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褒美

「命の恩人たちよ。本日は娘を助けていただき感謝する。」


 部屋から王の間に呼ばれ案内を受けながら到着し王座の前で頭を下げると王に声をかけられる。

 入っていきた扉には兵士が二人いる。騎士の人たちとは装いが違うので騎士というよりは兵士って感じか。騎士と兵士の違いなんて分からんが。

王座の前に赤いカーペットがまっすぐに扉と王座をつないでいる。周囲には騎士たちがおりアーク騎士団長の姿も見える。

 王様は見た感じ王様って感じの装いだった。服装はトランプで言うキングのマークのような服で、王冠をした白髪白髭の中年男性。中年なのに白い髪とは…苦労しているんだな。

 そのそばに姫や姫に似た王妃と思われる女性がおり、もう一人こけたほほに細い目。片眼鏡、モノクルをかけている妙齢の細身の男性がたっていた。

 一応頭だけは下げたが特に形式ばったものではなく礼儀作法にうるさくなかったのは良かった。跪いたり騎士風の礼をしたりなどのことをいくつかの物語の中で見受けられるシーンだったから、わからないのにそういう対応を求められても困るからよかった、一応聞いておけばよかったなとも思う、だって大臣みたいな側付きみたいなのがずっとこちらをにらんでいるから…。


「娘はよく城を抜け出してはどこかへ行ってしまうのだ。注意してはいるのだが年頃の娘は好奇心を抑えられんらしくての。今回に関しては貴殿らがいなければどうなっていたか…」


 よく抜け出しているのか。警備はどうなっているのかといいたいが言ったらどうなるのかわかりきっているので言わない。


「…父様、それ以上は…」

「ああ。すまない。…オホンッ。娘をたすけてくれたことの感謝として褒美を授けたいのだが何か求めるものはあるか?」


 褒美か…褒美ねぇ。どこまでなら可能なんだろう。大臣らしき人は余計にこっちをにらんでいる。余計なことは言うなと目で語っている感じだ。

 といってもこの世界にきて求めることなんて特に思いつかないのだが。どうしようか。

 枢のほうも悩んでいるようだ。


「少し考える時間をあたえてあげられませんか?」


 そう姫が王様に言った。

 特に思いついていないところをみていってくれたらしい。

助かった、金とか言ってもこの世界での貨幣価値がわからないのでもらっても困る。

 ほかのものですぐに思いつくこともなかったのでその提案をのんでくれると助かる。

 枢はいらないとかいうと思ったのだが…。


「そうだな。今日一日考えるとよいだろう。それまでは城を自由に使ってもらって構わない。わからないことは先ほどの使用人に面倒を見てもらうことにしよう。それでは下がってよいぞ」


 そうして王様との対面は終わった。





 その後は夕食を食べているところにベル姫が来た。案の定出自を聞かれたが考えていたものを伝えた、夕食後は風呂を貸してもらうなど、この世界では豪華であろう時間を過ごした。

 そして夜も更けてきたところで空き時間ができた。メイドの人に図書室の場所を聞き向かうことにする。この世界のことを知るためだ。

 だが。


「……読めない」


 問題が発生していた。


「言葉は通じているのに…なぜだ。」


 言葉が通じているからといって書いてある言語まで一緒とは限らないことになぜ気が付かなかったのか。

そういえば、こちらの世界にきてから言葉のことについて考えたことがなかったな。

 まぁそのことについてはもう仕方がないとしても、読めないという問題に対してどうするか。

 言葉を覚えるなんてことは簡単にはいかないことは明白だ。英語の点数もそんなに高くはない、平均ぐらいかな。しかし、学校の教科書は0から100を作り出すことが1の積み重ねでやっていくのに対して、今の状況では積み重ねではなく100をその場で作れと言われていることに等しいだろう。


