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03:クラス代表?

 二時間目の授業が終わりを告げる頃、制服の内ポケットに仕舞っていた携帯が音もなく震えた。担任・副担任が教室を出たのを確認してから、私は携帯を取り出す。メールは二通。一通はここLATS整備士科に進学した友人・音羽弥生(おとはやよい)。もう一通は高等部に内部進学した中学時代の友人・吉永梓(よしながあずさ)からだ。

 梓からのメールは、一言で要約すると「裏切り者!!」だった。中学時代から一昔前の肉食系女子――本人たち曰く「恋に恋する乙女なだけ」らしいが――な彼女たちは、私と弥生がLATSに進学すると知った瞬間から目の色を変えて詰め寄ってきたものだ。エスカレーター式の女子校だった母校・桜ヶ丘学園は女の園で――正直に言おう。特定の部活に所属でもしない限り「出会い」はない。しかもその部活は競争率が非常に高いため入部希望者はもちろん既に所属している先輩たちのレベルも高かった。で、女子たちは男子との出会いの場を求めては玉砕する。そんな中私がLATSという男子校に入学することを知った彼女たちは――言えることは、女子校に通う女子全てが「世間知らずなお嬢様」でなかったことを痛感したことだ。

 弥生からのメールは梓のメールに関する感想と、あちら――整備士科の様子を知らせるものだった。整備士科の一年生には彼女を含めて二人の女子生徒がいるものの、違うクラスになったらしい。それでもだいぶうらやましい。こちらには私一人なのだから。

 溜息を吐いていると、「椎奈」と呼ばれて肩を叩かれた。振り向くと、そこには魁人が立っている。


「次、移動だよ。さっき支倉先生が言ってたけど……」

「……ごめん、聞き逃してた」


 手には指定ジャージとインナースーツ。本日最後の授業――フィジカルチェックである。



 ◇



 単刀直入に言うと、LATの操縦には体力と運動神経が必要不可欠である。LAT自体に最新のパワーアシスト機能が搭載されているけれども、それはあくまでも機能。それを使う側には最低限のフィジカル(といっても自衛隊並のものらしい)が要求される。

 そんなわけで今、私たちは学園のアリーナグラウンドを走っては機器によるチェックを受けていた。基礎体力や瞬発力、そのほかエトセトラ。アリーナと言われるだけあって広い。陸上競技場よりも広いし、高さがある(LATは飛行するのだから当然だけど)。

 そして最後は、LATの操縦。本来なら数人で一機を使い回す程しか配備されていないLATを、今日だけは一人一機ずつ使うことができる。これで入学後のランクを改めて計測し、中間テスト後から始まる習熟度別授業に役立てるらしい。

 私が選んだのは、第三世代型LAT『白菊』。簡易操縦試験で使用したLATであり、最初から訓練用に製作された第三世代型の中でもっとも広いシェアを持つ機体だ。


『あー、あー……秋月さん、聞こえますか?』


 スピーカーを通じて、支倉先生の声が届く。わざわざマイクテストしなくていいのに。


「はい、聞こえます。大丈夫です」

『了解です。では早速ですが――』


 先生の指示に従い、『白菊』のセットアップを済ませる。手順としてはハイパーセンサーに映る情報を機体情報に変更し、エネルギーバイパスに異常がないかとか、操縦者のバイタルは平常値かどうかを確認する。結果、問題なし。システムは正常に作動し、『白菊』はインナースーツに覆われた私を、更に覆うようにその装甲を展開する。


『はい、異常ないようですね。それでは早速動いて――』

「椎奈、危ない!」


 魁人の声に反応した体は、自動的に相手を迎撃していた。視界の向こうには真紅色のLATが、その操縦者と共に剣を振り下ろしたところである。――あんなLAT、いたっけ?


『えええ!?』


 あ、支倉先生が涙声だ。そんなことを考えながらも私はインストールされていた武器――名称未設定・刀を右手に展開する。


 鈍い音を響かせて、刃と刃はぶつかりあった。


『ふん。さすがは『女性初』というところか……だが!』


 斬撃をいなして、真紅色のLATは背後を見ないまま遠ざかる。その手には同色のライフル。ちなみに訓練用の『白菊』には射撃武器がインストールされていない。最悪、と舌打ちして私は相手を追う。


『第三世代型で、追いつけるとでも?』

「やってみなきゃ……分からないでしょうが!」


 速く、速く。


 風よりも、光よりも、速く。


(お願い、『白菊』……!)


