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推し活女子大生が王国を救うまで現代に帰れません!  作者: 夢野少尉
第二章 【異世界編】ココロとスマホだけ異世界へ
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7.推しにもNOと言わなければ!

 友香はふと目を開けた。

 見慣れない煌びやかな天井が瞳に映る。


 (……ここは……? )


 豪華なベッドに寝ていることに気づいた。

 昨日、初めて横になったリリーシャのベッドでもない。


『目が覚めましたか? 驚きましたわ。どうして気を失われたのですか? アクアとの対面が恐ろしかったのですか?』


 リリーシャが脳内に呼び掛けてくる。


『あ、そうだ! アクア君に会ったんだ! 会った後……どうしたんだっけ?』


 その時、部屋の扉をノックする音が響いた。


「アクア王子殿下がお見えです。中にお通ししてよろしいでしょうか?」

『アクア……友香様、お願いいたしますわ! 私はアクアとはまだ話すことはできません!』


 リリーシャは反射的に意識を消した。


『えぇ?! 私も心の準備が! でも、待たせちゃ失礼だし……しょうがない! アクア君としっかり話さなきゃ!』


 リリーシャ(友香)は、顔を真っ赤にして心臓がはね続ける中、入室を許可した。

 すると、扉が開いて毎日眺めてるポスターの顔がそのまま近づいてきた


「体調はどう? マシになった?」


 アクア王子がゆっくりとベッドに近づいてきて、ベッドサイドの椅子に腰かけた。


 ーーああ! 近い近い近いーーーっ! ーー


 リリーシャ(友香)は混乱して、呼吸が早くなった。


「だ、だ、大丈夫です! あの……私は馬車を降りてから、あまり記憶がないのですが……一体……?」


 王子は動揺して声が震えている彼女を見て、悲しそうな表情になった。


「馬車から降りる時、僕が君にエスコートで手を差し出したんだが、君は震えながら手を置いた。馬車を降りてから、僕はその手にキスをしたんだ」


「はあぁぁぁ? そ、そんなことが!!」


 リリーシャ(友香)は思わず興奮しすぎて、口を手でふさぎ目を見開いた。


 ーーちゃんと私の脳は記憶しておいてよ! 自分の世界に帰ったら、どんなにCD積んでも絶対にあり得ない特典じゃない! ーー


 王子は続けてその時の様子を振り返る。


「馬車から降りる前からすでに顔が真っ赤だった。動作もおかしくて……体調が悪かったのかな? 迎えの馬車の運転が荒かったのだろう。御者を処分しておいたから安心して」


 まだ、自分の身に起こった衝撃的な幸運に興奮がおさまらない友香だったが……アクアの最後の言葉が引っ掛かった。


「……アクア君……? 最後なんとおっしゃいましたか?」

「ああ、御者はムチ打ちだな」


 リリーシャ(友香)は、しばらく理解が追い付かず、熱が急激に冷めていった。


(なんですって? 私が疾風(はやて)君激似の人に手にチュウをされて興奮して気を失ったことが、どうして御者の責任なの? この王子は顔は一流だけど、思考回路がおかしいかも)


「あの……御者の方は関係ありません。私が悪いのです」


 その言葉を王子に告げた時、一瞬その場にいた使用人や護衛が凍りついた。


「リリーシャ……君の優しい心は美しいが、二度とこういうことが起こらないようにしないといけない。御者は馬車の中にいる人間を、安全に快適に運ぶのが任務だ。しかも、君はリアンナ王国の次期王太子妃だ。しかるべき措置であろう」


 ーーアクア君……周りに厳しい人とは聞いていたけど、これは違う。疾風(はやて)君の顔をして、間違ったことをしてはいけないわ。オタクとして推しの行動にもちゃんとノーと言わなければ、本当の『BLEEZE(ブリーズ)(ファンクラブ名)』とは言えない! ーー


「アクア君、これは間違ってます。罰が必要なら倒れた私が悪いのです。私をムチ打ちにして下さい」


「……何……?」


 王子は耳を疑った。

 伯爵令嬢が、御者をかばうためムチ打ちの刑を代わるなんて前代未聞だ。


「私があなたの顔が好きすぎるのがいけないのです! 私はあなたの顔も声も歌声もスタイルも全部好きなんです!」


「……リリーシャ嬢……突然そんなこと言われても」


 アクア王子は明らかに動揺し、急に熱が顔に集まり、耳まで真っ赤になった。

 口元を思わず手の甲で押さえている。


「しかし、御者が……」

「御者は関係ありません!」


 リリーシャ(友香)は、赤くした顔で言い放つ。


「じゃあ、罪ならあなたにもあります!」

「ぼ、僕が……なぜ……?」

「気安くファンの手にキスなんてしたらいけません! あなたは私を殺す気ですか?」

「は、はぁ? 何故そうなるんだ? 婚約者の手にキスなんて挨拶みたいなものだろう」


 彼女はアクアが動揺している姿を疾風(はやて)に重ねた。


「ちょっとちゃんと顔を見せて下さい」


 彼の顔面に自分の顔を近づけて、観察するように眺める。


「また急に……」


 幼子のような大きな青い瞳。

 薄くて口角が上がり気味の唇。

 髪は金色の糸のよう。

 本当に顔の造形は、疾風(はやて)君の生き写しだわ。

 だったら、なおさら……。


「その顔で人に嫌われてはいけません」

「しかし、秩序が」

「あなたも秩序を乱しました。一部のファンに近づきすぎてはいけません。いいですか? 愛情を示す時はこのサインです!」

 

 リリーシャ(友香)は、自分の世界でのハンドサインである「指ハート」を右手の親指と人差し指で作ってみせた。


「なんだ、これは?」


 アクア王子は、彼女の「指ハート」をまじまじと近くで見つめる。

 

「ほら、真似して!」

「こ、こうかな?」

「あぁ! ここは親指をもっと交差させます!」


 リリーシャ(友香)は、無意識に王子の指を触り顔を近づけた。

 アクア王子は思わず意識してしまって顔が紅潮する。


「これは『愛してる』のサインです。いっぱい私に遠くからでも送って下さいね。私はそれだけで幸せです」

「そ、そうか……」


 アクアは、照れながら指ハートを練習する。


「それから、今回のことは私とアクア君の罪なので、御者さんを許してあげて下さいね」

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