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『タライ村』というところに一つ不思議なものが地面に刺さっていた。それは木の棒だった。形だけみると1服を干せるくらいの物干し竿みたいだが少し朽ちている。だが、誰も抜いたことがない。燃やそうとしてもまったく燃えず、切ろうとしても切れない。村長が「神秘の力じゃ」と言い少し豪華に木の棒は囲まれ、村のランドマークとなった。
「はぁ~、疲れた」
コウタは買い物を終えてタライ村に戻っていた。
「ここで休憩するか」
そして木の棒の隣にある石の床に座った。
「これが杖替わりになったらいいんだけど」
そういってコウタは木の棒をみた。
「でも本当に抜けないのかな~」
コウタは木の棒に手をかけ上にあげた。すると・・・
____スポッ!
(抜けたぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!)
あっけなく抜けてしまった。その光景にコウタの思考が一瞬止まった。
「おい!コウタ。それ」
友人のケイタの声で「ハッ!」と立ち直る。だがコウタはいけないことをしてしまったと焦り、ケイタをみた。
「げっ、俺を見るなよ。でもどうするか。村長に謝れば許してもらえるんじゃないか?」
「本当に許してもらえるかな?」
コウタは涙目になりながらケイタをみた。
_____スタスタ
右から突然足音が聞こえてきた。そしてコウタが右をみると。
____ぽかーん
村長は口を開いたまま停止していた。
「村長?」
「ハッ・・・・コウタ、まさかお前がこの木の棒を抜いたのか?」
半信半疑な村長はコウタに聞く。苦しながらもコウタは正直に答えた。
「そうか、コウタが『勇者の力を継ぐものか』」
村長の言葉に思わず「は?」といってしまった。もちろんケイタも同じ反応をしていた。
「村長それはどういうことですか?コウタが勇者の力を継ぐものとかなんとか」
ケイタがコウタの聞きたいことを聞いてくれた。
「それはこの木の棒じゃよ。誰も抜けず、いくら壊そうともしてもびくともしない。この世にそんな木の棒はこれ以外存在しないだろう。そしてお前たちも本などで知っているだろう。大昔の勇者は誰にも抜けない剣を抜いて勇者になり魔物を倒した。と」
そんな村長の妄想じゃないか、とコウタはいいたいが反論できなかった。
「よし、じゃあ早速、王国へ行くとするかのう」
村長は笑顔になりながらコウタを馬車へ連れて行こうとする。
「なんで王国へ行くの?」
「国王からこの木の棒が抜けたら、呼ぶように言われているのじゃよ」
(えぇぇぇぇぇぇ)
といやいやながらコウタは馬車にのった。
「ほう、それで木の棒を抜いたものが現れたと?」
国王は盛大に座っていておそらく否定しただけでも処刑しそうな気迫だった。そして横には王を守る騎士たちが並んでいる。
「ええ、名はコウタというものです」
自己紹介は村長がしてくれた。そしてコウタはずっと顔を伏せている。
「顔をあげよ」
国王の命令に従い頭を上げた。
「コウタよ。お前には使命を与える。魔王を倒して来い!」
(やっぱりこうなったか~)
