第5話 寄り添うように、君は揺れゆく/Lily Marleneを抱きとめて
翌朝、僕はまだ開店前の甘奈処に来ていた。
あの後で、僕は彼女が少し酔っていたのもあって少しいちゃついていた。
その途中で、今日の予定を決めていた。
今日は村の中でも店の集まっている場所を中心に散策する予定だ。
……なのだが。
当の甘奈処に来ると、彼女がいない。
メールしても戻ってこない。
連絡の一切が繋がらないとなると、僕は彼女に何かあったのではという一抹の不安を覚えた。
とりあえず落ち着こうと考え、甘奈処の中に入る。
その、角にあるソファで寝ている百合さんが目に入った。
「昨日、ちゃんと家に返したよなぁ…」
彼女の、すぅ…という寝息が聞こえる位に近い位置で座ったままでいると彼女は寝返りをうった。
その寝返りが僕の方へと向かってきて、落ちないように体を支えると、体に触れる何かに違和感を感じた彼女が起きた。
起き抜けに目をしぱしぱさせつつも全く僕の存在に気付かない百合さんの肩を叩くと振り返った。
途端、幽霊でも見たかの様に、僕の手を離れて飛び退いた。
「おはよう、百合さん」
「おはよ…お、えっ?」
状況が理解出来ない様子の歌姫の肩を掴んで抱き起こす。
「昨日、家まで送りましたよね?なんでまた店にいたんですか?」
「あ…うん、その…忘れ物を取りに…」
言いかけた時、後ろからやってきた甘奈処のおばさんがニヤニヤしながら近付いて来た。
「百合ちゃんたら、張り切って朝早くから準備して来ちゃったのよね?」
「あっ」
「白いワンピース肩に下げて、着せて!!ってね?ふふふ、可愛らしいわ」
微笑ましいとばかりに、僕と百合さんを見るおばさんが、サービスと小豆のかき氷を出して去っていった。
百合さんといえば、耳元まで顔を朱に染めあげて恥ずかしさからか足をじたばたしている。
これは、男には嬉しい話だ。
僕は暴れる百合さんが落ち着くまで待つことにした。
…―…―…―…―…―…―…―…―…―…
「で、早く来すぎたからソファに寝そべっていたら寝てしまっていたと」
百合さんがまた、器用にスプーンを足で掴んでかき氷を食べている。
「そうよ、あたしだってこういうの初めてだから、その。浮ついてたの」
百合さんが少しずつ食べているかき氷と同じ物は、さっき食べきってしまった。
彼女が食べるのを待ちながら話している最中に僕は真っ直ぐ彼女を見れずに横に視線を逸らしていた。
「……さっきからあたしを見ないけど、あたしなんか変?」
気付いた百合さんが僕を問い詰める。
だが、これは言っても怒られるし、逆に言わなくても怒られる。
だが、彼女の名誉の為にここは言おう。
「百合さん、ワンピース姿でそれやると下着が丸見えになるよ」
暴れ終わるまでに、かき氷は溶けた。