友人と趣味で仕事を
妹とちちくりあいたい
休憩時間や昼食中を利用し、今の時点で大和に教えるべきことは一通り教え切った。
放課後お互い部活動に所属していないので、一緒に校門へと向かう。
「じゃあ家に帰ったら色々試して見るわ!」
「今日からネトゲライフを満喫してね。じゃあ僕バイトあるから。それじゃあね」
「おう!、じゃあな!」
元気な奴だなぁ。
あいつは別れを告げると、すぐさま身を翻し走り去ってしまった。
バイト先に向かう途中、同じ職場で働いている同級生の、島田 美玲が遠目に見える。
「おーい、島田〜」
「ん?おぉ〜これはこれは、海陸さんではありませんか〜」
「相変わらずだな、その口調。どうにかならないのか?」
「いやはや、これは失礼を致しました。すみませんね〜、これは私が親しいと思っている人への友情表現のようなものですから」
「はぁ、そうなんだ」
島田とはバイト先の商店街にあるカフェで知り合い、今ではちょっとした世間話をする間柄だ。
島田はいつも肩まで伸びた髪を後ろで結って、顔付きもみてくれも整っており、美人だと思える人物である。
身長がほぼ同じくらいだから、同じ目線で会話ができる。
だがキツネに似た作ったような笑顔と商売人のような喋り方。
まぁ、これが好きって人もいるのだろうが、僕にはどうにも島田が嫌いというわけではないが、慣れない。
歩みは止めずに話を続ける。
「島田ってさゲームやったりするのか?」
「あなたの方から私のプライベートを聞いてくるなんて珍しいですね。はい、そうですね、二日に一度は必ずやりますよ」
「やっぱり島田でもやるんだ」
「それがどうかなさいました?」
「いや大したことじゃないんだ。ところで、なんで二日に一回?」
僕は一週間に七日…毎日、必ずログインはしている。
「それはですね、私と友人何人かで運営してるサイトの情報更新や、編集作業がありますから」
「あ〜、島田って多忙なイメージがあるからなぁ〜」
「忙しくはありますね。最近様々な経営者の方達と契約をして、広告とホームページのデザインを行なっておりますから」
「…えっ?」
「ですけど、友人達とローテーションを組んでいるので疲労はたまりませんよ。それにゲームをやる時間も確保できてますし」
「お前なんで高校に入ったんだよ…」
どうやら、みてくれ通りの人物だったらしい。
情報世界においてどうやって信頼を得て仕事を掴んでいるのかは永遠に理解できなくてもおかしくはないと思うが、何でカフェなんかでバイトをしてるのかが気になってならない。
「おやおやぁ?どうしたんですか?どうやら困惑気味のご様子」
「しまだぁ、それ分かって言ってるだろ。人を笑いやがって…」
「ふふっ、貴方と話していると大変リラックスできて楽しいですね。…今貴方が思っている疑問に答えるとすれば、こう答えればよろしいでしょうか?マスターと、バイトとして働く代わりに一部の情報限定で情報源となってもらうという契約を結んだのですよ」
……ゑ?表情から分かったのか?マジかよ…というか、
「マスタぁぁぁぁ!あんたもそっちの人間かぁぁぁぁ!!」
リアルにこんな奴らがいるのかと思い知らされた道のりだった。
◎◉◎◉◎◉◎
六時過ぎ、僕のパートが終わり裏世界の情報を知ってそうな…というか専門の情報なら知り尽くしているイカす口髭を生やした雇い主に挨拶をし、島田と一緒に店を出る。
今思えばこの店もじっくりと外観を観察すると、所々怪しい雰囲気を醸し出している気がする。
よし、出来るだけ怪しいことには首を突っ込まないようにしよう。
島田は首どころではなく全身突っ込んでそうだ。終わったな。
黄昏のもと、腕を組んで佇むみながら不吉なことを考えてしまう。
「海陸さん、私は先にお暇しますね。では」
「じゃあな〜」
島田は商店街の外灯に照らされる人混みに紛れていった。