この世界には魔物がいた。各地を襲っていてそして敵の本拠地魔王城はこの世界の20分の1ある。
「はいぃ。わかりました」
コウタしぶしぶ返事した。横に騎士たちがこっそりと笑っている。そして一人の金髪碧眼の女騎士が哀れみの目でみていて、左にいる金髪の騎士は「がんばれ」と口パクで言ってきた。
「だが、1人で行くのは難しいだろう。ここから1人、そしてあとは控えている見習い騎士でも好きなように選ぶとよい」
その瞬間、騎士たち全員が目を見開いていた。
「ではメイカ。コウタと一緒にいってこい」
「はぁ?!・・・いえ・・・なぜ私なのでしょうか?」
哀れみの目で見ていた女騎士が驚いて思わず本音が出てしまった。
「強いやつを連れさせたいが一番強いザイヤにはこの国を守ってほしい。だから二番目のメイカに任せるとする」
「は、はぁ」
渋々了承しメイカがコウタに近づいて膝をついた。
「あなた、剣の経験は?」
メイカは小声でコウタに聞いてきた。
「ないよ。さっきまでただの村人だったのに」
「わかったわ、あとは任せなさい」
「頼む」
メイカはコウタと話した後、国王をみる。
「国王、この者は剣の経験がないので、できればこの棒と私の剣以外に武器を持っていきたいのですが」
すると国王は少し考えた。
「武器も個人の物とそのスペアしかないからな。一応、練習用の斬れない剣とメイカのスペアも持っていくといい」
何とか武器が手に入ったメイカは少し安心した。
「ありがとうございます」
その後メイカは武器を取りにいった。それにコウタも付いてくる。
「あなたも災難ね。どうみてもあの棒ってただの棒でしょ?」
メイカが同情するようにいうとコウタはため息をついた。
「はぁ~、ほんとですよ。なんで木の棒を取っただけで」
しゅんとなっているコウタにメイカは練習用の剣をリュックにいれコウタに渡した。
「さて、そろそろ出て行って」
その言葉にコウタの頭の上に?マークが出た。するとメイカの顔が少し赤くなる。
「着替えるから」
聞いた瞬間にもうしわけないとコウタはすぐに部屋を出た。
「終わったわ」
ガチャとドアを開けると私服のメイカが立っていた。少し年上だなと思っていた彼女への印象が少し変わった。
「鎧とか着ないんですね」
コウタが質問するとメイカは肩をぐるぐる回す。
「重いのよ。旅にでるときに重い装備だとかえって疲れるでしょう」
そういうことと頭で納得し、二人は準備が終わり城を出た。
「これからどうするんですか?」
なにもわからないコウタはことあるごとにメイカに質問した。
「まずは修道院にいって一人回復魔法に精通している人を仲間に加えるわよ。許可は取ってあるから問題ないわ」
スタスタと歩き修道院へ向かっていると兵士たちとすれ違った。兵士たちはコウタたちの旅路をしっているのか「どんまい」や「お疲れさま」という哀れみの声が掛けられた。ほとんどメイカの顔見知りなのか「なんならあなたがいきなさいよ~」とか「なんで私なのよ~」など言っていた。
そんなことがあったものの二人は修道院に着いた。そしてメイカがドアを叩く。すると奥から「ただいま参ります」と声が聞こえた。
