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04:届けものは唐突に


『あっはははははは! ごめっ……ちょ、それほんとに?』


 所変わって、LATS学生寮内自室。携帯電話(旧式のものではなく空間モニター付だ)の向こうから親友・音羽弥生の笑い声が響いた。

 ここLATSは学生、教員はほぼ全員(例外あり)寮に入る決まりがある。もちろん私も例に漏れず入寮なのだが――もともと操縦士科は男子校として設置されたため、寮生は全員男子。私は男子寮の一室を一人部屋として占拠していた。

 ちなみに一方の整備士科は若干名ながら女子生徒が入学・編入しているため、食堂は共通だがバス・トイレ、部屋は別に棟が用意されている。


『まあ椎奈は、今のところ女性唯一のLAT操縦士だからね。やっかみとかはあるって』

「それは覚悟の上だったんだけどさあ……」


 だからって入学早々、決闘なんてすると思うわけがない。


「もう……統也兄が何考えてるのか全然分からないよ……」

『もう、泣かないの。明日から特訓するんでしょ? あたしも手伝うよ』

「弥生……ありがと」

『いいの。……元はといえば、あたしのせいで、椎奈が入学しなくちゃいけなかったんだしさ。じゃ、また明日ね』

「うん。お休み」

『お休みー』


 モニターの電源を落とし、私はベッドに倒れこんだ。



 ◇



 もともと、私はLATSに入学……どころか、受験すら考えていなかった。LATは男性にしか動かせないと思っていたし、私自身に才能なんてないと思っていたから。両親を亡くし、仕事で忙しく滅多に家に帰って来ない兄の事を考えたら、寮に入れないし。

 弥生との出会いは、中学に入学した時。同じクラスで、同じあ行で席も近くて(本人に言わせれば受験の時も同じ教室だったらしい)。入学時オリエンテーションで一緒の班になって、いつの間にか友達になっていた。剣道部に入部した彼女から「マネージャーでいいから!」と懇願されて入部したら、いつの間にか正式な部員として大会参加人数に含まれていたのはいい思い出。

 クラスは持ち上がり、高校もそのまま内部進学を予定していた、三年生の冬。うちの中学がLAT簡易操縦試験を学年単位で行うことになった。対象は三年生。こういう機会でもなければ一般女子がLATに触れる機会なんてないと言わんばかりに、学年のほとんどが受験を希望した。簡易ランクによっては内申に加算されるということもあったのだろうけど。

 そんなこんなで私は弥生に巻き込まれ一緒に操縦試験を受けることになり、あんな結果を――女性初のシングルA+ランクを叩き出してしまった。

 問題はこの後だった。『異常事態』ということで私は校長室に隔離され、後見人が呼び出され、後見人――渡辺零さん経由で兄が呼び出された。というのも、この時の簡易試験受験者は全員が女子。一人でも優秀な人材を発掘・スカウトしようと各国政府――というより各国LATF、各国のLAT関連企業の関係者が視察に訪れていた。もちろん彼ら全員、私のランクを見たわけで――結果マスメディア総出の大騒ぎになってしまった。LATSへの入学は、私の保護を兼ねているのだ。原則的に中立の立場であるここでは、どの国家も例外なく、私と接触はできない。

 しかしこの出来事を私以上に深刻に受け取ったのは、弥生である。受験に消極的だった私を誘わなければ、こんなことにならなかったのにと。責任を感じて、内部進学予定だった彼女もまた進路変更し、LATSの整備士科を受験。この春見事合格を掴み取った。


「……好きで、LATを動かしたんじゃないんだけどなあ……」


 そもそも、自分が何故LATをあそこまで操縦できたのかもまだ分かっていない。訓練をしたこともない。なのに、何故。


「……電話?」


 内線電話が鳴り響く。ディスプレイには「寮監」と表示されていた。ちなみに一年生寮の寮監は我らが1組担任・副担任コンビである。


「はい、秋月です」

『あ、秋月さん。よかった、まだ起きてましたか』

「消灯は22時ですよね……?」


 現在20時です、と電話の向こうの支倉先生に内心でツッコミを入れる。


『そうですよ。ちゃんと学内規則に目を通してくれて嬉しいです……あ、もしかして勉強中でした!?』

「い、いえ、大丈夫です!」

『そうですか。実は秋月さん宛てに荷物が届いてまして』

「私宛に、ですか? 兄さん……じゃない、秋月先生じゃなくて?」


 何だろう。部屋自体机とベッド、テレビは備え付けのものだし、簡易キッチンに置くような最低限の食器は既に家から持ってきてある。服はもちろん、バス・トイレ用品だってそうだ。送られるようなものはないはず。


『はい、しっかり秋月椎奈さん宛てに。差出人は……後見人さんですね。渡辺零さんです。あ、中は見てないですから、安心してくださいね! それでですね、荷物なんですけど1階の寮監室で預かっているんで、取りに来てもらっていいですか?』

「あ、はい。分かりました。すぐ行きます」

『はい。お待ちしてます』


 通話が切れたことを確認して、私は受話器を置く。脱いでいた制服のジャケット、スカートを着て身なりを整えた。部屋を出て、オートロックがかかったことを確認して寮監室へ急ぐ。寮監室は1階入り口のすぐ横にあるから、私の部屋からだと出てすぐの階段を降りるだけでいい。食堂からは一番遠いけど、入り口は近い。

 呼び鈴を押すと、すぐ扉が開かれた。出てきた人物は他でもない――秋月統也である。


「椎奈か。どうした?」

「支倉先生から内線があって。私宛に、零さんから荷物が届いてるって……」


 スーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを外したラフな姿で兄は立っていた。その向こう――室内にいた支倉先生は来客に気づいて、あわあわ言っている。呼び出したのはあなただ。


「あ、秋月さん。お待たせしました」


 段ボール箱を抱えて、支倉先生が奥から出てくる。箱自体は洋服の通販で使われるものと大差ないものだった。支倉先生の言うとおり私宛で、差出人は後見人である。


「すいません、わざわざ呼び出したりして」

「いえ。それでは、失礼します」


 やや早足で部屋に戻り、中身を確認する。丁寧に梱包されていたのは、黒の地に白いラインが入ったフィッティングスーツだった。ハイネックで、袖の無いレオタードや水着にも似たデザイン。二の腕まで覆う手袋とオーバーにーソックスも同様に白いラインが入っている。もしかして、これは……。

 と、スーツを包んでいる袋に一枚の紙が入っていた。見覚えのある、達筆な字でこう書かれている。


『お前用のインナースーツだ。サイズは問題ないと思うが、何かあれば携帯まで。渡辺零――追伸、進学祝いはしばし待て』


 どうやらこのインナースーツは入学祝いらしい。




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