入学準備
お久しぶりでございます。
コンコンコンッ
扉をノックする音が聞こえる。
浅いまどろみの中わかってはいても体が起き上がらず深いまどろみへと落ちようとしていく。
コンコンコンッ
「ユート君、寝ているのですか?」
弱弱しい気合を入れのそのそと上体を起こし、ドアに向かう。
頬が少し痛いが気にせずにドアを開ける。
「…はい、何の用でしょうか」
寝ぼけた声を出しながら今までドアをノックしていた人物へと声をかける。
立っていたのは一昨日の試験でお世話になった教師、グラス先生だった。
軽くついている寝ぐせに着崩れした服装、寝ぼけた瞼は教師を前にするにはいささか以上に不適切である。
だが、出てしまったのはどうしようもないのでとりあえず着崩れだけは直した。
「おはようございます、ユート君。ところでその頬の傷はどうしたのですか?」
そういわれて頬に手をやると、ザラザラとした感触がして少し痛みが頬をなでる。
「…気にしないでください」
気にするなとは言ったが、実際は自分でもよくわかっていないからなのだがそれは別にどうでもいいことだ。少し傷がついた程度で先生には関係がない。
この部屋を訪ねた理由を再度うかがうと、
「あなたのクラスが決まりました。そしてこの学園に入学するにあたって必要なものをいくつか持ってきました」
そういったグラス先生の足元には多めの荷物があった。
「わざわざ、すみません。ご連絡いただければ受け取りに行ったんですが」
「いえいえ、こっちにきたのはつい最近のこととのことだったので準備が必要だと思ったのでこちらからうかがわせてもらいました」
「そうですか。お気遣いいただきありがとうございます」
勝手に用意した挙句、なんで取りに来ないんだ。とまで言われていた昔に比べると少し不思議な感覚を覚えなくもないが、素直にありがたいと思っている。
荷物を渡され部屋の中へと置く。重かったので大変だった。
部屋の中に入ったときに気付いたのだが、抜き身の剣に薄く血の跡があったのでおそらくほほの傷はこれのせいだろう。これが首に深々と入っていたらと思うとゾッとした。
下手に寝落ちするときはちゃんと鞘にしまおうと決めた。もちろん今もすぐにしまった。
渡されたものはいろいろな教科書らしきものと制服一式、クラスを示すための黒に近い紅色の学院の紋章と縁取りがされたものを二つ渡された。一つは腕章のように少しゆとりがある制服用でもう一つはベルトやゴムバンドのようにぴったりと取り付けられるような運動服用だそうだ。基本的に右腕につけるのが一般的だが見えていれば特に指定はなく、どこにつけてもいいらしい。学外でははずしてもいいが、学院内や学院の予定で外に出る場合には着用が義務付けられているとのこと。紛失や損失した場合は申告すれば再度作成してもらうことができるらしい。
「ユート君は高等部のFクラスです。その色はFクラスの物です。学院内では一番下の階級になりますが今後の成長次第では昇級することもありますので頑張ってください」
グラス先生は黒に近い紅色のクラス章を指さしながらそういい微笑んだ。
色分けとしては上からS-白金、A―金、B―銅、C―青銅、D―紺、E-深緑、F-紅、となっている。
昇級することもある、ね。逆に言えば昇級しないほうが主ってことだろうな。それはひねくれすぎか?
「学院は昨日で一年が終了したので生徒は卒業もしくは進級をしています、新しく入って来る入学希望者の試験も終わっていますので次回は二週間後の四月の十日九ノ刻に式がはじまりますのでそれまでに来てください。式などの大きな集会は大講堂で行われますので教科書と一緒に渡した学院の見取り図の方を確認しておいてください。間に合うようでしたら帰省していただいても構いませんし、学院で勉学等に励んでいただいてもかまいません。問題を起こさないのであれば基本的に自由にしていただいて結構です」
二週間後の四月十日に大講堂ね。
王城にいたころに調べたのだが祝日などに関してはもちろん異なるが、そのほかのことについての日付の感覚は似たようなものだった。月によって異なるが一か月は大体三十日前後で、一年が三百六十五日かは計算していないがまぁ大体そんなもんだろう。もともと三百六十五日を考えながら一日を過ごしたことはないので興味ない。一日は二十四時間、時計の数字の配置も同じだったし、どの時間がどういった時間なのかも大体同じ。例えば十二時は昼食時とかな。いくつか違う点を挙げるとするのならば、分や秒などの概念自体は存在するが時計には存在しない。地球で言うところの短針のみで基本的に分や秒などは日常的には出てこない、時間の呼び方も一時、二時ではなく一ノ刻、二ノ刻という呼び方をし、大都市なんかでは七ノ刻、十二ノ刻、十七ノ刻でそれぞれ鐘が鳴る。人間考えることは異世界でも近いってことだろうな。
ここではどうなんだろうな、気にしてなかっただけでなっていたのかもしれない。
呼び方で言うと、一月を始月、十二月を終月と呼んでいることとかもあったっけな。
とりあえず学院の見取り図なんかはあとで見るとして、忘れないようにしないとな。
「わかりました。今回の訪問の要件はこれで全部ですか?」
「いえ、あと一点だけあります」
そういった。
荷物も受け取ったし連絡事項も俺の中では終わっていると思うのだが何かあっただろうか。
「こちらに持ち込んでいる手持ちの装備品があるようでしたら一度回収させてもらいます」
装備品を回収ね…。
なぜだろうかと質問をすると