____ガチャ
そんな音とともに扉が開いた。すると中から三十路を越えてそうな女性が現れた。
「どうぞいらっしゃいました。中へ」
彼女に促されてなかに入ると早速大きい広間に出た。思わずコウタは「うわぉ」と声が出た。
「では早速、ご同行する人を呼んできます」
すると彼女は奥の部屋へと向かっていった。小声で「この人じゃないんだ」とメイカが言った。
5分ほど経つと奥から「お・・遅くなりました」と先ほどの女性とは少し違う声が響いた。そして扉が開かれ、声の正体があらわになった。
「どうも・・・カズハと申します。これからよろしくお願いします」
と見た目はメイカとは一緒ぐらいの年齢の黒髪ロングの女性、カズハが自己紹介をする。だがとても弱弱しい。
「俺はコウタ、そしてメイカさん。こちらこそよろしくお願いします」
「メイカでいいわよ。こっちもよろしくね」
身支度はすませているのかすぐに修道院をでた。だがでるまでの間カズハ以外の人を見かけなかった。
「あの・・・・すごく申し訳にくいのですが」
みるからにわかりやすく頭を下げ、悪いことしか言わなさそうな雰囲気になった
「私、ほかの人とは違い回復や支援魔法しか習ってないのです」
それを聞いた途端、二人は頭の上に?マークが浮かんだ。
「あの・・・すみません!やっぱり私・・・」
自分を責めようとしているカズハをメイカが止めた。
「そういうことじゃないのよ。最初は攻撃魔法とほかの魔法が使えるなんて思っていなかったし、連れて行こうとは思わなかったわ」
それを聞いて次はカズハが?マークを浮かべた。
「それはなぜですか」
「コウタが剣の経験がないから教えないといけないのよ。それで攻撃魔法を使える人がいるとその人はなにもしなくなると思うからよ。それでこの仲間間の関係が崩れるのはいやだからね」
納得したようにカズハが顔を上げる。
「でもあと一人欲しいわね。身軽でサバイバル知識を少しもつ人」
そういってメイカは悩んだが、もう日が暮れそうになっていた。
「もう遅いので俺の家で止まりませんか?家族はいませんので」
その言葉に二人は驚いたものの聞くのは家に入ってからにすることになった。
「ご両親とも病気でなくなったのね」
三人がコウタの家に入る前、村でたくさんの人たちが出迎えていた。何人かは変な目を向けていたが「いいや、結構よ。あまり騒ぎ立てたくない」と押し切り宴などはせずにコウタの家で自己紹介と作戦会議をすることになった。そしていまコウタの家のことを聞いたばかりだった。
「そう、だからいままで働いてなんとか生計立てていたんだよ。兄弟とかいなかったから1人でなんとかできてきたけど」
少しコウタの顔が暗くなるが、メイカは少し笑った。
「ならこれから安心ね。金はたくさんもらったし、家族も増えるわよ!」
と彼女は手をグーにしてアピールする。コウタとカズハの頭の上に?マークが浮かんでいた。
「わからない?これから私達はいやいやながらでも旅をするの。そしてそれを共にする人を家族と言わないでなんて言うのよ」
その瞬間コウタの胸のなにかがその瞬間払われた感じがした。そして胸に手を当てると少し穏やかな気分になった。
(この人たちなら・・・・・)
