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ギフト! ~ 魔女とか婚約破棄とか令嬢とか勇者の妹とか~

はい、さよーなら。一方的な運命の人。

掲載日:2026/03/15



わたしの唯一の女友達であるジョアンナ・スミス。

夜の闇を集めたような漆黒の髪とサファイアのような青く輝く瞳を持つ伯爵令嬢だ。

今日はジョアンナの結婚式。

純白のウエディングドレスを着たジョアンナは、女神さまのように美しかった。


「ジョアンナ! 今日はおめでとう!」

「エリザ! 来てくれたのね!」


親族と思しきご婦人と話していたジョアンナは、わたしが花嫁控室に入って、声を掛けるや否や、わたしに笑顔を向けてくれた。


ああ……。きれい。いつも超美人だけれど、今日のジョアンナは、女神さまのように美しいわ……。


思わず両手を合わせて拝んでしまった。南無南無。


「エリザ、何しているのよ……」


訝しげにジョアンナが言った。


「いや、だって、ジョアンナが美しすぎて女神様みたいだから、ここはひとつ、お祈りをしてご利益を……って」


わたしがそう言ったら、ジョアンナは大きな口を開けて爆笑した。


「あははははは! ホント、エリザってば、顔に似合わず面白い子ね!」


顔に似合わず……って、まあそうなんだけど。わたし、外見は「さみしさに震えるウサギ」なんて言われてしまうような、庇護欲を誘う系。

しかも、本来の髪の色は輝くようなピンクゴールド。瞳の色も赤みがかったピンクで。ますますウサギっぽい。

つまり、外見だけだったら、わたしは、演劇や小説でよくある『悪役令嬢にいじめられる可哀そうなヒロイン』的なのだ。中身と性格は違うけどね!


ちなみにジョアンナは『悪役令嬢』っぽいかな。

きりっとした目元なんて、わたしはかっこいいーって思うんだけど。

まあ、今はそれはともかく。


「……ジョアンナ。そんなに口を大きく開けて笑ったら、せっかくのお化粧が崩れるよ」


ジョアンナは「ああっ! どうしましょ!」と今度は目を大きく見開いた。


「うふふ、おほほ」と扇で顔を隠してお上品にお笑いになるご令嬢より、ジョアンナみたいに気取らずに笑うほうが、わたしは好きだけどねー。


だけど、ジョアンナはこれから結婚式なのだ。しかも新婦よ、お嫁様よ。

その新婦のお化粧が……と思ったら、側で控えていた伯爵家の侍女なのか、それともこの式場の係の人なのか。

ジョアンナを椅子に座らせると、あっという間に化粧を直してしまった。


「すごい修正技術」

「でしょう。ウチの侍女たちは腕がいいのよ」


ジョアンナが自慢気に言ったら、使用人の人が嬉しそうに頬を染めた。うん、美人に褒められると嬉しさ倍増よね。


「その化粧技術、わたしにも教えてほしいわ」

「……うーん、エリザは化粧なんてしなくても可愛いから、覚える必要ないんじゃない?」

「ありがとうと言っておくわ。でも、わたしのこの顔の、かわいらしさを引き立たせるんじゃなくて、平凡に見せるための化粧技術は覚えたいんだよね」


可憐で可愛らしく震える背の低いご令嬢なんて、もうね、勘違いした貴族令息の獲物でしかないのよ。


わたしが楽しくジョアンナとお話しているだけで「スミス伯爵令嬢。可憐な下級貴族の娘をそのように脅すのはいかがなものかと思われる」なーんていかにも紳士ですよ的に言ってきて、わたしとジョアンナの仲を引き裂くだけじゃなくて。

「もう大丈夫だよ、この俺が君を守ってあげるからね」なんて、わたしの手を掴んでくるの。


「ふざけんな! 勘違い野郎! その手を離せ! ウザいっ! わたしとジョアンナは仲良しよっ!」


わたしが怒鳴っても「ああ、可哀そうに。無理矢理に言わされているんだね」なんて。


めんどくさいから、そういう輩の股間を思いっきり蹴り上げて、わたしはジョアンナの手を引いて逃亡……。


貴族学園に入学している間に、こんなことを何度繰り返したか……。

過剰防衛なのはわかっているけど、このくらいしないと引き下がってくれないのが困りもの……と、悩んでいたら、わたしの兄が良いものを作ってくれた。


それはなにかと言えば。

髪と瞳の色を変えてくれる魔法のペンダント。

これを首からかけていると、わたしのピンク色の目立つ瞳と髪の色は、実に平凡なベージュ色になった。

ついでに眼鏡をかけて、メイクで頬にそばかすなんかを散らせば……。

平々凡々な、小娘の出来上がり!


