枢と白
お久しぶりです。
遅くなってしまい申し訳ございません。
◇男子寮前 水嶋枢
「では、カナメさん。女子寮へ案内します」
勇人君の住むことになる男子寮の前で、勇人君と別れる。
男子寮と女子寮は分かれているんだね。
高校には家から通っていたのだが、両親が事故で亡くなってからは小さいアパートでほとんど寮生活に近い生活を送っていた。
でも実際には寮生活というものを知らないので、寮というものがどういったものかはよく理解していない。
二人部屋…か。どんな人と一緒になるのかな。それとも勇人君と同じで、私も都合上一人部屋になるのかな。
寮のことを考えながら先生のあとを追いかけ、石畳の道を歩いていく。
道の端には等間隔に刻印の施されている魔法道具なのかな?の明かり灯っており、夜の帳を光が照らし視界を確保している。
元の世界ほどの明るさはないが、それが星と月の明かりを邪魔せずに、見上げる星空が映える。
かすかに聞こえるのは、この国に住んでいる人々の話声。
本当に魔物という脅威のある世界とは思えないほどの楽し気な声に、自分がこの世界に来た理由を忘れそうになる。
この世界には脅威となる存在がいることはこの目で確認し、戦闘をして倒したことで確かに覚えている。
ネーヴェちゃん。私は、この世界に必要なのかな。
いや、だめだ。落ち込んでマイナス思考になっても意味はない。
そう言い聞かせることで気持ちを落ち着かせる。
この世界にきて人を、勇人君やベル姫を助けることができた。
この学院の試験では自分の能力の高さを知った。
たった二つ。だが今までの自分にはなかったもの。だからかもしれないが、今の自分にならばなんだってできるような気になっていたのかもしれない。
でもそれは違った。先生にはあんなにあっさりと負けてしまった。
経験の差といってしまえばそれまでだが、そうじゃないのだろう。
加護なんてものをもらっておきながら負けてしまったことが、自分の中に芽生えていた自信を折るのには十分だったのだ。
「………つよくなりたいなぁ」
もっと…もっと強くならなければ。そうでなければ、だれも守ることはできない。
そのためにも、この学院で力をつけていこうと心に決める。
「どうかしましたか?」
前方を歩いている先生につぶやきが聞こえていたらしい。
「いえ、なんでもありません」
「そうですか。そろそろ女子寮につきますよ」
少しだけ視界に映っているのが女子寮だろうか。
少し歩いたところで建物のすべてが視界に入る。
見た目は男子寮といわれていたところと大した変化はないように見える。
先生のあとをついていき門を通り過ぎる。
門の柱などの要所要所に刻印が施されているのは警備用の魔法か何かだろうか。
これらが警備用だとしたら、男子寮の時とは違って、女子寮のほうは少し警備を厳重にしているのかもしれない。
「では、こちらが部屋の鍵です。結果は後日お知らせします」
「わかりました。ここまでありがとうございました」
ここまでの礼を言うと先生は去っていく。
そういえば先生方はどうしているのだろうか。と疑問に思うが、家か先生用の寮かそれぞれの寮にいるのだろうと寮に足を踏み入れる。
部屋の前にたどり着いた。
寮の中は街灯とは違った明かりが設置されていて、外のものよりも明るかった。
内装はホテルに近いような気がするが、いろいろと違っている感じかな。あくまでも似ているといった感じ。
部屋の鍵穴に鍵を入れ、部屋に入る。
夜のこの時間に明かりがついていないので、やっぱり一人部屋になるのかなと思っていると
ガチャリと入ってきた扉の少し離れた位置にある扉が開いた。
「…えっ」
そこから出てきたのは真っ白な女の子だった。
濡れた腰まである白金の髪、深い青色の瞳。白い肌がとてもきれいだった。
だが、声が出てしまったのはきれいな女の子だったからでも、人がいたことにでもない。
その子が一糸まとわぬ姿、つまり裸だったからだ。
「うわっ…ご、ごめんなさい」
とっさに謝り顔を背けるが、もうすでに見てしまったのはどうしようもない。
女の子同士なのだから大丈夫という話ではなく、初対面に裸を見てしまうのは相手も嫌だろうと思ったのだ。
