ネトゲ・ライフ
妹をください
カチカチ…カチ…カタカタカタカタ…
住宅地の明かりは消え、街灯だけでは満足できなくなる時間帯。
とある五階建てアパートの二階。
三つあるうちの一つのドア。
それを超えた先から聞こえる二重の音、二種類の音、そして扇風機の回転音。
部屋の電気はついておらず、机にある電球のオレンジ色がかった卓上しか照らせない光と、パソコンから溢れる無限の光がこもる部屋。
そこから聞こえる、緊張を紛らわすかのような声。
「ふぅ〜、今回もしっかりサポートできたな…」
26:15、つまり2時15分
背筋を伸ばしパソコンに向かっていたが、今さっき体勢を崩し背もたれに体重を預けた男。
八重咲 海陸
その男、海陸は『インフィニットファンタジー』というネトゲの、ギルド戦を行なっていた。
ギルド戦とは、二種類ある。
一つ目にギルドとギルドが戦う、GVG(ギルドVSギルド)方式。
次に、一つのギルドのメンバーたちがそれぞれで4人1組のパーティーを組み、一つの対象を討伐するレイド方式。
海陸はというと、レイド方式のギルド戦で、二人パーティーを組み、強敵の討伐完了をしたところであった。
討伐完了したギルメン(ギルドメンバー)にギルドチャットで労いの言葉をかけた後、パーティーチャットで、
〈今回も大活躍でしたね!〉
と、パーティーを組んでいる相手にその言葉を送る。
〈うん、ありがとね( ^ω^ )
それと、いつもサポートが上手で助かるよ( ´ ▽ ` )ノ〉
この長剣を携えた、蒼色の服とロングスカート、それに白銀の胸当て、籠手を装着した比較的身軽な装備。
様々なバトルで僕とパーティーを組んでくれる上、絶対に助けてくれる、くまミーさん。
そして、四人でパーティーを組まない理由でもある。
大抵の人たちはそれぞれ違う役割の人たちでパーティーを組み、キャラクターを最大限使えるようにする。
しかしバトル中、スキルが仲間に当たってしまいダメージを受けることはないが、ヒットバックで仲間の邪魔をしてしまうことがある。
くまミーさん曰く、自分の能力とキャラクターの能力を限界まで使い切るには、パーティーメンバーが邪魔になってしまう。
だがそれは一部の天才のみ。
天才以外…常人はパーティー全員がそこそこ攻撃しないと効率が無残なことになる。
僕のキャラクターはこのネトゲでなっている人は珍しい、と言うかサポートはできるが攻撃スキルがないため死職とされているものである。
だからこそ、くまミーさんの邪魔にならず、サポートをすることでより効率的にモンスターを狩れる。
僕はパテメン一人に集中してサポートすることができ、くまミーさんの能力を極限まで高められる。
適材適所というわけだ。
つまり、二人で組んだ方が強く、残りの二枠分の人材を他のパーティーに充てられる人材消費にやさしいパーティーなのだ。
先ほど送られてきたチャットの返事をする。
〈いえいえ、役に立てて良かったです( ´∀`)
この後どうしますか?何かボス連戦します?〉
〈いや、そろそろ落ちるね。おやすみ〜〉
〈はい〜おやすみなさい。〉
ボス連戦とは、ボスを連続で倒すことで、落ちるとはログアウトすることである。
くまミーさんはパーティーから抜けた後、ギルチャにて挨拶をして落ちていった。
「僕も明日学校だしな〜、よし寝るか」
ギルチャで簡単な挨拶を済ませログアウト。
僕はいつも布団で寝ており、いつでも寝れるようあらかじめセットしてある。
「どっこらしょ」
椅子から少しだるそうに腰をあげると、麦茶を求めて薄暗い廊下へ向かう。
ガチャ
ガチャ
ドアを開けると、別の部屋のドアも開き一人の黒髪ロング、幼さがまだ残っている少女が出てくる。
八重咲 凛音
僕の妹だ。
「りん、まだ起きてたのか」
「そう言う兄さんはどうしたの?」
と全く悪びれることもなく、話の主体を曲げてくる。
まぁ、これ以上は逆効果になるから何も言わない。めんどくさい兄と思われたくないし。
「ちょっと喉が渇いたからな」
「私も喉かわいたから〜」
僕がキッチンへ歩いて行く後ろをりんが着いてくる。
麦茶をコップに注ぎ、それを手渡す。
「ありがと」
このあとはこれといった会話なく、自分も喉を潤し、それぞれの部屋へと向かう。
ガチャ
ガチャ
ドアを閉め、机の電気を消した後布団へとダイブする。
バフッ!
「おやすみ〜」
◎◉◎◉◎◉◎
海斗は今高校1年生であり、凛音は中学2年生である。
この二人はこの歳で、アパートに二人だけで生活している。
両親が3年前、車で帰宅中に信号無視をしたトラックに衝突され亡くなってしまったからだ。
当時、海陸も凛音も強いショックを受け、凛音は現実を受け入れられなかった。
凛音は自分を塞ぎ込み、虚ろな瞳には何も映らない人形のようになってしまった。
保険金、遺産。様々な問題があったが、二人には年齢的にも精神的にも難しかった故、母方の祖父母が大まかなことは済ませてくれた。
祖父母達も悲しいだろうに、こっちで住まないかと僕らを心配して労ってくれた。
当たり前なことなのだろうが、その時の僕は大切にされているんだなと強く実感することになる。
だが海陸は、
「周りの環境までもが変わってしまったら凛音が壊れてしまうかもしれない。」
と断った。
あっちに移り住んだ方が生活が楽になるだろう。
それでも唯一の家族である凛音を大事にしたかった。大切にしたかった。
その思いの甲斐あってか、凛音はあの事故の一年後には、会話をして、自分の想いをしっかりと伝えられるまでになった。
例えば、PCだ。
僕がPCを買いに行くと伝えた時に、
「わたしもいくっ!」
と顔を真っ赤にするほど叫ぶようにして想いをぶつけてくれた。
その時は嬉しすぎて、嬉し涙が溢れてしまった。
親の遺した貯金と、保険金から二人が大人になるまでかかる、学費諸々を差し引いて残った金。
生活費は父方と母方の祖父母たちが払ってくれている。
つまり自由に使える金はそこそこあったため、一緒にPCを買いに行けた。
凛と電化製品を取り扱う店へ足を運び、凛と初めてのPCを選ぶ。
選び終わった時には、僕の目をしっかりと見つめながら「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えてくれた。
ゲームって面白いですよね。
僕はゲームを生きがいとしてます。
つまりゲームがこの世からなくなると、人生を楽しむということを忘れただ社会の中に組み込まれるパーツとなり、自我を失います。