兄、すごい!

兄、天才!


褒め称えたら、兄は得意げに言った。


「このペンダントを使えば、髪と瞳はどんな色にでも変えられるんだ。初期設定をすればいいだけだからね」


で、ジョアンナで実験。

薔薇の花のような赤い色や、初夏の木々のような緑色にも変えることができたのよ。


ジョアンナは言った。


「これ、売り出したら、高位のご令嬢たちの間で流行するんじゃないのかしら」


大々的に売り出そうとも考えたんだけど、わたしはストップをかけた。

……犯罪に使われたらね、困るからね。

だって、殺人が起こって、その犯人が金髪でしたって証言が出たけど、実は兄のネックレスで色を変えただけで、本当は赤い髪でした……なんてことが起こっては困る。


だから、まず、すごくお高く見えるネックレスをひとつ作って、それを王女殿下に献上させてもらった。

王女殿下は喜んで、それを誕生日のパーティでつけてくれた。

で、色を変えるこのネックレスが欲しいというご令嬢やご子息が山のように……なんだけど。


「このネックレスは、我が兄の命を削ってつくるものでございまして。そうやすやすと作れないばかりか、原材料費などなどが、かなり高額で……」と、わたしは嘘を言って吹っ掛けた。


うん、ネックレスひとつで、侯爵家の年収程度にね。はっはっは。買えないでしょ。はっはっは。


……でも、世の中には、おっそろしいほどのお金持ちっているのよね。

王妃様、筆頭公爵家のご令嬢、他国の姫。

この三名様が、お買い上げ……わーお。


ま、まあ、高貴なる皆様なら、犯罪利用は……ないよね? 信じているぞ?


そんなこともあり、我が家には莫大な金が入り、すばらしい装飾品を開発したと言って、そして更に、わたしの家は男爵家から伯爵家へと位が上がった。


お兄様やお父様は何が起こったのかわからないとばかりに呆然としていたけど、わたしとジョアンナは喜んだ。


「わーい、これでわたしたち、同じ伯爵令嬢! お揃いね!」って。


位は上がって、生活は安泰。

わたしの外見も平凡になれば、勘違い野郎どもに絡まれることもなし。


それで、わたしはジョアンナと楽しい学園生活を過ごしたのだ。


で、その学園も卒業し、今日はジョアンナの結婚式。


流石の今日だけは、わたしも本来の姿に戻って、ピンクの髪を結いあげて、可憐な若草色のドレスなんて着て、参列したのだけれど……。


ぬかった……。

今日も……今日も、貴族学園に通っていたときと同じように、平々凡々な外見で参列すればよかった……。


そう思ったけど、それも後の祭り。


結婚式の、その会場。


わたしは、新婦側の友人席に大人しく座っていた。

ええ、大人しくですよ。

多少はドキドキしていたかもしれないけど。

ああ、ウエディングドレスのジョアンナが、あの扉を開けて、ヴァージンロードを通り、そして、神父様の前に進み、新郎と共に永遠の愛を誓うのね……って。


えーと、わたしの前世であるところの、現代日本とかならね、結婚に夢を持つ人もいれば、バリキャリ目指す人もいれば、田舎でスローライフが夢の人なんかもいるんだろうけど。

今わたしが生きている、中世ヨーロッパ的な世界では、貴族の娘のしあわせは結婚だなんて感じだしね。

わたしはまあ、ジョアンナと仲良くしていられれば良かったんだけど。

ちょっと考えなきゃいけないかなー。


現代日本の感覚で、このまま独身っていうのは、この世界では生きにくい。

それでも、現代に本人の感覚を引きずっているからこそ、貴族のご婦人として夫を支えて生きるのはちょっとねーなんて思っちゃうし。


まあ、出たとこ勝負ーって思っているうちに、唯一の女友達であるジョアンナが結婚しちゃう……。


ジョアンナは転生者とか前世持ちではない。ごく普通の、この世界のご令嬢だからなあ。きっと、結婚して、夫を支えて、子を産んで……がしあわせと思っているだろう。


学生時代のように、ジョアンナとずっと一緒というわけにはいかない。ずっと一緒に親友で……って気持ちがあったとしても、結婚、妊娠、出産、子育てとくれば、学生時代みたいにべったりなんて無理無理の、無理。


