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「とにかく!」

昼食後もケイタを励まそうとしているのか。立ち回りや、そのポジションと必要性をなんども説明してくる。


「ようは、私に攻撃するなと?」

ケイタは『君は偵察役だからできるだけ危ない道は渡るな』と解釈している。


「いやいや、君も攻撃はするよ?けど積極的にはするな、ということ。攻撃するのは反撃が飛んでこない隙がうまれた時、もしくは、不意打ちとか」


あくまで自分の役割をまっとうしろ、ということらしい。

それでもケイタは納得がいっていない。

「ま、経験すればわかるさ」

と他人事のようにいう。


「ドロボォォォ!」

2人散歩をしている途中、叫び声が聞こえた。

奥をみてみると、慌てて走っていく盗んだ腰巾着を持った人と、それを必死に追っている店の制服を着たおっさんが走っている。


「これはあの店員は追い付けないわね」

ヨルの分析通り、店員と泥棒の差は広まるばかりだった。


「よし、ケイタ。あの泥棒を捕まえなさい。私は見とくから」

ヨルは少し面白がっていた。それにこたえようとケイタは前かがみになり追う態勢を取る。

「一応、手段は問わない。相手もそれなりの抵抗はするだろうからね」

そう告げた途端、ケイタは一気に駆け出した。通行人の数は少し多いもののケイタはひょいひょい抜けていく。

 ヨルが泥棒のほうへ目を向けると路地裏へ逃げ込むのが見えた。それはケイタも認識している。


(さて、私は先回り)

ヨルは泥棒が入ったのとは別の裏路地へ入っていく。



(意外と速いな)

ケイタが泥棒を追い、路地裏へ入ったが泥棒の姿は見えなかった。店員は入口の方で、ばてて座っている。

「泥棒はどっちへ逃げましたか?」

店員は路地裏に入ってすぐの右の曲がり角を指した。

(俺が来た時にはもう見えなかったから、おそらくあの曲がり角へ逃げたに違いない)

ケイタはその情報を頼りにすぐに走って追いかける。

だが曲がってすぐにまた曲がり角があった。しかも左右に。

(右に行って人ごみにまぎれたか、左に行ってさらに遠くへ逃げたか)

ケイタは自分なりに分析してみた。だが少し考えすぎてしまって、泥棒はだんだんと遠のいていく。


『相手や周囲をいつも以上によく見ること』

ケイタの頭にふっとそのフレーズが浮かぶ。昼食時間にヨルに聞いたことだった。


(周囲をいつも以上によく見る)

ケイタは右の人ごみをみる。するとあることに気が付いた。町の人たちが先ほど泥棒騒ぎがあったのにもかかわらずすでになにもなかったように歩いている。

 さすがに泥棒がまた人ごみに戻ったりすると、数人は警戒するはず。なのに誰一人そんな素振りはみせていなかった。

そのことを見抜き、すぐにケイタは左に走り、路地裏の奥を目指す。

すると次は左、中央、右の三か所が分岐地点にきた。即座に、先ほどいた左はないと切り捨て、中央か右かお2択絞りこんだ。次は周囲をみてもなにもわからなかった。だが、右から知っている声がした。


「ケイタ!こっちはいないから、そのまままっすぐ走りなさい!」

ヨルの指示通りまっすぐ行くと、泥棒の姿が見えた。

「みえました!」

ケイタはヨルに聞こえるように叫び、泥棒の後を追う。ケイタのほうが泥棒よりも少し足が速く、曲がられても足音で見失うことはなかった。


「やっと追いついた」

泥棒は逃げられないと判断したのか、ケイタのほうを向いている。


「もう少しだったのにぃ!」

泥棒は少し殺気を放ちながら、ナイフを取り出した。それにケイタは少しビビッてしまう。


(まさか、最初にこの短剣を使うのが魔物じゃなくて、人間相手とは)

