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水嶋枢


門をくぐりぬけて街に入る。

 陰になっている門の下から日の当たる場所に入っていく。日の光が視界を白く染めていき視界を奪う。

 そして目の前に移るのは中世ヨーロッパのような石の道にレンガ造りの家屋が道なりに立ち並び、俺たちの近くを商人のような人が頭をさげて通り馬車が軽快な音を鳴らしながら重そうな荷物をひっぱり通っていく、道沿いにはおじさんの声や女性の声で客を呼んでいる場所もあれば、値切りの最中なのか軽くもめている様子も見受けられる。酒場のような場所では夕方なのもあり様々な人が酒に酔い騒いでいる。

 こちらの馬車を見るとみな頭を下げ道を開ける。

 しばらく進んでいると鎧やローブのようなものを身に着けている人も見受けられるそして鉄を打つ音が聞こえてくる。何かわからないが魔法道具のようなものを取り扱っている店もあるようだ。

 そして何より人に興味が移っていく。一見は俺の知っている人間のようではあるが違う点として頭の上には俺らにはあるはずのない耳がある人がいることだ。そしてしっぽも生えているようでゆらゆらと揺れている。そして鍛冶屋から出てきたのは小さい体格の筋肉質の体に無精ひげ、いわゆるドワーフのようなものたちもいる。

 本当に他種族がいるようだった。いい顔をしない人もいるようだが明らかに少数だった。


 いろいろな元の世界にはないものが目に入り続ける。見たこともないものに興味を惹かれるが自重する。


「「おぉ!!」」


 だが感嘆の声がもれてしまうのは仕方のないことだと思うので許してほしい。

 枢も同じように感嘆の声をもらす。

 ベル姫とアーク騎士団長はこちらの様子をほほえましいものを見るようにこちらを眺めていた。


 そしてしばらくして人通りが少なくなり王城の門の前につく。王城は元の世界の某ネズミの国の城のような見た目だった。尖塔をつなげたりしたような見た目。

大きさは少しこちらのほうが大きそうだ。

やはり城といえばこのような見た目になるのだろう。


 この国に入った時のように城前の門での検問を終えて中に入っていく。とうとう王城の中に入っていく。





「少しこちらでお待ちください」


 城に入るとたくさんの使用人たちと騎士の人たちがあわただしくしていた。

 姫が戻ってきたことによりあわただしくなったときは苦笑いが出た。そして王に面会するということになり汚れた格好の姫の準備や王をお呼びするということで別室に通されている状況だ。

 城の中はシャンデリアのようなきらびやかな装飾がたくさんあったり絵画があったりよくわからないツボがあったりする、馬車の時もそうだがキラキラしていて落ち着かない。ソファは高級そうな素材で馬車なんか目じゃないくらいのフカフカなものだ。


「ふぅ…とりあえず落ち着けるな」

「そうだね。いろいろあったからね」

「そうですね。いろいろありましたね。それより人がいなくなったことですし話の続きをしていきましょうか。」

「うん。現状私たち二人だけと考えるとそれぞれの情報が大切になるからね」

「といっても俺にはほとんどないからなぁ、今までのことを話すってことでいいですか」

「私のほうもそんな感じだよ。だから、そのほうがいいかな」


 というわけで俺たちは今までのことを話し合っていくことにした。


「とりあえず俺から始めますね。俺は火神(かがみ)勇人(ゆうと)といいます。この世界に来るまでは普通に高校の二年生で17歳、知っての通り帰宅中に女の子を助けに入って車にひかれてからの意識はないです。気が付いたら森の中にいて、女の子、ベル姫ですね。の悲鳴を聞いて駆け付けて何もできずにぼろぼろなところをあんたに助けてもらったって感じですね」