それに住んでいる場所の問題だってある。

電車にバスなんてない、徒歩もしくは馬車が移動手段のこの世界。

お互いの領地に引っ込んじゃったら、年に一回会えればいいほうでしょう。

いや、数年に一度になっちゃうかなー。さみしいなあ。


だから、わたしもそろそろ、この先をどうするか考えなきゃ。

兄も、伯爵家を継がないといけなくなったから、これまで通り、魔法道具を作ったり開発したりで楽しいだけの生活は送れないだろうし。当面は、兄を手伝って暮らすかなー。


そんなことを考えながら、参列していたの。


だから、気がつかなかった。


祭壇の前で、新婦であるジョアンナを待っているはずの、新郎。

ジョアンナの夫となるはずのフィリップ・ウェルズ伯爵令息。

彼が、わたしをじっと見つめていたことに……。


そう、全く気がつかなかった。

わたしは自分の将来をぼんやりと考えつつ、ジョアンナの入場を待っていた。

そうして、教会の扉が開かれて、ジョアンナがジョアンナのお父様にエスコートされて入場してくれば。


もう、意識はジョアンナに集中よ。

ああ、美しい花嫁。光り輝いて、神々に祝福されるよう……。

眼福。

嬉し涙がこぼれてきそう。

なんて美しいの、わたしの女友達は……。

将来、もしかしたら、疎遠になってしまうかもしれないけれど、このときのジョアンナの美しさと輝きを、目に焼き付けよう……。なんてね。


そうして、しずしずと進んできたジョアンナとジョアンナのお父様が祭壇の前で足を止めた。

そして、エスコートをジョアンナのお父様から新郎であるフィリップ・ウェルズ伯爵令息にバトンタッチ……を、する、はずだったのに。


いつまで経っても、フィリップ・ウェルズ伯爵令息はジョアンナの手を取らず、茫然としているだけ。


えっと?

どうしたのかな?


神父様が「どうかされましたか? ご気分でも?」と聞いているけど、耳に入っていないみたい。


「フィリップ様?」


ジョアンナが小声で聞いても以下同文。


呆然と、新婦側の友人席を見つめて……って、あれ? もしかして、わたしを見ている……?


ま、まさか、貴族学園のときと同じように、わたしがジョアンナにいじめられているとか勘違いしているなんて……。まさか、ない、よね……。


だけど、フィリップ・ウェルズ伯爵令息は祭壇の前からヴァージンロードを通り、わたしがいる友人席のほうへといきなりやってきた。


「何だ?」

「どうしたんだ?」


招待客たちも騒ぎ出した。


ジョアンナも、ジョアンナのお父様も……フィリップ・ウェルズ伯爵令息のご家族も、何が起きているのかわからないという顔だ。


もちろんわたしもだ。訳が分からない。


「ピンク色の髪、ピンク色の瞳、可憐で、庇護欲をそそられる、ご令嬢……」


確認するように、フィリップ・ウェルズ伯爵令息が呟いた。……それは、つまり、このわたしの外見的特徴だけど。ここに、その形容に当てはまるご令嬢はわたししかいないけど。


「ああ……、十年ぶりの再会ですね。今日という日にあなたに再会できて、嬉しく思いますよ、ベス。初恋のあなたを、私はずっと探していたんです」


フィリップ・ウェルズ伯爵令息が、わたしを見て、にこやかに笑った。


は、い?

十年ぶりの再会?

ずっと探していた?


……何言ってんの、コイツ。


十年ぶりの再会も何も、わたしとジョアンナとフィリップ・ウェルズ伯爵令息、クラスは違うけど、同じ貴族学園の同じ学年に通っていましたが。


ついでに言うのなら、わたしとジョアンナは仲良しですからね。

ほぼ毎日、学園のカフェでジョアンナと一緒にお茶お飲んだり、図書室でジョアンナと一緒に勉強したり、教室でジョアンナと一緒におしゃべりしたりしていましたよ。

そのとき何度か、アンタも来たじゃない。

一緒のテーブルでお茶を飲んだことすらあったでしょうが。

「親友のエリザよ」ってジョアンナがアンタにわたしを紹介したでしょうが。

お前の目は節穴か?