「どうするか……」


 この世界で生きていくとしたら必要になってくることだが今は無理だろう。

 これもよくある展開だが、こういった世界では識字率ってのはあんまり高くなかったりする。学校ってのが当たり前の世界ではないからだ。

自分一人でやるのならばぼちぼちだな。


「童話みたいなのでも借りてくか」


 それでも早い段階でやるに越したことはないだろう。

 童話なら言葉もそんなに難しくないだろう。眺めるだけになるが何もしないよりいいだろう。今後も使っていく言語だし。その時にでも褒美を考えておくか。


「えーっと…童話っぽい表紙のものは……」



「こんなところにいたんだね」


 それっぽい本を本棚から取り出したところで後ろからそんな声が聞こえ振り向く。


「なんだ、あんたか。どうしてこんなところに?」

「いやなんとなく君を探していたんだ。」


 なんか用でもあったのだろうか。いや、なんとなくといっているから本当になんとなくだろう。特に意味なんてない。


「なんでこんなところにいるの?」

「この世界のことについて知りたくて調べものをするつもりで来たんだが……」

「…ん?どうしたの」

「読めない」

「…………え。読めないの」

「ああ、俺には読めない」

「それなら私にも無理かな」


 そういいながら俺の手に持っていた本をとり眺めている。しばらくパラパラとめくっていると。


「あれ?私、これ読めるよ」

「…………は!?」

「これは童話だね。英雄譚が書かれているものかな。…あれ、なんで読めるんだろう。」


 本当になんで読めるんだ?俺が読めないものを枢が読めるのはどういうことだろう。枢との違いなんて……あぁそういうことか。


「あんたが神様からもらった加護の一部ってことか」

「…あぁ!そういえばそんなのがあったね」

「同じ異世界人の俺らの違いはそれが真っ先に思い浮かぶからな。加護の特典であんたが暮らしやすいように配慮してくれたんだろうな」

「君は…」

「お察しの通り。俺にはそういった加護はないってことが分かったな。もし仮に俺が神にあったことを忘れているだけだとしても同じ神じゃない」


 そういうことだ。良心的な神ではないのか、それとも単純問題で加護なんてものが俺には存在しないということになるのか。そういったものに興味がなかったわけじゃない。憧れにも似た何かがあった。そうでなければファンタジー系や異世界系ののラノベなんて愛読しない。その現実に少しだけ残念な気持ちになる。

だが、まぁ仕方ないな。俺にはどうしようもない話だ。枢と違って世界を、人を救いたいとは思わないからな。力を与える必要なんてない。生きるのに必要なものは欲しいがな。


「文字が読めないってこれからどうするの?」

「それが問題だがまぁぼちぼちやっていくとするわ」


 言葉が通じるだけでも良しとしよう。というかまじで助かった。これで言葉も通じないとかだったらどっかで野垂れ死にしていても不思議ではない。それを思えば本当に助かったといえる。


「そう。何かあったら頼ってくれていいから」

「ああ。そうさせてもらうよ」


 日本人の特徴である遠慮していくことはあるがこんなところで遠慮はしない。使えるものは使っていく。でなきゃこの世界では生きていけないだろう。


「そういえば。そっちは王様からの褒美をどうするのか決めたか?」


 俺とは目標が違う人間だが参考にする分には問題ないだろう。


「うーん。私は、アークさんが言っていた学校に行かせてくれないかなと思っているよ」


 褒美なんていらないというと思っていたが、学校か。学校で何をするかなんてのは聞かなくてもなんとなくわかる。だが、枢に関しては学校などに通わなくても簡単にモンスターを倒すこともできるだろうに。


「なんで学校に?」

「戦闘の技術を学ぶためかな。力はあっても技術がなければ一般人と何ら変わらないからね。神様も死ぬときは死んじゃうって言ってたし」

「…そうか」


 いわれてみればそうか。どんなに筋骨隆々の人でもボクシングなんかをやると負ける人は簡単に負ける。この世界ではモンスターとの戦闘での負けは死を意味しているのだから。現に俺は死にかけた。俺と比べるのは変だが人はどんな形であれ死んでしまう。枢にも言えることだ。ならば、技術を身に着けるしかない。それが枢の考えだろうか。


「ところで君はどうするの?」

「俺は……」


 そうだ。俺はどうすればいいのだろうか。目標なんてものはなく正義感も特にない。ならどうするのが適切な回答になるのだろう。

おそらく答えなんてものは存在しないのかもしれない。なぜなら未来なんてものはわからないからだ。ならどうするのか、俺は………


「俺も、学校に行くかな」

「うん。いいんじゃないかな」


 枢は笑顔でそう答える。

 異世界人である俺たちは一緒に行動していたほうがいいのかもしれない。なんてのは、建前で単純にこの世界で一人きりでいるのがさみしいのだ。

元の世界であれば簡単なことだった、問題なんて特になかったむしろ一人でもよかった。それは、その世界で生活できるだけの知識や金を持っていたからだ。今の状況は簡単に言えば無人島に漂流した感じだ。誰かがいるのといないのとでは安心感が違う。というのが半分

 もう半分は単純に異世界の学校に憧れていた。楽しそう。魔法とか使えんのかな。といった具合である。

 枢に言われるまで気が付かなかった。やっぱりこの世界にきて精神的に疲れているらしい。


「よし。とりあえず今後のことはあとは王様次第って感じだな」

「うん。そうだね。これで断られなければいいんだけどね」

「そうだな。……疲れたからそろそろ寝ることにするか。」

「うん。私もそろそろ寝ようかな」


 そういって二人は立ち上がり図書室を出ようとする。

 おっとそうだった。童話を借りていくんだった。寝る前に少し見よう。

 適当に表紙を見てそれっぽいものを借りていく。

 そうして図書室を出る。


「また明日ね」

「あぁまた明日」


 別れの挨拶をしてそれぞれの自室に向かう。

 眠気が出てきたのかあくびが出る。

 夜の王城の廊下を月明りが照らしている。

そんなこんなで俺の異世界生活1日目が終わり。これからの異世界生活が始まる。


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