる。



「本当に、ありがとうございました……!」



 それでもはっきりと震えた声は僕の耳に届いた。ぐすっと鼻をすすり、腕で顔をこする。そして顔をまた上げた。その顔を見て、僕は一気に嬉しくなって、笑みがこぼれた。



――少し不格好な明るい顔で、ルシナは笑った。


 少しずつ、少しずつ僕も彼女も変わっていける……そんな気がした。

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