ああ……、でも、フィリップ・ウェルズ伯爵令息はわたしを見て、わたしを「ベス」と呼んだ。エリザ嬢とかではなく。


ということは……。


まず、第一に、わたしの名前はエリザベス。

家族とジョアンナはわたしを「エリザ」と呼ぶ。

だけど、一部、「ベス」とわたしを呼んだことのある人達もいる。

それが誰かと言えば……。


たとえば貴族の令息令嬢が集まるお茶会。そんなところで可憐な容姿を持つわたしは、多くの令息に囲まれ、多くの令嬢に敵視されてきた。

 

もう、嫌になって逃げまくったんだよね、当時。

それでもしつこい奴がいて、名前をだとか、婚約の申し込みをだとか、ホントウザい。

それでもにこやかに対応しないといけない貴族社会。ああうっぜえ……って、言葉遣いが……つい、前世の言葉遣いが出るわね……。


で、嫌な奴には「ベス」を名乗った。一応本名の「エリザベス」の愛称と言えなくもないからね。嘘ではない。


で、家族やうちの使用人たち、それからジョアンナは、わたしが誰かに「ベス」を名乗るイコール「気に入らない」「不快」ということを理解してくれているのよね。


そんな「ベス」をフィリップ・ウェルズ伯爵令息が呼んだということは……。どこかのお茶会とか交流会とかで会ってはいたんだろう。わたしは覚えてはいないけど。


しかも、今はジョアンナとフィリップ・ウェルズ伯爵令息の挙式中だ。

ヴァージンロードを通って、祭壇の前に進んだ花嫁を放置して、友人席にいるわたしに向かって。


嫌な予感しかしないんですけど。


「ああ……。結婚する直前で出会えたのは運命だ……。ベス、やはりあなたが私の初恋の人で、運命の人……」


出たよ、運命の人。


わたしを、勝手にそう呼ぶご令息のなんと多いことか……って、自慢でもなんでもないよ!


好きですと告白されて、わたしが好きですと答えた後の運命の人ならね、許容範囲。

だけど、わたしは前世と今世、共に好きになった男性はいない。


勝手に、盛り上がって、勝手にわたしを運命の人にする男。

そういうのってさあ、わたしのことなんかこれっぽっちも考えていなくて、自己中心的で、すっごく気持ち悪い。


しかもその気持ち悪い男が……わたしの唯一の女友達の夫となる人。


なにこれ悲劇? 

それとも喜劇?


「運命のあなたに再会できた以上、ジョアンナ・スミスを妻にすることはできません。ベス、私の妻となるべき人は、あなたです」


うっわ! 何勝手に言ってんの! 気持ち悪い! 

アンタの妻になんてなりたくないよ!

何を勝手に「私の妻となるべき」なんて言ってんの⁉

しかも、この結婚式の最中に、ジョアンナを妻にすることはできないなんて、アンタ、ジョアンナを馬鹿にしているの⁉


ふつふつと怒りが湧いてくる。

おい、貴様。勝手に何を言ってやがる。

思わず言いそうになった。

けど、コイツは、ジョアンナの夫となるはずなのだ。


思いっきり貶してやったり、股間を蹴り上げるのは……、マズいだろうなと思って、体を震わせて俯くにとどめる。


そうしていたら、わたしが運命の再会に喜んでいるのだと勘違いした野郎は「挙式直前に出会えたのは神の思し召し」だとか「元々愛していたのは、ベスだけで、ジョアンナとは親に言われて仕方がなく結婚するしかなくなって」だとか、べらべらと勝手に言いまくっている。


あー……。

それが貴様の本性か。


溜息を吐いて、顔を上げる。


ジョアンナを見れば「信じられない、何をおっしゃるの、フィリップ様……」と、震える声を出していた。


「すまない、ジョアンナ。あなたとの婚姻は、いわば政略。私の愛は、ベスのものなのだ……」


おい。勝手にお前の愛をわたしに寄越さないでよ。

そんなもの要らないわっ!

どぶ川に捨てるから、海まで流れて行ってよっ!


「ベス……? フィリップ様はベスという女性を愛しているの? わたくしに何か、瑕疵があったの……?」


青い顔のジョアンナが体をふらつかせ、それをジョアンナのお父様が支えた。


「ジョアンナ、あなたに瑕疵はない。私もこの運命の再会があるまでは、あなたの夫として生きていくつもりだった。だが、神に永遠を誓う前に、初恋のベスと再会してしまったのだ。これは神の啓示。私はベスと結ばれるべきなのだ……!」


高らかな、宣言のように言ったフィリップ・ウェルズ伯爵令息。


酔っている。コイツ、運命とやらに酔っているよ……。


「そう……ですか、フィリップ様、いいえ、ウェルズ伯爵令息」


それまでの青ざめた顔やふらついて父親に寄り掛かっていた傷心のご令嬢はどこに言ったのやら。

ジョアンナは、ヴェールを思いっきり手で掴む。それを取って床に投げ捨てた。


「では、結婚式は中止。ウェルズ伯爵令息は運命の恋に生きる。そして、このわたくしに瑕疵はない。すべてウェルズ伯爵令息の責ということですわね」


にっこりと、ジョアンナは、大輪の薔薇の花が満開に咲き誇るような、壮絶に美しい笑みをウェルズ伯爵令息に向けた。


そして、床に投げ捨てたヴェールを、靴で思いっきり踏みつけた。


「会場にお越しの皆様の申し上げます。この通り、ウェルズ伯爵令息の有責にて、婚姻は破棄、結婚式は中止となります。そして、我が最愛の友であるエリザベス・マクファーレン伯爵令嬢」


