過ぎ去りし風の後に
通された場所は
小さな物置の様な部屋。
どうやら文芸部の
プライベートスペースらしかった。
「申し遅れました。
私、霧島愛花と申します。
文芸部書記をしております。
…貴方には生徒会 庶務、
といった方が
思い出していただけるかしら?」
柔らかで優しげな笑みを浮かべ、
彼女はそう言った。
「生徒会 庶務…と言うことは
私に入学式の時に
話しかけて下さった方ですね!」
あの時は緊張のあまり
何をしたかでさえ覚えていない。
「あの時のスピーチ、お見事でしたよ。」
私は覚えていない事に
恥ずかしくなり
一言、恐縮ですと言った。
「突然だけど貴方には
この文芸部にはいってもらいたいの。
これは私の意見だけじゃなく
奏 会長の意見でもあるのよ。」
頭の中で
なんとか形を保っていた
清楚な私という壁が崩れていった。
「何故、私なのですか?
何故、ブルージルコニアバッチである
私なのですか?
先程、ここに来るまでにみました。
会長さんに群がっていた人々を。
あの人たちも入部希望者なのでしょう?
何故私なのですか?」
つい、口から出た
ブルージルコニアという言葉に
霧島先輩は優しく告げる。
「貴方は自分のバッチに
不満を持っているようですね。
貴方、知っていますか?
元々の奏 会長のバッチの色を。」
今はダイアの会長のバッチ。
あの容姿にあの風格。
ブラックジルコニアに違いない。
「実はね…。
イエロージルコニアよ。
アンダーランクのジルコニアでも
素晴らしい、誰もが目を見張る
ダイアモンドになれるって
奏 会長は証明したかったのよ。」
予想外の言葉に
思わず想いが頬を伝った。
さっきまで心の中にあった
仄暗い感情が
全て浄化されていくようだ。
なんて愚かな事を
考えていたのだろう。
なんて悲しい事を
考えていたのだろう。
ぽろぽろ、と流れ落ちるものを
静かに拭うもの、
それは霧島のハンカチと暖かな言葉だった。