 ブンッとスラスター翼が唸りをあげた。速度は比較しないでもわかるくらい上昇し、それと同時にセンサーに映し出される情報――主にその数値がみるみるうちに上昇し始める。下からどよめきが聞こえるけれども、気にならない。――この感覚を、私は知っている。

 速度を維持したまま、不規則な軌道で相手の懐まで潜り込んだ。相手の顔――バイザーで覆われて見えないけど、さすがに焦っているらしい。手にした刀で切り上げる――瞬間、私たちめがけて弾雨が降り注ぐ。


『二人とも、そこまでだ。降りて来い』


 センサーを通じて、統也兄の声が聞こえる。うっわあ、めちゃくちゃ怒ってるよ……。大人しく降りてきた私と真紅色のLAT、そして支倉先生。先生と真紅色のLATは同時に展開を解除して、地面に降りた。


(えっと、確か解除はっと……)


 『白菊』を着地させ、立たせたまま装甲を私の体から離す。そのまま前部のパーツを掴んで、私は飛び降りた。


「遅くなり、申し訳ありません」


 開口一番に、真紅色のLATの操縦者は言う。金色の髪に、青い瞳――かつて弥生が言っていた、「LATS生徒は顔面偏差値高すぎ!」という言葉に、私は全力で同意しよう。つまるところ、贔屓目なしのイケメンがそこにいた。


「LATFイギリス本部士官候補生の、セシル・フォートリエであります。本日よりこちらでLAT操縦の指導を受けることになりました。よろしくお願いいたします」

「ああ。……噂通りの操縦者だな。機体との相性もいい」


 彼――セシル・フォートリエに答えた統也兄は、手にしていた出席簿で自身の肩を叩く。その言葉にセシルは誇らしげになり、プライドが高そうな顔で「当然です」と答えた。


「しかし、俺の実力も――この『スカーレット・レイン』の性能も、先ほどのが全てではありません」

「当たり前だ。仮にも第四世代型の新型が、第三世代型の訓練機に追いつかれるほどのスペックでどうする」

「っ、あ、あれは……彼女の実力を測るためです」


 余計な御世話だ。内心でそうツッコミを入れていると、統也兄は溜息を一つ吐いて全員を集めた。――ちなみにLAT操縦チェックの順番は、私で最後だ。理由は統也兄曰く「目立つ」から。


「それと、秋月」

「は、はい!」

「1うちのクラス代表、お前がやれ」

「はっ……えええええええええ!?」


 いきなり何!? クラス代表って何!? それ以前に何で私が!?


「ちょっ、とう……じゃない、秋月先生!」

「異論は認めん。素直に引き受けろ」

「理由くらい聞かせてください! 何で私が……!」


 言いかけて、私は口を閉ざす。そうだ、理由なんて簡単だ。私は『世界初の正式女性操縦者』なのだから。女性でただ一人、LATを動かすことができるから。士官候補生のセシルや、彼が持つ最新型LATに比べて、話題性があるから……。

 ……結局、見世物ってことじゃない……。


「納得いきません!」


 その声の主――セシルは明らかに怒りのオーラを纏っていた。


「クラス代表というのは、文字通りこの一組を代表する生徒のこと。ならそこの女より、イギリス本部士官候補生の俺こそふさわしいと思いますが」

「なら、実力で決めるか?」


 ……兄よ、今何と言った? 「実力で決める」? クラス代表を?


「そこまで言うのなら、このクラスの代表は秋月とフォートリエの模擬戦の結果で決めよう」


 その言葉に、クラスが騒然となる。片や士官候補生、片や素人。後者に勝ち目がないのは見えている。私だってそう思うし、同時に兄の真意を計りかねていた。彼は万分の一の奇跡を信じるような人ではない……はずである。


「その代わり、フォートリエ側にエネルギー量半減と兵装制限のハンデを付ける。いいな?」

「はい!」

「勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行う。秋月、異論は無いな」

「……はい」


 ここで騒いでも結果は覆らないだろう。伊達に兄妹をやってない。


「それでは、本日の授業はこれまで。着替えた者から教室に戻り、寮へ帰れ」


 寮の場所は配布されたデータに入っている、とだけ統也兄は言った。







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