ジョアンナは、わたしの名を呼んだ。いつものように「エリザ」という愛称ではなく、しかも、フルネームで。


どき……っと、わたしの心臓が鳴った。

ジョアンナは、わたしに何を言うの……。

まさか、わたしが、運命の再会とやらに喜んで、ウェルズ伯爵令息の手を取るなんて、考えてはいないわよね……。


ウェルズ伯爵令息なんてキモイ男は地獄に落ちてもどうでもいいけど、わたし、ジョアンナに嫌われるのは……嫌。

だって、たった一人の友達なのに。

ジョアンナに嫌われたら……。


だけど。わたしのその考えは、杞憂だった。


「エリザ。わたくし、そんな気持ち悪い男、要らないわ。あなたはどう?」


わたしは即答した。


「ジョアンナを馬鹿にするような男はゴミでカスでクズよ!」


ジョアンナは楽しそうに笑った。


「うふふ。じゃあ、わたくしは、こう言うわ。エリザ、そんなスカポンタンは、や~っておしまいなさい!」


イエッサー、女王様!

ジョアンナに嫌われていないのなら、わたし、勇気百倍。


フィリップ・ウェルズ伯爵令息に向かって、にっこり笑う。


「気持ち悪いわ、運命野郎!」


にっこにっこと、可憐に可愛らしい顔で、言い放つ。


「ひとりで勝手に盛り上がって、ひとりで勝手にわたしを運命の人扱いする勘違いのクソ野郎!」

「は……?」


わたしの言葉に、フィリップ・ウェルズ伯爵令息は目をまん丸くしている。

ええ、わたし、お嬢様言葉もできますけど、何せ、前世は日本人。それなりに啖呵も切れるんですよふっふっふ。


「運命に酔いしれて、十年ぶりの再会とか言ってるけど、わたし、貴族学園でアンタと同じ学年に所属してましたんで、日常的に会っています! しかもアンタの妻となるはずだった、この麗しのジョアンナと一緒に陰でお茶したり、図書室で勉強したりと、常に一緒にいたから、ご挨拶も当然していましたけどね!」

「え……?」

「髪の色を変えただけで、わからなくなるようなお粗末さで、運命の恋なんて、ちゃんちゃらおかしいわ! 顔を洗って出直してきやがれ! あ、出直さなくていいや、二度と会いたくないんで!」


出直したところで、蹴っ飛ばして差し上げるだけですが、おーほほほ。

何か文句ありまして? なーんてね!


「さらに親切に言ってあげますけど、結婚式のこのときに、新婦の友人に対して運命の恋とか言い出すなんて、頭、湧いているの? 非常識にも程がある! ゴミクズ以下。運命に酔いしれた独りよがり野郎。お花畑思考の非常識さ。せめてもの誠意を見せて、さっさとジョアンナに慰謝料を支払いなさい。支払いさえ済めば、アンタなんて不要です。二度とそのツラ、見せないでくださいませね!」


何を言われたのかわからないと言った感じに、ポカンと口を開けているフィリップ・ウェルズ伯爵令息なんて無視して、わたしはジョアンナに手を伸ばす。


「我が最愛の友、ジョアンナ。こんなクズ男、さっさと捨てて、親友同士で、楽しい人生を送りましょう!」

「ええもちろんよ、エリザ。行きましょう!」



はい、さよーなら、一方的な運命の人。

仮にあんたの運命がわたしだったとしても、わたしの運命はあんたなんかじゃ絶対にない。


ふわりと、ウエディングドレスの裾を翻して、ジョアンナがヴァージンロードをわたしのほうへと歩いてくる。そして、伸ばしたわたしの手を取ると、そのまま一緒に会場を出る。

出口のドアの前ではもちろん二人そろって一礼をする。


「それでは汚物の処理は、両家のご両親、どうぞよろしくお願いいたします」

前に連載した「『一方的な運命の人』なんか不要です! 女友達と楽しい人生を送りますので、悪しからず!」というお話のプロットというか元ネタというか。そんな感じです。

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