「基本的にいないのですが消耗品の類であればいいのですが、武器や防具といったものの中に魔剣などといった特殊なものを持ち込んでくる生徒がいるのです。そういったものを持ち込んでくると盗難が起こりやすく紛失といったことなどが起こると大変なのです。そういった意味でもこちらで一度回収して誰のものだという証明をこちらに控えておくことでそのような高価なもの特有の事件を早期に解決するように努めているわけです。特にそういったものではなくごく一般的な武器や防具であればある程度期間はいただきますが魔剣などといったものより早くお返しすることができると思います。もちろん相応の処理はしますが。新しく購入したりした場合にも手続きをしますので、提出をお願いしています。他にも武器を帯剣する許可を出すというのもありますが、重要なのは前者になります」
やっぱり魔剣とかもあるのかってのは置いといて。
なるほどな、魔剣とかってのは貴族が家宝にしているものを使用していたり、大枚はたいて購入しているということが多いのだろう。これで学院側が何もしないようでは貴族からの圧力が鬱陶しいのだろう。
あとは単純に危険だということもあるのだろう。帯剣の許可ってのはそういうことだろう。
特に違反する気もないので部屋に引っ込んで鞘付きの剣をとってきて手渡す。
「ありがとうございます。ちょっと待っていてください」
そういうと一枚の紙を取り出し剣の鞘に張り付ける。
紙には幾何学模様の魔法陣が刻まれている。
「これに触れてください」
いわれるがまま、紙の魔法陣に触れる。
すると最近かなりの頻度で体験している感覚がした。
あぁ魔力吸われてるな。かなりの量吸われているので寝起きでよかった、これである程度使っていたら危なかった。目の前でぶっ倒れて心配されるとかは面倒だ。
まぁでも起きたばっかりなのに魔力を使ったせいで疲労感がすごくて非常に眠いんですけどね。
本当に俺の魔力少ないな。今更か。
「ありがとうございます。あとはこちらで処理しておきます。私が今日伺った理由は全部終了しました。何かご質問等ありますか?」
その後は特にぱっと思いつくものがなかったが思いついたものだけでも質問していった。
貴族ってのもいるだろうからどう接するのがよいのか聞くと基本的に学院内では平等でいいそうだ。校則でも決まっているようだ。それでも貴族としての権力を振りかざしてくるものもいるのでそういった人にはとりあえず無視しないで適当にあしらうようにとだけ言われた。教員たちも矯正しようとしているらしいが毎年そういった者が少なからず入学してくるらしい。
まぁ平等じゃなきゃ全力で斬り合いなんてできないだろうしな。
次にお金稼ぎに関しては適当なところでアルバイト的なものをやっている人もいるし冒険者ギルドもあるのでそちらに入って依頼をこなすのもありらしい。基本的に推奨しているのはギルドに加入することだが、基本的な規則はギルド内の指示に従うようにとのこと。そして一番重要なのが死亡した場合には関与できないとのことだった。なのであまり自分の力量に合わないことはしないこととしっかり情報を集めてから依頼を受けるようにとのこと。パーティーを組んでもいいし経験者に教鞭をとってもらうのもよしソロで活動するのもよしの基本的に自己責任の世界に入ることになるようだ。
寮の注意点については基本的には暴れるなってことと物を壊さないようにということ部屋の掃除は自分でするようにと食堂は利用時間が決まっており基本無料で一部有料で食べることができるが時間外は入室はできるが食事は出てこないので自分たちの部屋で買ってきた食材を調理して済ませるようにとのこと。
寮以外にも学院内にも食堂はあるが規則は一緒らしい。
利用時間は6ノ刻から9ノ刻まで、11ノ刻から14ノ刻まで、17ノ刻から20ノ刻までの朝昼晩の3時間ずつになっている。長期休みなどは開いていないとのこと。
学院が始まるまでは自炊か外食ってことね。金足りるかな。
一応今思いついた聞きたいことはすべて聞くことができたので礼を言うと帰っていったのを見送った。
「さて」
部屋の中に戻り鍵をかけなおし先ほど渡されたものの前に立つ。
やることとしては地図の確認と教科書が読めるかどうかの確認、それとクラス章をつけること、外に出るときにはずすとか別に気にしないし面倒なので基本的に着けっぱなしにするだろうから早めに着けとく。
「とっとと始めるか」
そういってクラス章とケースから出した戦闘服を手に取りつける。
制服はハンガーのようなものにかけ、見えるところにかけておく。
教科書に関してはラックのようなものがあればよかったのだが、あいにく買ってきていないし百円ショップがないので面倒だ。
そういえば教科書を持ち運ぶ用の荷物入れを買わなければいけないことも思い出す。だがすぐに同行できないので教科書の整理に戻る。
ある程度確認したものから机の引き出しに突っ込んでいく。
確認したところある程度は読めるがまだ読みづらいところも多いので文字の勉強は続けなければいけないようだった。
教科書の確認に時間がかかり最後に学院の地図を机の上に広げるとやっとひと段落した。
外を見てもまだ日が落ちる時間ではなかったのでいつも通り文字と魔法の本を読み勉強を始める。
気づけば日が暮れており思い出したように筋トレの準備を始める。
異世界にきて自由気ままに生きていくような奴もいる。だが今の俺にはそんな甘いことは起こらないらしい。
「あぁ、本当に……」
―――面倒だ
大変申し訳ございません。
死んではいないです。はい、かろうじて
前回のお話で1,000PVを超えておりました大変ありがとうございます。
こんなサボりクソ作者ですが頑張って生きていきます。
よろしくお願いいたします。