「……誰?」
そう思っていたのだが、それについて女の子は無反応で私が誰かということを聞いてきただけだった。
顔を背けるのをやめ視線をもどすが、すぐにまた視線を外す。
「そ、その質問にはちゃんと答えるので、とりあえず服を着てください」
☆
「…はぁ」
今日の試験よりも先ほどの出来事のほうが精神的に疲れてしまった。
今はあの女の子が着替え終わるのを待っている。
今までいろいろあったけど一番びっくりしたな。
きめ細やかな肌を流れる水、身長が少し小さめで少し凹凸が少ないが引き締まった体。
先ほどのことを考えている自分に気づき、顔が熱くなる。
「……終わった」
着替えが終わったとのことなので、改めてご対面である。
「ごめんね。見ちゃって」
思い出すと、関係のない自分が恥ずかしくなってしまうが、ここは礼儀として謝る。
「…ん……別に」
特に表情がないので、今どう思っているのかがよくわからない。
なんか不思議な感じのする子だな。
ふと視線を感じ、白い女の子を見るとこちらをじーっとみていた視線が合う。
「あの…どうかしたかな」
「…………あなたは誰?」
「ああ、そうだったね。ごめんなさい。私の名前はみ…違うか。カナメ=ミズシマです。新しくこの学院に通うことになりました、ルームメイトになるのかな。」
簡潔に自分の紹介をする。元の世界の名前の表記とは違うので、間違えてしまいそうになった。
ベル姫ちゃんたちの時はどうなっているのかわからなかったから、気にしていた分間違えなかったんだけどね。
「あの、君の名前を聞いてもいいかな」
「…ん…私は、シュネー」
少しの間をおいた後に、名前を言ってくれる。
さっきから、話すときに間が開くのは癖なのだろうか。
それにしても、先ほどの件からもそうだが、あまり表情の動かない子だな。声のトーンにもあまり変化がないし。
あんな会い方をして、ニコニコ話しかけてくるのもどうかと思うのだけれど。
あんまり何を考えているのかわからない子だな。
勇人君もほとんど表情に変化がないけど、変わったときはすごく表情が出るから面白いんだよね。
それは、今は良いとして。私の質問に答えてくれているってことは嫌われてはいないのかな。
「シュネーちゃんだね、ありがとう。これからよろしくね」
「…ん、よろしく」
そういって立ち上がり、ベッドに向かうシュネーちゃん。
あぁ、そうだ。
「あの、明日暇かな?良ければこの辺のことを教えてほしいなって思ったんだけど……買いたいものもあるし」
背中に向かって話しかける。
さすがに気やすすぎたかな?
まぁダメだったら一人で適当に歩いてみるかな。でも、できるだけ仲良くしていきたいと思っているからダメでも交渉してみよう。
ベッドに向かっていた体をこちらに向ける。
「……めんどくさい」
そりゃそうだよね。
でももう少しお願いしてみよう。
「そこをなんとか、ルームメイトだし仲良くなりたいな。と思うんだけど…」
頭を下げて再度お願いをしてみる。
このお願いは、かなり自分本位だというのはわかっているのだが、こういった場面を活用できなければこの子とは離れていきそうな気がするのだ。
相手の顔を見ようと顔を上げる。
「……わかった」
少しの間が開いて、返答してくれる。
やっぱり表情が変わらないので、どういった感情で許可してくれたのかが、わからないが。
「ありがとう。助かるよ。」
それを聞いて、ベッドに向かい中に潜り込んでいった。
二段ベッドの下にもぐっているので、私は上を使えばいいのかな。
「それじゃ私は、お風呂に入ろうかな」
入ってから考えたのだが、タオルなどはあったものを使わせてもらった。
いろいろと明日買わなきゃな、服なんかも制服しかないし。
入っている間に王様から渡されていたお金で買うものを思い描いていく。
シャワーなどのものはパネルのようなものがあり、触れるとふちが光ると動作するようになっている。
ほかのものも基本的にそういった造りになっていた。
この学院では魔法を中心にいろいろなものが作られているようだ。
そうして部屋を見て回ったり、明日のことを考えたりしたあと、二段ベッドの上のほうへと上がり眠りにつく。