巡査・頭山怛朗の活躍(第十一話 妻の裏切り)
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おれは妄想した。妄想、あるいは希望。もしかしたら、熱望……。
刑事が妻に言う。「あなたを杉下左京さんの容疑で逮捕します」
「水曜の午後の九時にはベッドに入りました。あの日は日中色々あって疲れていました。あなた、そうでしょう? 」と、妻が言う。
で、おれは平然と答える。「あの日、珍しくお前はお茶を入れてくれた。九時前だった。それを飲んだら急に眠くなって起きたら朝だった」
「あなた、何を言うの!? 」
「警察まで同行願います」
妻はそれっきり帰ってこない……。
しかし、現実は少し違っていた。実際に逮捕されたのはおれだった。
刑事がおれに言った。「あなたを杉下左京さんの容疑で逮捕します」
「水曜の午後の九時にはベッドに入りました。お前、そうだろう? 」と、おれが言った。
でも、妻は平然と答えた。「あの日、あなたは夜中に出かけた。あなたは私が寝入っていると思ったようだけれど私は起きていた」
「お前、何を言うのだ!? 」
「警察まで同行願います」
こうして、おれは逮捕された……。娘も妻と同じ証言をしたことが決定的だった。
おれは“無罪”を主張したが、状況は全ておれにとって不利だった。杉下左京が殺された現場に残されていた珈琲カップからおれの指紋が検出された。その珈琲カップを妻が自分達と杉下の買った珈琲カップだ。なかなかの高級品だ。
「おれは本当に、あの夜、寝ていた」と、おれはテーブルの向こうの刑事に言った。
「それに、もし、おれが殺人を犯したなら現場に指紋を残すようなヘマをしない」と言った。
刑事(“警部補”と名乗った。)はおれを見つめ鼻の先で笑った。「ところが、奥さんは“あの男なら、そういうヘマをする”と仰いました」
絶体絶命だった……。
ところが、明日、検察に送致され日の夕方、逆転劇があった。おれは釈放され、妻が逮捕されたのだ。
おれは知らなかったのだが問題の珈琲カップ・セットには製造番号があった。おれの指紋が残っていた珈琲カップの製造番号は杉下家のそれとは違っていた。それは、本来、おれの家の<もの>だった。そして、杉下の家にあるべきカップがおれの家から見つかったのだ。
頭山怛朗という制服巡査が気がついたらしい。バナナマンの日村に似ていた。
「何故だ! 」と、おれは妻に言った。「おれが何をした? 」
「そう、あんたは何もしなかった! 」と、妻はおれを爬虫類でも見る眼で言った。
「私も愛してくれなかった。<ただ>で雇える家政婦としか思っていない。娘も愛していない! あなたは自分しか愛していない。あんたはそういう人よ! それにあんたは私達に暴力をずっと振るってきた。もう、我慢できなくなった」
「何故、杉下を殺した? 」
「あんたの友達だから! あんたの全てを奪いたかった! 」
世間ははめられたおれより、はめた妻と娘に同情した。
結局、おれは全てを失った。妻も娘も去っていった。おれは会社を首になり仕事を失った。
ただ、おれしか住まなくなった(仕事は失ったけれど)ローンがたっぷり残った家だけがあった。