馴れ
生きているだけの屍よ
お前に何ができる
何もせず
何物にもならず
なろうとせず
努力すらどこかに置き去りにしてしまった
生きているだけの死人よ
何かを得ようともがく人間、何かを得ることができた人間をうらやむだけの生きる屍よ
一体お前に何ができるというのだろう
答えろ
答えてみろ
答えられるものならな
「おい、聞いたか?昨日のSクラスのこと」
クラス内では一日中この話で盛り上がっている。
なんでも今年Sクラスに入った女子生徒が同じSクラスの男子生徒と試合になり一瞬で倒したとかなんとか。
その倒し方を目にできた人間がほとんどおらず、インチキや何かズルでもしたんじゃないのかと話題に上がることもあれば、普通に称賛している連中もいる。
気にならないといえば嘘になるが、どうでもいいという感情のほうが大半を占めているため敢えて聞きに行く気はない。
話せるやつもいないしな。
今日はオリエンテーションという名目の自由時間だった。
教員があれだからな
教室の隅で椅子に座りながら寝息を立てるぼさぼさ頭の教員の方を見る
ボケーっと時間が来るのを待っていると、ふと教員に近づいていく女子が見える。
入学式でFクラスの中で目立っていた女子生徒だったと思う。
「アイルちゃん、放っとこうよ」
「そうだよ、やめようよ」
取り巻き連中が止めに入るが笑顔で受け流しながら声をかける。
「先生そろそろ時間になります。その前に良ければ先生の自己紹介をお願いできませんか?」
隈が目立つ寝ぼけた眼で女子生徒、アイルさんを見上げる。
「ザイ、これでいいか?」
そういって寝に入ろうとするが、アイルさんは続けて話しかけ続ける。
先生個人の話から今後の授業の流れや学院の高等部からのルール等いろいろ確認していく。
寝るのを再開するのかと思ったが、想像とは異なり意外と律儀に返答を返していく。ただザイと名乗った先生個人の話についてはあまり話そうとはしなかった。
基本の授業の流れについては午前の大半が座学、目指すものが冒険者の場合には冒険者学と呼ばれる冒険者に必要な知識を学ぶ座学もあるらしい、時期によっては実習もあるらしい、そのほか魔法理論や算術をメインに行い、午後は戦闘術、魔法の実践や、近接戦闘訓練など基本は同時進行らしいが場合によっては専門的に学ぶことも可能だという話だが、Fクラスの場合はどうなるかわからないそうだ。
基本の授業ペースは六日授業、一日休みの一週間のサイクルだそうだ。
そして最後に今は始月いわゆる一月に当たるが二月末ごろには校内で所有しているダンジョンにもぐるためチームを考えておけとのことだった。
基本のチームは三人から四人組でチーム構成及びメンバーに関しては各自で決めておくようにとのこと、後日チーム管理のための書類を提出してもらうらしい。
結構しゃべってくれたなと思ったと同時に
「出たよ、チーム決め…」
ふと嫌な気分が言葉で漏れ出ていた。
☆
「見慣れた天井だ」
独特の薬品に似た匂いがする部屋で目が覚める。
「起きたか」
最近では聞きなれた女性の声が聞こえる。
いつものことだ。
「いつになったらお前はここを使わなくなるんだろうな?」
こちらもいつものお小言だ。
体を起こし寝ていたベッドから起き上がり声を発している人物を見る。
緩くウェーブがかった肩までの紺色の髪を少しだけ結わえ、着崩した白衣の女性が座っている。
最近お世話になっているここ、治療室の教員ヘンリ=アスル先生だ。
「俺にもわからないです」
こちらもいつもの定型文だ。
入学式から早一月が過ぎようとしている今、魔法の実習では必ずといっていいほど実際に魔法を行使する。そういった中で魔力の低い俺は一・二度魔法を発生させるだけで魔力枯渇状態になり気絶してしまう。
加えて実戦形式の訓練でも一方的にボコボコにされた挙句気絶、外傷は訓練場の機能のおかげで消えるが気絶までは治らんのでこうして治療室に運ばれるわけだ。
最初はクラスメイトが運んだりしてくれたらしいが最近では教員もクラスメイトも運ぶのが面倒になりこちらのヘンリ先生を読んできて運んでもらっている、個人的に今一番お世話になっている教員だ。
「ふぅ…最近ではお前の専属状態だぞ…全く」
「俺に言われても困るんですが」
「お前に言うしかないだろう。基本的にお前しか来ないんだから。お前たちの先輩連中も他クラスのやつらも練習ついでに自分らで治療したりしてるんだぞ。それに魔力枯渇で倒れるのは基本的にこの学院にはいない、お前を除いてな。だから私は基本暇だったのにお前が来てから仕事が増えたんだぞ。運んでもらう友人ぐらいできないのか…」
青色の瞳があきれたようにこちらを見る。
申し訳ないが俺のクラスでの立ち位置は大体決まってきた。
Fクラスの成績下位者、勉強は日本の基準からある程度ついていくことができているが、その分実技が致命的な現状なので友人は出来づらい。今度のダンジョンのチームも決まっていない。
「今後とも、お世話になります」
それが仕事だろとは死んでも言えない現状だ。
「バカタレ…とりあえず外傷はない。体調が大丈夫そうならさっさと戻れ、問題児」
あきれたような声を出し深く椅子にもたれかかりシッシと虫を追い払うように手を振る。
時間を見てまだ授業がある時間なので身なりをベッド横の机に無造作に置かれている上着をはおり治療室を後にする。
その時に「また来ます」といったら何か怒っていたが慣れた足取りで逃げるように無視して出てきた。
この学院にきて短い期間ではあるが信頼できる教員が一人でもいる現状はかなり助かっている。