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勇人と白

 聞こえた声に落ちかけた瞼が開く。

 いつもと同じ制服姿の枢がたっていた。


「あぁ、あんたかすまん。この辺にはきてなかったから買い物ついでによってみたら意外と心地よくてね」


 瞼は開いても眠気の取れない頭で適当に返事を返し事情説明のような言い訳のようなもの枢に話す。


「そうなんだ。眠いのなら寮に帰ったほうがいいんじゃない?」

「そうするよ」


 俺の状況をみればごくごく当たり前の言葉を素直に受け止め返答しておく。

 荷物をまとめていると次第に目が覚めてくる。目の覚めた視界で枢を見ると視界の端に真っ白い人がいるのが映った。


「その人は?」


 気になったわけでも興味でもない至極単純な疑問。

 昨日の今日で枢と一緒にいるところを見るとルームメイトだろうと予想は立てられる。

 白く透き通った肌に光を反射して銀色にも見える白金の長髪。


 そういや、いろいろ見て回ってみたが黒髪黒目は枢と俺しか見てないな。ファンタジー

色もいるが基本的には茶色と金色の髪、もしくは青っぽい色が多かった。


眠たげに開いた半眼の瞼の奥に深い蒼色の瞳。身長は枢が俺より少し低いぐらいでほぼ同じ、その枢の肩ぐらいで小さめ、軍服を学校用のデザインや雰囲気にした感じの白い服は学院の制服だろうか。

女性としての全体的な凹凸は少ないが幼女体型というわけでもなさそうな感じ。いや幼児体型だな。

 優し気な雰囲気を醸し出す枢とクールな雰囲気の子、この美少女二人が並んでいると絵になる。


「あぁ紹介するね。この子は私のルームメイトのシュネーちゃん。シュネーちゃん、こっちは同郷のユート君」


「ども」

「…ん」


 お互いに軽く挨拶を交わす。

 ふと風が強く吹いた。

 風に流される髪の毛が日の光を受けた光沢で銀色にすら見える。

そんな髪の色に見とれたのは内緒の話だ。

 だからかもしれないふと目がいったのだ。

髪の隙間から気づくか気づかないか程度の小さな突起が左右の耳の上あたりにひとつずつ…。

 なんとなく思いつくのは——


「…角か?」

「……!」


 聞こえないようなつぶやく声をシュネーという女の子は聞き取ったのか眠たげに開いていた瞼が一瞬ピクリと動いたような気がした。

 次の瞬間にはそれは影も形もなくなっていた。

 気のせいとも思ったが先ほどの反応をそんな気がしただけではないとするとそれはあったのだろう。だが反応があった後、すぐに見えなくなったことを考えると隠しているのではないかと思う。気のせいという可能性も消えていない、むしろそちらのほうが俺の中での信憑性が高い。


 まぁ、深く詮索する必要はないな。


 そこまで考えたところで思考を戻すと、シュネーという子は踵を返していた。


「…シュネーちゃん待って」


 風で少し乱れた制服を直しながら枢が呼びかけ、後を追う。


「勇人君またね。……あぁ、そうだ」


 ふと立ち止まりこちらを振り返り何かを言おうとする。

 何かあっただろうか、と疑問に思う。


「私の名前は枢だよ」


 いまさら何を言っているのだろうか、そんなことは知っている。


 …いや、なるほどそういうことか。

 俺は今まで枢のことを「あんた」としかよんでいない。つまりはそういうことなのだろう。

 たぶん、おそらく、きっと。


「またな、…枢さん。」


 枢は手を振り去っていく。

 呼び捨ては難易度が高かったのでさん付けで。


「帰るか」


 まとめた荷物を持ち上げ寮へと戻る道を歩く。





 寮の自室につき荷物を整理しているといつの間にか部屋に差し込む光は夕焼け色になっていた。

 照明用のパネルに触れ魔力が抜けていく感覚がして点いた明かりが部屋を照らす。


「さてと」


 荷物の整理が一通り終わりこれからどうするかを考える。

 現状のステータスでは心もとない。

 今までやってこなかった筋トレをしていくか。あとは素振りもだな。ランニングもするか、走るのは公道とかよりも結構植物の植えてある学院区画を走るほうがいいかもな、でも厄介な人間や場所に行かないとも限らないし、いろいろわかってからのほうがいいか。…いやぶっちゃけ単純にやりたくない。

はぁ、そうもいっていられんか。

そして魔力についても考えなきゃな。


 魔力を使って倒れるとほかのことができなくなるので一通り筋トレを済ませる。

 胡坐をかき魔力を鍛える方法を考える。


 そういや魔力ってどうやって鍛えりゃいいんだ?

 部屋の中で火の魔法を使って火事なんてシャレにならない。


 家具に魔力を流すのもいいがある程度の魔力しか流れていかないことを考えると普通に魔法撃ったほうが効率がいい気がする。

 そもそも魔力量が上がらないとかないよな。


 たいしてない異世界知識の中から何かないかと考えてみる。

 よくあるのが魔力がどうやって体の中をめぐっているのかを感じ、理解することで魔力操作の精密性を上げること。

体の中を意識して循環させることで閉じている回路を開けたり通り道を広げたりすることで上げる方法。

 魔法を撃つのではなくて発動させる、例えば俺の火の魔法であればチャッカマンやマッチみたいに危なくない範囲でつけ続け、使用することで魔力を消費していき魔力量の上限を上げる方法。


 無い知恵でぱっと思いつくのはこんなところだろうか。


 そういや魔力操作といえば、魔力を体にまとわせることで身体能力を強化する身体強化系のやつなんかもあるな、ほかで言うと最もメジャーなのが自分の扱う武器に魔力をまとわせて切れ味や破壊力といった攻撃性の特化や魔法属性の追加だな。


 そこで浅はかな考えが浮かんだ。


 魔力をまとわせて素振りすれば効率いいんじゃないのか、と。


 まぁまずは魔力を理解するために修学旅行で行った座禅体験の時のような体勢をとり体の内側に意識を集中させる。

はっきり言うとよくわからなかった。


 わからないなら実践だろうと壁に立てかけてあった剣をつかみ取り鞘からだし、抜き身の状態にする、魔力をまとわせるイメージをしてみると特に何も起こらなかった。

 ただただ魔力が流れていく感覚がして、ヤバいなと思う一歩手前であきらめた。

 その後、魔力を消費したことによる倦怠感と睡眠欲に負けて倒れた。


 後の俺は思う、そういったことができるのは俺のような一般人ではないのだと。

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