9
「なかなかよくなったんじゃない?」
メイカがコウタの剣の振りをみて言った。それは旅の序盤のよりは剣に振られず、しっかりと体重を支えられていて、力も入るようになっていた。
「そろそろちょっと実践形式も含もうか」
普段は素振りや、メイカの手加減で進んでいたがそろそろ頃合いかと思っていた。
「明日にしません?」
特訓に疲れたコウタは今日するのは難しかった。
「そのつもりよ」
コウタの疲れている姿をみてメイカは笑っていた。
「二人は?」
コウタがケイタとカズハのことをいうとメイカは思い出したように答えた。
「あぁ、二人はそれぞれ特別メニューよ」
メイカの説明によると、カズハはソータから魔法を学び、ケイタは遊びにきたヨルと特訓をしていた。
「ロンガードを出たら魔王城を目指さないといけないからね。二人も強くなってもらわないと」
彼女は二人に期待していた。コウタからみても二人は才能があると思っている。
コウタは彼女に期待されていないのではないかと思ったが、昨日の一件で期待以上のものを持たされているきがした。
「二人は厳しいの?」
コウタがソータとヨルのことをきいた。
「どうだろう。ソータは少し厳しいと思うけど、ヨルはおそらく楽しんでいるでしょうね」
そのころ、カズハは。
「もう少しです。がんばりましょう。」
カズハが初日に買った魔法の羽を振るが、火が燃料切れのように消えてゆく。
「・・・無理です」
魔力を使い過ぎたのかカズハはすぐに腰をおろした。
「ぎりぎり合格です。魔力量は問題ない。とりあえず休憩としますか。」
測っていたのはカズハの魔力量だった。火の魔法を出し続けて測るらしく、結果は量だけなら上級魔法使いと同じくらいらしい。焚火を起こす程度の魔法で、キャンプファイヤー並みの火力が出ている。実際の攻撃魔法に転じればさらに火力は伸びるだろう。
「休憩中なのでききますが・・・私に教える魔法は・・・状態異常でしょうか?」
それを聞いた途端少し思い出したかのように笑う。
「いえいえ、一日目のことを思い出したのであれば、あれはただ使っただけで、普通の攻撃魔法も使えますよ」
___このとおり。
そういって掌の上で火球を出現させた。
「あの時は、少しむきになっていました。あの人の強さをしっているから・・・つい」
少し顔をうつむいてしまう。墓穴を掘ってしまったと思いカズハは慌ててしまう。
「いえ、心配なさらず。彼のことは少し苦手ですが、センスは感じます。メイカさんにあそこまでいわせるのです」
とメイカのことを知っているかのように話す。
(振られたからむきになったようにしかきこえないだけど・・・)
その気持ちは心にしまっておくことにした。
「メイカさんはそんなにお強いのでしょうか?」
実際にゴブリンや巨大アリと戦ったところを見たが、本気で戦っているという様子ではなかった。
「強いですよ。とても。現にあのアストラルで第二位という称号までもらっていますからね」
アストラル国の騎士は精鋭ぞろいだった。第一位のザイヤは特質しているが、第四位レベルまでは別国の騎士でもほとんど敵わないと言われている。
そしてメイカはそのメンバーでの中で二番目に強い。
「彼女の強みは防御力です。防御魔法に特化していて、旅中だとあまり着ないと思いますが、鎧をまとっている状態だと、爆裂魔法を食らってもピンピンできるほどです。」
名の通り爆発を起こす魔法で、今いる大使館が吹き飛ぶレベルである。
「それでも弱点はありますがね。特別に教えますが、丁度防御魔法が切れている状態で攻撃を食らった場合は、やはり人の身ですので、ダメージは入ります。あとは、防御力を上げる魔法は、自分自身にしか使えないくらいですかね」
そのような弱点があったとしてもここまでの称号を得ている時点で、弱点込みでもかなり強いのだろう。
「わたしも・・・そのレベルにならないと・・・」
カズハは、これから長い旅が続くにあたり、足手纏いにならないための意識が強まった。
「修行の続き・・・お願いします」
やる気を出したカズハを見てソータも影響され、少し笑みを浮かべる。
「わかりました。滞在中に色々魔法を教えますよ!」
そうしてソータとの魔法修行が続いた。
そしてケイタは、
「特訓しないんですか?」
飲食店で二人テーブルを囲み昼飯を食べていた。
「私さっきついたばかりだからね」
その答えにケイタは不満そうな顔をする。
「大丈夫よ。一日二日で実力は変わらないわ。実力なんてたくさんの経験の中でふっとでるものよ。」
スプーンを回しながら自慢げに話す。おそらくそういう経験があるのだろう。
「でもあの二人は才能がありますからすぐ伸びますよ?」
自分に自信がないのか少し消極的になる。
「でもあなたにも才能があるじゃない?」
そういってヨルはピースサインをし、二つの指を両の目に向けた。
「その、眼が」
ヨルはケイタの眼を知っている。鑑定をもとに得た観察眼を。
「まだ実感はわいてないと思うけど、その眼はいずれ頼りになるわ。いまはメイカの経験と実力でどうにかはなっているけど、魔王城に近づくにつれてどんどんつらくなる」
客観的な意見を述べ、ケイタの存在を強くさせようとする。
「観察眼の鍛え方は相手や周囲をいつも以上によくみること。例えばあそこの店員」
ヨルが指を指した店員はお客に料理を持っていく途中だった。だが重いのかふらふらしている。
「一見ふらふらしているがなんとかたどり着けそうである。けど、そこ」
次に指を指したのは床だった。そこには瓶が転がっている。
「まさかあの瓶でこけると?」
店員がだんだんと瓶に近づいていく。だがバランスを取ろうと商品と前をみていて下をみていない。
そして踏みそうになった瞬間。
「いっ!」
その光景はみたくないとケイタは顔を背ける。だがヨルは小声で唱えた。
「風よ」
彼女が唱えた魔法によって店員の足の下数センチまで迫っていた瓶が転がり足から外れる。そして店員は一瞬驚くがこけなくてホッと安心している。
「よかった~助けたんですね」
ケイタが安心したように喜ぶとヨルの頬が膨らむ。
「私だって助けるよ。君みたいに見捨てないけどね」
そういうとケイタはヨルから目を反らした。
「まっ、こんな感じよ。もっと周りをみたら解決法や原因がみえてくる」
アドバイスを終えたところで席を立とうとしたら一人の店員が二人分の飲み物を差し出してきた。
「これはお礼です」
彼女は小声でケイタ達に聞こえるように言うと、なにもなかったようにカウンターへ戻っていった。
「あの店員・・・・訳ありかな」
風の魔法を使った際、他の客や店員に気づかれないようにしたがあの店員だけは気付いていたようだ。
____ふぅ~
ヨルは少し冷や汗がでた。