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三日目
武器が完成したという知らせを受けて御一行は武器屋を訪れた。
「あれ、休みね」
店の扉の前には『close』と書かれている板がぶら下げられている。
「あれ見てください」
ケイタが扉に張り付いている紙を指さした。
『注文受取りの方は裏からどうぞ』
と書かれていた。
早速裏口へ向かうと『どうぞ↑』と書かれている↑の先には扉があった。
「ここね」
メイカがノックをすると奥から足音が聞こえてくる。
「いらっしゃい。さぁ、どうぞ」
強面の店員が店から出てくる。
店員に連れられて試し振りをした練習場へ来た。
「さて、これがご所望の品だ」
真ん中の机の上に一振りの剣が置かれていた。
その剣は普通の剣よりは刃先が若干右側に寄っている。普通の剣は両刃だが、この剣は片方は刃部分がすべて切れるが、もう片方は先端の数センチしか切れる部分がなかった。
「まさか」
メイカがその剣をとり右側で自分の指を切ろうと擦るがその指からは血も傷も現れなかった。
「そう。彼から注文された剣は片方が切れなくなっている。だが、逆の切れ味は普通より切れる」
それを聞いてメイカの顔がコウタへ向く。
「なぜそんな剣を?」
その質問にコウタは少し時間が掛かる。
「ん~、思いつきかな?」
結局あいまいな返答になってしまった。
何回か素振りした後、御一行は武器屋を後にして大使館に戻る。
「さて、練習するわよ」
そのままコウタはメイカに連れて練習場へ向かった。ケイタとカズハも付いていく。
「今日は剣も手に入れたし模擬戦かしらね」
メイカはコウタに今回手に入れた剣を使うように指示し、自分は練習用の剣を使っていた。
「さて、いくわよ」
メイカが先に行動し、コウタの直前で来たところで遅く振りかぶる。
コウタはそれに気づき、剣でガードする。
ガード後受けながし、そのままメイカに剣を振ろうとする。
メイカはすぐにその行動が読み避ける態勢に入る。
そしてコウタが振る瞬間、脳裏に血の景色がよぎる。
その景色には
旅に出てすぐに見たメイカに殺されたゴブリンの死体。
洞窟で女の子が倒れてしまったとき。
そしてもしこの剣がこのままメイカを切ってしまったらどうなるのか。
結局剣は振られたものの、メイカは避ける態勢に入っていたことと、コウタがためらったことがあり、メイカは避けることができ、脳裏に浮かんだ景色のようにはならなかった。だが、コウタの手は震えていた。いくら練習とはいえ、いままで村人だった人が切れる剣を持つにはまだ早かったようだった。
「コウタ、今日は休みなさい」
「えっ・・・」
そのコウタの現状をみてメイカはコウタをすぐに休ませた。
そしてその事態に対策を取ることを考えた。
コウタは一人ベッドの上で寝そべっていた。
そしてあの時見た景色を思い出すと顔を押えたくなる。
「はぁ・・・・・・・」
これまでにないようなため息が出し、目を瞑る。
「なんとかしないと・・・・」
メイカは事態を解決すべくケイタにコウタの話を聞いた。
「コウタって普段どんな子だったの?」
この質問をするには遅かったかもしれない。それを思うと少し後悔が生まれた。
「コウタは普段は優しいですよ。そのせいで人に振り回されることがありますけど。それに狩猟やサバイバルをしたのも聞きませんでしたね」
メイカをその情報をプラスしてコウタのことを考えた。そして家族のことに思いいたった時にメイカは顔を手で押さえた。
「そういうことか。私が馬鹿だった」
メイカの言葉が二人には理解できず、聞いた。メイカは説明する前にコウタが置き忘れた剣を取る。
「コウタは切りたくないだと思う」
それ一言を聞いてカズハが思い出す。
「確か前に・・・メイカさんがゴブリンを殺した時少し気が晴れたと言っていてそれが怖い・・・と言っていました」
いってよかったのか、心の中でコウタに謝りながらもカズハはあの夜のことをしゃべった。
「それもあるかもね。そして両親がいないことと、多分王様に命令された責任感もあるかも。さらに洞窟でとらわれている人たちを助けた正義感。それを踏まえるとまだこの剣を持つには早かったかなって」
言い終わる時にはメイカの声のトーンも少し落ち込んでいた。
「そしてこの剣の形も関係しているかも。この剣をみると6割がきれて4割が切れなくなっている。ってことは4割切りたくないって感情がでたんじゃないかと思う。それに思いつきでこの形にしたとも言っていたし」
考えがまとまった後、すぐに立ち上がった。
「どこか行くのですか?」
「ちょっと寄りたい場所があるからね。できればまだコウタを任せたわ」
そういってスタスタと大使館を出て行った。
「いっちゃいましたね」
「そう・・・ですね」
それを二人は見送ることしかできなかった。
「いらっしゃい」
メイカが寄った所は武器屋だった。
「至急、作ってほしいものがあるんですが」
メイカは注文をすると、似たようなものはあるということでそれを買った。
すぐに大使館に戻り、コウタの部屋の前に二人が座っていた。
「コウタは?」
とても疲れているようだった。息が上がっている。
「部屋で寝ていますよ」
それを聞いてメイカはそっと部屋に入る。だがコウタはすでに起きていてメイカと目が合った。
数秒程二人は固まり、先にメイカが口を開いた。
「丁度よかった。コウタに渡したいものがあるんだけど」
そしてメイカは一振りの剣を差し出した。
「これは?」
剣の形状は練習用と全く同じだった。
「この剣は練習用よりただ単に強度が増しただけの剣。切れないし、重さもさほど変わらないわ。これからはこれを使いなさい」
それは期待外れだったからなのか、それとも自分を思って渡してくれたのか。コウタは考えた。
「ごめん。ありがとう」
コウタはメイカの真剣な目をみて後者だと理解し、剣を受け取った。
「この剣はどうするの?」
コウタは自分の剣をどうするか聞くと、メイカは少し悩んだ。
「私がもらおうかしら」
笑いながらいうと、コウタが手を伸ばす。
「その剣、俺が一応持つよ。いつか使う時がくるかもしれないから」
メイカは剣をコウタに渡す。
「二刀流とかどう?」
メイカが冗談交じりでいうと、コウタは少し笑った。
「考えておく」
((もっとがんばらないと))
その時2人は心の中で決意した。