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荷車を馬にひかせ、それに乗っている間、コウタは接着剤で木の棒を直していた。そのまま進み、村をでて城とは反対方向に勇者ご一行が行くとだだっぴろい草原に来た。そこにはたくさんのスライムと数体のゴブリンが動き回っている。こっちをみるなり逃げるやつや静止しているやつ、ましてや向かってくるやつがいた。
「うわぁ、きた!」
あまり魔物に耐性がないメイカ以外の三人は驚いていた。
「この調子じゃ魔王討伐なんて無理よ」
そういってメイカは襲ってくるゴブリンを剣で一振りするだけでなぎ倒していく。血がビシャと服に付くが気にせず切っていた。それをみたほかのゴブリンやスライムたちはすぐに逃げ出した。
「すげぇ」
ケイタが戦い方をみて少し見とれていた。コウタは「うげぇ」とゴブリンの死体をみる。その瞬間、
____ドクン!
とコウタの胸がなったのを感じた。だがコウタは気持ち悪いものをみただけだろうと気にしなかった。そしてカズハはその死体を自分の魔法の杖でツンツンと触っていた。
草原を横断したが、魔物は襲ってくる気配がなかった。草原を抜けると次は森があった。馬の休憩などもあり草原を横断するころには夕日がでていた。
「さすがに夜中に森は危ないわね」
そういうとメイカは馬を止めて簡易テントを張り始めた。
「冒険一日目が草原の横断で終わるとは」
テントを張り終えるとコウタはぐったりと腰を落とした。
「コウタは、あなたは私と剣の練習をするわよ」
「え!?」
とあからさまにコウタは嫌な顔をしながら、メイカにちょっと森の中に連れていかれた。一応なのかほかの二人にはちゃんとみえる位置にいる。
「私達はどうします?」
取り残された二人は、テントの中で腰を落ち着かせていた。
「それなら・・・夕食でも」
そういうと腰を上げて荷物のほうに向かった。
「それなら私も手伝いますよ」
そういってケイタも荷物へ向かう。
「君・・・料理、できるの?」
料理できないように見えるのかカズハは不思議そうにいった。
「一応できますよ。プロみたいにはいきませんが」
「なら、手伝ってもらおうかな」
そういって、荷物を開けると、卵と生肉が入っていた。もちろん、日持ちがよくないため腐っていて異臭が立ち込めた。
「「げっ・・・・」」
二人は鼻を一瞬で摘み、数秒間固まった。
「たしかこれを用意したのは」
ケイタが犯人を突き止めようとして顔を向けるとカズハも一緒にその方向をみた。その目線の先にはコウタに剣の持ち方を教えているメイカの姿があった。
二人はすぐに異臭箱を荷台から外し、少し遠くにおいてメイカのところへ向かった。それに気づいたメイカは「どうしたの?」と聞く、だが二人は魚を死んだような目で向かってくる。
「メイカさん・・・食料は何を用意しましたか?」
そういうと笑顔で、
「卵と肉よ!」
と答えた。コウタもこの意味がわかったようで、「げっ」と顔が歪む。だがメイカだけがわからないようだった。
「どっちも腐っていましたよ。卵も肉も」
そういうとメイカは笑顔のまま固まった。
「え、嘘・・・・いつも遠出したときも食えていたのに」
「「え・・・・・」」
その意味にメイカだけはわかったようだった。
「多分・・・付き添いの方がちゃんと保存しながら来ていたんじゃ?」
そういうと「あ・・・・」といい、顔が赤くなってゆく。
「ごめん、早速探してくるわ」
そういって、メイカは木の枝に飛びつき、森の側面を駆け回っていった。
「私も行きます」
不安になった。ケイタがついていこうとするが、とても早く、ぎりぎり追いつけるぐらいだった。
「では先に火をつけますか」
そういってコウタとカズハは木の枝をたくさん拾って、荷物があった場所へ戻った。
「でもどうやって火をつけるの?」
そういうとコウタは集めた枝に指を向けた。少し力を入れると指から魔法陣が飛び出し、枝に火をつけた。
「魔法・・・使えるのね」
「まぁ、マッチより少し強いぐらいですが」
一時間ほどするとメイカとケイタが帰ってきた。
ケイタは袋にたくさんの食料を、メイカはイノシシを肩に乗せている。
「すげぇ」
コウタが思わず声を上げるとケイタは顔を手で押さえる。
「かなり危なかったよ。最初はキノコを拾ってきたかと思うと毒キノコだったりして動物でも狩ってきたら?っていったらまさかのイノシシだったからね」
それを想像した二人はケイタの苦労に感謝した。
そしてケイタとカズハがすぐに料理にとりかかり45分ほどでできた。
