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一章/零話『異常者の最期』
朝焼け、赤い空の下。
病服の青年は一人、道を歩く。
病室から目にしていた海は何処かと、彷徨い歩く。
「―― 」
ただ、それだけである。
もはや正気は失い、意識は消え、意志など遠い彼方。
故に、ただそれだけ―― 海にゆこうと、ただそれだけである。
「―― 私は」
I am.
「私は……私は……私は、私は……私は―― 」
I am I am I am I am I am.
横断歩道、どちらの色で止まるのかも分からない。
思い出せない。思い出したくない。思い出すつもりなど、青年にはない。
「―― 」
医者は言った、心の病だと。
頑張りすぎたのだと。
「―― 」
両親は言った、恭一なら大丈夫だと。
文武両道、謹厳実直、品行方正―― 天才そのもの、秀才とは己、鬼才たる学徒。
―― 否。
「私は」
――赤。
「 わた、し…… ?」
Who am I
軋る車体の音と、耳を劈くブレーキの音が、延々反響するのだった。