恐る恐るケイタは短剣を抜く。


「死ねぇ!」

先に動いたのは泥棒だった。だがナイフなのに大振りだったのでケイタでも避けることができた。


(今がチャンス)

ケイタは先ほど習った『反撃が飛んでこない隙が生まれた状態』だと判断し、短剣を刺そうとする。その瞬間ケイタはみてしまった。殺気と恐怖が混ざり合った目を、その泥棒の目を。

フラッシュバックのようにこの先の展開が映し出された。

ケイタが短剣を刺し、血だらけの泥棒の姿。

それをみて、手が血だらけになっている自分の姿を。

「ひぃっ!」

それに恐怖し手を緩めてしまう。だがその行為は泥棒にとって好機となり脇腹に蹴りをいれられた。

ケイタは壁にぶつかり倒れる。


「あっ…あぁ」

ケイタの頭にはもう恐怖しか残っていなかった。


(俺はここで死ぬのか)

泥棒はナイフを振りかざす。ケイタはそこで死を覚悟し、目をつむった。


____ドォゴォ!

突然鈍い音がなる。ケイタは目を開けるとそこに泥棒の姿はなく、ヨルの姿があった。

「貴様!」

泥棒は腹を抑えていたので、ヨルは蹴りか殴りを入れたのだろう。


「立てる?」

ヨルはケイタに手を差し伸べる。ケイタはその手を借りてよれよれながらも立った。泥棒はさきほどの攻撃でヨルの実力を知ったのかナイフを回収して逃げるかのように反対方向へ走っていった。


「みてて、これが戦い方だから」

ヨルはそういうと、ケイタの短剣を取り、泥棒の足元めがけて投げた。

するとその短剣は泥棒の足元の少し先に刺さり、泥棒がひるむ。

すぐにヨルは追いつき、目と鼻の先まで近づいた。

______シュッ!

泥棒がナイフを振るがこれも大振り。ヨルは軽く避ける。

ヨルは先にナイフを取り上げる。ナイフを取られた泥棒はすぐに蹴りを繰り出した。だがそれを予測していたかのようにヨルは避けた。

避けられたことにより、泥棒の態勢は崩れる。それをみたヨルはさらに距離を詰め背負い投げのように泥棒を投げ、決着がついた。


「ふぅ~」

ヨルは落ち着いて深く息を吐く。ケイタは完全にヨルの動きに見惚れていた。

なにせヨルは一瞬の出来事にも関わず、相手の攻撃手段を減らし、さらにそこから繰り出されるであろう攻撃を予測し、完璧な隙が生まれたときに攻撃を加える。という教え以上のことを実践していたことだった。


「普段はこんなうまくいかないよ」

相手は普通の泥棒、戦闘技術を少しかじっていたことから常習犯だろう。だが相手がプロであれば、攻撃手段を減らしても予想外の攻撃や運が絡んでくる。そのことをヨルは伝える。


「はい、これ」

ヨルはケイタに短剣を返した。ケイタはさきほどと同じ短剣なのに重く感じた。


「最初はそんなもんよ。言ったでしょ?経験が必要って」

ヨルはケイタが恐怖していたことを見抜いていた。

「あの勇者くんも同じことをおもったでしょうね」

ケイタはコウタが初めて武器を持った時、手が震えていたのを思い出した。

(ケイタもこんな思いだったのかな)

自分も手が震えているのに気付いた。それを収めようとするが一向に収まらない。

_____ギュッ

突然ヨルがケイタの震えている手を両手で覆う。


「ごめん。人間相手にさせたのが悪かったわ。せめて魔物を相手に・・・」

ヨルの表情がいつもと違うのに気付いた。自責の念を感じているのだろう。

「人間も(・)相手にするのは私たちの仕事だもの」

その瞬間ヨルの目が覚悟を決めたかの如く鋭くなった。


「まっ、かといって当分の練習相手は、私…人間相手だけどね。実践では人に剣を向けないように!」

彼女の表情は一瞬で笑みに代わったが、無理をしているとケイタは見抜いてしまった。



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