地下牢とスライム
・・・・。
この家って本当に広い。
改めて思うほど、長く歩いてる。
「ここです。用事があれば、
そこら辺に居るメイドに聞いてください
夕食はこちらに用意しますので、7時には
こちらに戻ってきてください。それでは」
忙しいのか、それだけ言うと、小走りで
戻っていった。
しかしここか。この屋敷のなかで一番ボロい。
まぁ、スラムよりはものすごく良いけど。
・・・部屋に入ろう。
ーーーーーーー
「わぁ・・・」
外見はともかく、中はシンプルだが必要な物は、
ちゃんと揃ってる。
此処に居させてもらえるだけで良い、と
思っていたけど待遇もそれなりに良さそうだ。
だって普通愛人の子供の待遇って、スラムよりも
悪いって聞いてたから、少し驚いた。
で、部屋にあるものは・・・
大きなベッド1つ、本棚1つ、本2冊、机1つ
椅子1脚、鏡台1台、クローゼット1つ、時計1つ
以上だ。
本は文字が読めないからわからないけど。
時計は、短い針が1、長い針は12だ。
えーと、つまり・・・一時?
時計は一応読める。
7時までには此処に戻らなくちゃならないから、
・・・あと6時間?
暇だな・・・。
よし、屋敷の探検に、行こう。おー!
一人で言うと、なんか寂しいな・・・。
ーーーーーーー
・・・・。
誰もいない。
不気味なほど静かだ。
そっと扉を閉めて、歩き出す。
廊下を歩き始める。
足音がうるさく感じるな・・・。
しばらく歩くと鉄の扉が見えてきた。
そこには一人の鎧の人が立っていた。
理由はなかったけど嬉しいと思った。
いや、今まで人を一人も見なかったから。
「なんでしょうか」
まるで機械のような声に
気持ちは叩きおとされたが。
それくらい無機質で、
震え上がるような声だった。
「あ、あなたは誰? この先には何があるの?」
とりあえず聞いたが、ものすごく声が震えてた。
「トファです。衛兵やってます。
この先は・・・、地下牢です」
そう返答が返ってきた。
・・・地下牢って犯罪者とか一時的に入れとく場所だよね・・・。
いいのかこんなに見張り少なくて!!
「そんなに見張り少なくていいんですか?」
心配になったので、聞いてみた。
大方、サボりとかかなぁ。
ただ、その返答は、予想してたのよりも、
ずっと重いものだった。
「逃げられませんよ。ここに入っているのは、
全部奴隷ですから」
「え・・・奴隷って牢に入れる物なんですか?」
思わず聞き返した。
奴隷とは、主人に絶対忠誠、命令に逆らえない、
などの魔法を刻む。
で、奴隷になると、物扱いになる。
とはいっても、すべては奴隷の主人に
なるひと次第だ。
で、奴隷になるのは、堕ちると言うのだが・・・
奴隷に堕ちるのは、おおまかに4つある。
一つ目は、借金が返済できなくて、
二つ目は、違法な手段で(さらってきたりして)
三つ目は、家族に売られて、
で最後は犯罪を犯してだ。
最後のは犯罪奴隷と言うがそれは自業自得だからしょうがない。
けど、犯罪を犯したといっても、かなりの罪を
犯したものだけだ。
例えば・・・
人をたくさん殺したとか、平民が貴族を殺したとか、平民が貴族の物をとったとか、
騙したとか・・・。まぁ、他にもあるけど
大体はそうだ。
悲しいかな。命の価値は、平等ではない。
で、結局なんで入れられているんだろう・・・。
「何故ですか・・・。使えなくなったから・・・
です。 あ、具体的に言うと、奥様やティファニア様に気に入らないからと手足を切られたり、色々されて、働けなくなったり・・・、
クリストファー様、時期当主様に、犯されて、精神を、病んでしまったりした物です」
録でもないことするなー。
他にやることないのかな・・・。
私も、その標的になる可能性は十分にある。
気を付けよう・・・。
「ありがとう。で、入っていい?」
ーーーーーー
あのあと、トファに許可をもらって、
地下牢にはいった。
一言で言うと、汚い。
それこそスラムよりも。
こういうの見てると、自分がいかに幸せかって
思うんだよね。
少し歩く。手足がない奴隷や、他の奴隷を喰っているのもいた(喰われている奴隷は生きていたが、もう抵抗する気力もないようだ)。
人はここまで追い詰められるのか、
ただ、生きてるだけ。もうあれは、人じゃない。
もう、手遅れで、救うことができないのが此処に居るんだ。
・・・・・。
あれ? いま人じゃないのが見えた気がする。
走って追いかける。
あれは・・・スライム?
実物を見たことはないので、多分だが、
前に聞いた姿と一致する。
水滴のような楕円形の水のような体、
中心には核があり(スライムの魔石)、
少し青みがかった透明だと、
けれど、そのスライムは、血のように、
赤黒かった。それ以外はその特徴と一致していたので、恐らく変異種か、進化種か。
この世界の常識だ。
変異種とは、その個体が、何らかの理由で変化したもの。
進化種は、その個体が、歪むことなく、
普通に進化したもの。
私もよくわからないが、遭ったことがある人は、
一緒なわけがないと言う。
私は、魔物自体がはじめてなので、よくわからない。
そして、しばらく進むと“それ”がいた。
そのスライムがなすすべもなく踏み潰され、
そのスライムが動くことは
もう、永遠に無かった。
”それ”は、こちらに走ってきた。逃げなきゃ。
殺される・・・。
必死に、足が動かなくなるまで、
走り続けた。
どうにかこうにかトファのところまで戻ると、
ことの次第を説明し、部屋に戻っていった。
それが、私とスライムの、出会いだった。