「私はメイカ、職業は騎士。3年前から騎士をしていま第二位までなっていたところよ。でもそこでやめる気はないわ。目指すのは一位よ」
自己紹介をしているときの表情はやる気で満ちていた。だが、その表情から少し無理をしているなとコウタは読み取った。
「私は、カズハ。ただ落ちこぼれだということしかない」
ネガティブ思考なのか自分に自信がなさそうな表情をしている。
「そんなことはないとおもうけど」
メイカがそういうとコウタは顔を縦に振り自分もだと示している。引かれるかとおもっていたカズハにとっては予想外の反応だった。
「おそらくこれから回復魔法をかなり使うことになるわよ。そしてこの旅で経験することを活かせばもう負けなしよ」
尋常じゃないほど張り切っているメイカをみてカズハは少し顔をしかめた。そしてコウタは少し引いていた。
自己紹介が終わり明日の準備をしているとコウタは黒い虫が目の前を通ったのが見えた。
「ごっ!ゴキブリ!」
コウタは大声で叫んで近くにあった棒でゴキブリを叩いた。
____ボキィ!
鈍い音とともに棒は折れゴキブリは息絶えていた。
「ねぇ、コウタ。それ・・・・」
メイカの声を聴き、嫌な予感がして棒をみるとそれは勇者の木の棒だった。
「あ・・・・」
「「あ・・・・・・」」
「あ・・・・・・」
コウタが唖然とする中、それにつられて二人、そしてもう一人が唖然とし、コウタは玄関のほうをみるとそこにはケイタの姿があった。
「まずい」
そういった瞬間、メイカはすぐにケイタの手をとりすぐに家に引き寄せた。
「さて、口封じはどうしたものか」
メイカの顔は口封じする気満々の顔でケイタを見ていた。
「ストップ!」
コウタはすぐにメイカを止めて彼が友達だということを二人につたえた。
「でも口を割るかもしれないわよ」
メイカはまだ信用できていないようだった。
「ん~どうするか」
そのことにコウタは少し頭を抱えた。
「そうだ」
何かをひらめいたコウタはケイタに近づく。
「ケイタも一緒にいかない?」
「「「は!?」」」
三人は目が点になった。固まっているのをみてコウタは「は~」とため息をした。
「そのほうが口封じどころか共犯になる。そしてケイタも付いてくるメリットはあるんじゃないか?」
その答えにケイタは笑って「イエス」と答えた。
「メリット?」
カズハが気になって聞いてきた。
「それは、家の生活をもっとよくしたいと思いまして」
ケイタは年上の二人に対し少し恐縮しているようだった。
ケイタは家の事情を説明した。3人家族で母一人、妹と二人兄妹で住んでいる。家計が厳しくなり、自分が旅にでて少しの支給と自分の分の負担をなくして少しでも支えようと思うことだった。だがそれには少しリスクが大きかった。
「あなたはそれでいいの?」
直球な質問をメイカはした。
「この旅はあなたたちが思っているように簡単ではない。それに冒険しながら家に支給するとしてもお金が手に入るとは限らないわ。そして死んだときに一番家族に迷惑がかかる。それを家族の人たちが了承するかしら?」
「ぐっ」
指摘されケイタは言葉を失う。
「お兄ちゃん・・・・?」
一同は声のしたほうをみる。するとそこにはかわいらしい少女が立っていた。そして驚愕な表情でケイタを見つめていた。
「ケーカ!」
ケイタが名を呼ぶとケーカは走り出した。その方向は家のほうだった。メイカは座っていたため前回のよう家に引き寄せることはできなかった。だがケイタはすぐに追いかける。
「旅の前に解決させることができてしまった」
コウタがそういうとメイカは呆れて言った。
「あなたが招いた事態でしょうに」
「待って、ケーカ」
ケイタは叫ぶがもう遅く彼女はすでに家に入り、母親にも伝わっているようだった。
「ケイタ・・・・」
家に入ると母親は悲しみの表情を浮かべている。そして泣きながらケーカは見つめていた。それをみたケイタは思わず息をのんだ。
「ほんとにいくの?」
その言葉にケイタは2択を迫られる。行くか行かないか。その選択はいままで一番の重みを感じた。そしてどちらを選んでも許される。それがケイタの頭から離れなかった。
(このままの生活をするか。それとも・・・・・・)
「ごめん。俺・・・いくよ」
それを聞いた母親は覚悟を決めたようだった。
「なら、この家から荷物をまとめて出ていきなさい」
「お母さん・・・・・?」
その言葉の意味は妹にはわからなかったもののちゃんとケイタには伝わっているようだった。
ケイタはすぐに荷物をまとめて家をでようとしたとき後ろから「ケイタ!」と母親の声がする。振り向くと母親はケイタに白い紙をみせながら妹に聞こえないぐらいの小声で「いってらっしゃい」と告げた。白い紙の意味がわかったのかケイタも振り返りざまに「いってきます」と笑って答えた。
ケイタが家をでると前で三人が出迎えていた。
「これからよろしくお願いします」
そういってケイタは頭を下げた。それを三人は笑って迎える。
「よろしく~」
「絶対死なせないわよ~」
「よろしく・・・お願いします」
「私はケイタといいます。一応森に入っいたりなどしてサバイバル知識は少しありますが、初心者に毛が生えた程度です。これからよろしくお願いします」
とコウタもいたがケイタは敬語で自己紹介をした。
「いってらっしゃいお兄ちゃん」
「いってきます」
翌日準備が終えたコウタご一行は村をこっそりでようとしたところでケーカと出会った。そして微笑ましい兄妹の時間をみた三人はつられて手を振った。
「「いってきます」」
「いってきま・・・す・・」
またまた新作です。新作出すのはいいもののほかがおろそかになっているので他も同時進行で頑張っていきたいです。