「生きろよ……島田ぁ」
少しふざけ気味にその言葉を発してみたが、僕が言っても全然しっくりこないな。これ。
商店街のあっちへこっちへ歩きながら安く質の良い食材を探す。
「今日の夕食はどうしましょうかねぇ」
バイトは一週間に三日あり平日の月曜日、金曜日の二日は休日の土曜日とは違い、帰りが遅くなってしまう。
そのためどうしても短時間に作れる手軽な夕食になってしまうが、作るならば出来るだけ美味しいものを作って凛に食べさせて上げたい。
「最近、魚食べてなかったよなぁ。魚メインにするか」
歩きながら見つけた、安く生きの良い鮭を置く魚屋で二尾購入する。
他にいくつか野菜を買いに行く。
都市部でも商店街の利用者が少なくなりシャッター街となってしまっているところがあるが、ここはたくさんの人で賑わっている。
上手い具合に昔からあった住宅地と新しく開発された住宅群に囲まれているため、ここで買い物をする方が便利だという人が多いのだろう。
商店街の大通りから路地へ出て、家に最短ルートで向かう。
寄り道は絶対にしない。
「ただいまー」
靴を整えていると凛が自室から出てくる。
「おかえり兄さん」
「ちょっと待っててくれよ、急いでご飯作っちゃうから」
「うん」
凛はリビングへと向かい、僕は私服へと着替えた後キッチンへ向かい夕食を作ってしまう。
「りん〜、料理運ぶの手伝って」
「わかったー」
返事をするとすぐこちらに来て料理を一緒に運んでくれる。
「いただきます」
「いただきまーす♪」
凛はご飯をとても美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐がある。
「この焼き鮭って皮の部分も美味しく食べられるから私これ好きなんだよね」
「あぁ、そうだな。僕も焼き鮭好きだからよく分かる」
こんな感じで意気投合しながらご飯を食べ終わる。
食器を洗い終わった後、リビングでそのままテレビを観ている凛に話しかける。
「今日はどんなことをしたんだ?」
「んっとね〜、あっ地理だ。北方領土の島の名前で国後ってあるんだけどさ、くなしりって普通読めないよね。あと占守とか」
「そうだよな、初見じゃ絶対に読めん」
凛はやれやれといった感じてため息混じりに教えてくれる。かわいい。
その後もテレビを観ながら納得できないことや、おかしなことを語らう。
「じゃ、そろそろ風呂に入ってくる……ふはは、一緒に入るかぁ?」
「どうせ冗談なんでしょ……バカ」
凛は頰をフグのように膨らませて僕を睨みつけてくる。
「バレた?まぁりんも大きくなったし一緒に入浴なんてあの時期限りだもんね。分かってる、絶対に一緒に入ったりしないから安心しなよ」
あの時期というのは、父と母が亡くなってからの数ヶ月のことだ。
いつもの優しい凛に戻らせようとするが、凛は俯いていた顔を勢いよくあげると激昂した顔をのぞかせていた。
「っ!そういうことじゃなくて…別に…いやって…わけじゃ……な…ぃもん!兄さんが私に一瞬でも期待させたのがいけなかったんだもん!」
「ちょっと一回落ち着くんだ、色々と言ってはいけない事を口走ってるから!」
「いけなくないもん!あの時は一緒に入って優しくしてくれたのに、なんで優しくしてくれないの!」
「いや、あの時はあの時今は今だ…もう分かったから泣くなって、なっ?一緒に入ってやるから」
「ほんと?今すぐ?」
「あぁ入ってやる」
すぐさま凛は浴室へと駆け込んで行く。
こんなことは初めてだ。
凛は時たま、感情的になってしまうと見た目以上に幼くなってしまう節がある。
だが泣き叫ぶことは今までなかったことなので、焦ってしまい僕の方こそ年頃の男女にあるまじき発言をしてしまった。
日常からもっと寄り添ってあげれば良かったのだろうか。
キャャャャャャャ