 自分の説明をしていたがなんか全体的に何もできていない感が否めない。ほんとに役立たずだったなと自分でも思う。

 枢は黙って聞いていると思っていたがどこか不思議そうな顔をしている。

 この世界にきてしまったことが疑問ではあるが今更ではある。なら何に疑問を持っているのだろうか。


「何か変なことありましたか?」

「うーん…私と違うなと思って」

「違う?何がですか」

「ん~…私の話を聞いてもらったらわかるかな」


 どういうことだ?何を言っているんだ?言っていることはわかっているが、違う?違うとは何がどのように。

 同じ状況で違う人間がいるという状況が頭の中を困惑がしめていく。がそんな俺をおいて話をし始める。切り替えろ切り替えろ。


「私の名前は水嶋(みずしま)(かなめ)。同じく高校二年の17歳だから敬語じゃなくていいよ」


 同い年だったのか。新入生と3年を比べればわかるが中途半端な時期の高校生なんて誰がどの学年か見た目で判断することは難しい。

 敬語じゃなくていいのなら変えるか。どうせほとんどかかわることはなさそうだしな。


「わかった」

「それじゃあ続けるね。私が放課後にバイトに向かっているときに女の子を助けて車にひかれちゃった。ここまでは君も知っているよね」


 バイト先に向かっていることは知らなかったがそこからは自分と同じなのでうなずく。


「一回目に私が気が付いたのは真っ白な空間だったんだ」



☆★



 目の前がどこまでも白くなっている空間で目が覚めた。おそらく死んでしまっただろう。

 事故後に記憶が混濁するというのはよくあることらしいがどうして私が死んでしまったのかはよく理解している。

目立った特徴のない彼はどうなっただろうか。わからない、わかるはずがない。


 ここが天国だったならいやだな、などと考えながらあたりを見渡してみる。特に何もない真っ白な空間が広がっているだけだった。不思議な空間だ。


「おーい」


 特に意味もなく声を発してみるが反響するわけでもなく、山彦のように音が返ってくることもない。

 が


「呼んだかな?」

「うわっ!!」


 自分の背後から声が聞こえたことに驚いて大きい声が出るが相変わらず音の反響はない。

 振り向いてみるとこっちを向いた上下さかさまの顔だけが視界に映った。


「お化け?」

「クスクス…お化けとは失礼だな。よっと」


 着地した人物なのかな、はさかさまになって宙に浮かんでこちらを見ていたらしい。視界に映らなかっただけで体はちゃんと合ったらしい。

 その姿は女の子のようであったが宙に浮かぶ女の子なんて知らない。

 水色の髪に左右で色の違う瞳左が翠色で右が深い蒼色。オッドアイというものだろうか初めて見た。真っ白い服を着ているかわいらしい女の子だ。


「お化けじゃないの?」

「違うね」

「それじゃあ何」

「ん~神様って言えばいいのかな」

「………………ん?神様?」

「そう。神様」

「神様か…すごいね。それで本当は何なの」

「子供のおふざけだと思っているね」

「うん」


 そりゃそうだよ。突然神と名乗る女の子なんておふざけだと思わないほうがおかしい。


「信じてもらうにはどうすればいいのかな…」


 女の子は首をひねっている。

 神様といってもどんなことをできれば神っていう定義がないことを考えると中途半端なものをやっても手品になりかねないとは思う。でも信じてもらうために行動をしだした時点で信じることにしよう。浮いていたし。

 そうかんがえながら女の子の行動を待つ。


「今できるのはこれぐらいかな…」


 すると女の子の体の端からレトロゲームのように細かいドットの集合体になっていく。

 体の端からバラバラになって作り替わっていく。胸ぐらいだった身長の高さのドットが自分より少し大きいぐらいの大きさにかわる。

 造形が整っていく。指先や足の先からだんだんと体のほうへとそしてとうとう顔も形が作られていく。


「ふぅ…こんな感じでどうかな」


 髪の色や目の色に変化はないが身長や顔の雰囲気が大人になっていた。みたかんじでいうと二十代前半ぐらいかな。女の子が大人になっていた。澄んだ声には聴く人を魅了するかのようである。