その料理はケイタの持ってきた木の実とイノシシの肉の角刈りを煮込んだスープだった。見た目は普通のスープのような感じだった。
「「「「いただきま~す」」」」
四人が一斉にスープをすくう。すると柔らかくなっていた木の実が砕けなかからほんわりとした甘い匂いと赤い汁が出てきて、透明なスープを赤く染めた。それを吸うとサクランボのような風味がした。さらにスープに入っていた肉が木の実の赤い汁を吸い、白かった側面が赤く染まる。それを口に入れた途端、肉の油と赤い汁が絶妙なマッチングを繰り広げた。
「「「「おいしい・・・・・」」」」
全員が文句なしの回答だった。二人も自分が作ったのがこれほどおいしいとは思わなかったのだろう。
「二人ともすごいわね」
メイカがほめると二人は驚いた表情だった。
「いや、普通に煮込んだだけですのでこんなにおいしいとは思いもしませんでした」
ケイタがそういうとカズハが余っていた木の実を取り出し、一粒食べた。
「おいしい・・・この木の実、もっと持っていたほうがいい」
そういうとケイタも食べてその意見に賛成した。
「ふぅ~、食べた食べた」
スープはもう残されておらず、四人の腹はもう満たされていた。
「では、そろそろ寝ますか」
メイカがそういうと荷物から4本の棒を取り出した。
「これは?」
「これは遠征用結界棒、これを囲むと囲んだ場所は虫や低級魔物が入れなくなって、それ以上がくると警報をならして知らせてくれるものよ!」
といって
ドヤ顔でコウタをみてテントと荷車と馬を囲むように設置した。
すると、棒が少しひかり棒と棒の間に薄い光の壁が一瞬作られ消えた。
「一応、私達は出入り可能よ。そして私たち以外の人間がきても警報はなるから」
それは便利だな~と思いつつ、テントに入る。夕飯を作っている途中でメイカがもう一つテントを建てていて男用と女用で分けて寝るようだった。疲れ果てたのかケイタはテントに入るとすぐに「おやすみ」と言って寝た。コウタも寝ようと布団にはいった。
一時間後、コウタは寝られずにずっと上ばかり見ていた。そして気晴らしに外を見ることにした。
そして外にでて荷物に座り、空をみた。するとたくさんの星が見えた。それはさながら光る砂を空にまき散らしたようにみえる。
「あれ・・・・」
いきなり声がして、その方向をみるとカズハがテントからでてきている。
「寝られないの?」
カズハはコウタの横に座って、話しかける。
「なんか寝むれなくて」
コウタが顔をうつむいた。それをみたカズハが寝られない理由を聞いてきた。
「なにかあったんじゃない?」
そう聞くとコウタは今日あったことを自分視点で話した。
「最初ゴブリンやスライムを見た時ちょっと怖かった。これ以上のものをこれから倒していくのかって、思ったときに急に恐怖を感じたよ。いまになってケイタを連れてこなければって思ってきたり、あの時、棒に触らなければって思ったりもしているよ」
カズハはコウタの本音が聞けてうれしかったのか空をみる。
「それはないんじゃないかな・・・?嫌だったあの時『行く』なんていわないよ」
その言葉にうつむいていたコウタの表情は泣きそうな顔になっていた。
「私は・・・この旅に誘ってもらってよかったと思っている。あの中じゃこんな発見や楽しさには巡り合えなかった・・・気がする。だからコウタが一人で悩むことではないんじゃないかな?」
カズハの本音を聞いてコウタは腕で涙をぬぐった。
「カズハにだけ言うけど、メイカがゴブリンを殺した瞬間、少し心が満たされた気がしたんだ」
それを聞いた瞬間カズハはとても驚いていた。
「だから、もし俺が血迷ったときは俺を助けてほしい」
カズハは少し悩み覚悟を決めた。
「わかった。うまくいくかはわからないけど・・・その時がきたら・・・がんばる」
コウタは「話してよかった」そういって満足そうな顔をしている。それをみたカズハも笑顔になる。
「なんか急に眠く」
コウタは急に睡魔に襲われカズハの膝の上に顔が落ち、眠った。
「おやすみ」
カズハはコウタに腦が休まる魔法を使った。それは起きている最中は腦が休まるだけだが、体が疲れていたりすると寝てしまう効果がある。そのためコウタは寝てしまった。コウタが寝ているのを確認するとカズハは彼をテントまで運び、布団の上で寝かせた。そしてまた荷物のところに戻った。
「私も・・・・頑張らないと」
そういってカズハは料理の際に見た火の魔法を放った。だがそれは魔力が放出されただけで火はでてこなかった。うまくいかないもののカズハはそれを一時間ほど続け、魔力切れで荷車の上で力尽き、眠った。
まったく料理経験がないけど、自分なりに想像で作った料理が上出来か不安