 宙に浮かんだり見た目が変化したりと本格的に信じることにしようと思う。


「ほかでいうと、どうしようかな~」

「あぁ…はい。信じることにします。口調とか変えたほうがいいですかね」

「信じてもらえたならよかったよ。口調は特に変える必要はないよ」

「そう。じゃあこのままにさせてもらうね」


 そして神様は先ほどの巻き戻しのように女の子に戻った。


「なんで女の子に戻るの?」

「ん?うーん……趣味?」

「へぇそうなんですか」


 自分で質問しといてなんだが適当に相槌を打ってしまう。だって答えが変だったんだもん疑問形だし。


「あなたが神様なのはわかったけどここはどこなの?」

「ここはね天界だよ。この世界の人たちはアオ・アクアって呼んでいる場所だね」

「天界?アオ・アクア?」


 それよりこの世界とは何だろう。まるで異世界にいるような言い方なのが気になる。


「そう。これから君が生きていく世界での呼び方だね。天界っていうのは君たちの世界風に言うと天国っていえば伝わるのかな」

「これから生きていく世界?天国?……あのよく意味が分からないんだけど……」

「まだわからないかぁ。しょうがないか…ん~と、君は死んでしまいました。理由についてはわかっているよね。で、なんで君がここにいるのかというと私が呼んだからだよ。とくに目的はないんだけど目的をつけるとしたら。面白そうだったからかな。」


 笑顔で答えてくれるが言葉の意味が分からないわけじゃない。理解できないのだ。理解したくないともいえるかもしれない。


「君をこれから異世界に転生させるよ。転生といっても歳はそのままだから。人生の延長戦と考えてもらってもいいよ。元の世界に帰るとかはできるかもしれないしできるかもしれない。向こうでは命が終わっているからね、何か方法はあるかもしれないけれど、私からは教えないから自分で探してね。ここまで大丈夫かな」

「…アァハイダイジョウブデス」

「大丈夫じゃなさそうだけどごめんねもう決めちゃったんだ」


 とても明るい子供にしか見えない笑顔をどこか遠い目で見つめる。

 空がきれいだな。空なんてないけど…


「でも君にとっても悪い話じゃないと思うんだ。君が行く世界には魔物と呼ばれる異形のものたちがいてね人々はそれと戦ったりしながら生きているんだ」


 その話を聞いたときに私は何かの感情がうずくのを感じた。その正体はわからない。だが無視できるものではないということだけはわかる。

 そしてこの気持ちの正体を知っているのであろう神様はこちらを見て微笑んでいる。がどことなく悲しそうに見えた。

 かける言葉が見つからずに今の気持ちを素直に言うことにする。


「私はその世界の人を守りたい」

「…そういうと思っていたよ」


 特に向こうの世界には未練と呼べるものはない。将来の目標も定まっていなかった。大好きだった両親は事故で亡くなっているし兄弟姉妹はもともといない一人っ子だ。友人のことは気になるが死んでしまった自分にはどうすることもできない。「ごめんね」そう心の中で謝っておく。

 どこか慈愛に満ちた笑みを浮かべる神様。その笑顔に見とれそうになった、間違いなく女神のようなその顔に。


「よし。それじゃあ君に加護をあげるね。どんな効果になるのかはきみ次第だけどそこは勘弁してね」

「わかった。ありがとう」

「でも加護の力を過信しないでね。…死ぬときは死ぬからね」


 その顔もまた悲しそうだったがすぐになりをひそめる。


「それじゃあ。いくよ」


 体を光が覆っていく。

 そして光が体の中にしみていくように入り込んでいる。でも嫌な感じはせず。体の一部のような感覚がする。


「はいこれで終わりだよ。私の加護との相性がいいね。すごい加護になりそうだよ」

「何も変わった感じはしないけど…」

「そりゃそうだよ。すぐにってわけにはいかない。馴染むまでに時間がかかる。だから向こうに行っていきなり無茶なことはしないでね。それと加護の力を過信しないこと」

「わかったよ。ありがとう」

「うん。それと餞別を一緒に送っておくから。じゃあ心の準備は良いかな」

「大丈夫だよ」


 すると私の後ろにどこまでも続く光の柱が昇る。床には幾何学的な文様と何かの文字が描かれており青白く光を放っている。


「それじゃあその中に入って。それで異世界に行けるよ」

「うん…。また会えるかな」

「運が良ければね」


 笑って見送る神様に少しの間の会話だったがさみしさが少しだけ出る。そしてこんなところにずっといるのかな。と疑問に思うと心配になってくる。


「もう一ついいかな…?」

「ん?なんだい?」

「君の名前は何かな」

「そうだったね私の名前はネーヴェ。また会えるといいね、枢ちゃん見守っているよ」


 ネーヴェちゃんの笑顔を最後に私は光の柱の中に入っていった。

 体が浮かぶ感覚がして視界が青白い色にそまっていった。



☆★☆



「で、気が付くと森の中にいてベル姫様がはしっていたのを見つけて、助けを求められてから君とまた会ったって感じかな」

「なるほど。確かに俺とは違うな」


 枢の経緯はなんとなくわかった。俺とは違うといっていた意味もよく分かった。だが、俺はどうしてここにいるのだろうか。神などといったものには会った記憶などないし、忘れていたとしても加護などといった特殊な力を持っている感じもしない。持っていたらあそこまで簡単にやられないかもしれなかった。カチリと何がはまり冷静になることは過去にもあった、いつだったは思い出せないが。

生まれなおさせてやろうなんてことも聞いた覚えはない。


「なんで俺がここにいるのかはその神様とやらから聞かされていたりしないか?」


 おそらくそんなことはないと思いながらも少しの期待を込めて聞いてみる。


「ごめんね。そのことについては聞いてないや」

「いや、謝らなくてもいい。気にしていないわけじゃないがわからないなら仕方がない」


 案の定知らないらしい。本格的に俺という存在のいる意味がわけわからんことになっている。やはり気にしないほうがいいのかもしれない、延命できるだけありがたいと思うようにするか。無理だろうがな。


「そういえば…」

「どうしたの?」

「俺らの出自をどうするのかってことを考えておかなきゃいけないと思うんだが…」

「…そういえばそうだったね。どうしようか」


 この国のことを知らないことが相手側にわかっていることから無知であるという状況で出自を考えていかなければならない。

 はっきり言って旅人という設定が一番無難ではある。俺たちが二人旅ではないのは昼の事件からわかってしまう人もいるだろう。無理やりそうすることもできるかもしれないが、怪しまれそうだ、だが一人旅といってもあんなモンスターのいるところに俺のような弱者がいるのはおかしいだろう。なら二人でいてはぐれていたといったほうがいいか?


「二人旅をしていてはぐれたってことにすればいいんじゃないか?この世界の人の顔の造りで言うと俺らの出自は同じように見えるだろうしいきなり異世界人ですといって伝わるわけがない」

「うん。そうしようか」

「とりあえずお互いに話を合わせるようにしてくれ」


 旅先の情報を知らない無知な人間など旅をするものとしては落第点もいいところだがそんなことぐらいしか思いつかないのだから仕方がない。

近くの村出身ですといっても村の名前を聞かれたりしたらアウトだし、なおさらこの国のことを知っていないとおかしいからな。


「どうにか頑張って合わせるよ。そういえば、あれからかなり時間がたったけど。まだなのかな?」


 確かにこの部屋に通されてから随分と時間がたったような気がするのだがまだ呼びに来ないところをみると王様ってのは準備に時間がかかるものだな。

 そういやベル姫も汚れていたからきれいにでもされているのかもしれない。女性の準備は長いっていうしな。実際にはそんな経験ないけど。

 と、枢の言葉を聞いて気が付いた。

 すると、噂をすればなんとやら。


コンッコンッ


「失礼します。準備ができましたので。王の間へご案内します」


 これから王様とのご対面のようだ。


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