6.リアンナ王国の美しくて恐ろしいアクア王子
「リアンナ王国の太陽、リアンナ王陛下に御挨拶申し上げます」
玉座に鎮座しているリアンナ王にアクア王子は跪いて挨拶した。
王の周りには、ビチリヤ宰相も玉座の横に起立したままひかえている。
「アクア、来たか。今日は少し忠告したいことがあり呼んだのだ。顔をあげなさい」
「何でしょう?」
アクア王子は、父のリアンナ王を見つめた。
第一王子アクアの美しさは、父親のリアンナ王でさえ、見慣れるということはなかった。
一瞬、その美しさに言葉がつまる。
「い、いや……最近、騎士や使用人への締め付けがきついと報告を受けている。人の上に立つ者は、ちゃんと愛情をもって、周りの人間に接するように」
「……」
「アクア?」
「いえ、肝に銘じます」
「……理解したならよろしい。今日はリリーシャ嬢がいよいよ登城するだろう。忙しくなる。もう退出しなさい」
※ ※ ※
その後、アクア王子が部屋で軽食を摂っていると、ビチリヤ宰相が王子をたずねた。
「お食事中、失礼いたします」
「いや、もうすぐ終わる」
王子は宰相を向かいの席に座るよう手で促した。
メイドは、宰相にお茶を配膳した後、退室する。
王子は、護衛騎士にも退出を命じ宰相と二人きりで密談を始めた。
「先程の陛下のお言葉は、お気にされなくても良いかと思われます」
ビチリヤ宰相は、リアンナ王の忠告をわざわざ無視するよう助言しに来たのだった。
アクア王子は一つ深いため息をついてつぶやく。
「陛下の忠告なんて耳に入ってこないから安心しろ。護衛になめられて命を落としそうになった張本人のくせに」
「少々お言葉が過ぎますが、下々の者には『秩序』を叩き込まねばなりません」
「わかっている。リアンナ王国のためだ。多少命の犠牲もあろうがしょうがない」
ビチリヤ宰相は満足した表情になって続けた。
「そろそろリリーシャ嬢がお越しになりますね」
一瞬、その言葉に王子の口角が上がった。
「ほぼ二年ぶりだな。しばらくクーデターがあり厳重体制が続いたから」
「8歳から婚約者として指名され、いよいよ正式に婚約発表ですね。おめでとうございます」
「ああ、早く婚姻したいくらいだ」
ビチリヤ宰相はさすがに声を出して笑った。
「それはまだ気が早いというものです。まだお二人とも14歳ではないですか」
その後、宰相が退出した部屋で、アクア王子はリリーシャ嬢を迎えるために、メイドに手伝ってもらいながら、身支度を整えていた。
数人のメイドは、王子の機嫌を損なわないよう注意深く作業している。
「まだ終わらないのか」
その王子の言葉に、メイド達は怯えた表情になった。
「も、もう少しで終わりますのでお許しを」
作業する手が震えたが、なんとか身支度を終えた。
メイド達は一斉に安堵する。
「護衛の人数が足らないな」
次に、王子は護衛騎士の人数が一人足らないことに気づいた。
すると、廊下を走る足音が近づいてきて、一人の騎士が息を切らして、部屋に入室し謝罪した。
それを受けて、騎士団長がアクア王子に報告する。
「も、申し訳ございません! ただいま全員揃いました」
「……騎士団長……これは誰のミスだ? 集合時間の連絡ミスかそれとも遅刻者の怠慢か?」
「……申し訳ございません。言葉もございません……」
「お前は潔いな。個人のミスとも全体のミスとも明らかにしないのだな。ならば、平等に罰しよう。全員向こう1ヶ月の減給。当事者は任務が終わり次第、3日間幽閉だ」
「……承りました。寛大な処置ありがとうございます」
使用人や護衛も胸を撫で下ろした。
ここ最近では懲罰としては緩い方だ。
ムチ打ち等の懲罰を免れたことが奇跡に近い。
それほどアクア王子の遂行する「規律」「懲罰」は厳しいものになっていた。
しかし、彼はリリーシャ嬢に再会する日なので、罰を緩くした。
それほど、彼は内心浮かれていたのだった。
※ ※ ※
「リリーシャ様、王城が見えてきましたよ」
侍女が言葉をかけた。
リリーシャは少し馬車の中で、うとうととしていたが、すっかり目が覚めた。
「は、はい……そうですね」
リリーシャはとっさに手の震えが止まらなくなった。
(こ、怖い……確かクーデター前と違って、もうアクアは厳格になって私を制圧しようとするはず……)
リリーシャは以前の記憶から、この再会の日にアクアに恐怖を覚え始めたことを思い出した。
周りのちょっとしたミスへの懲罰、私への有無を言わさない命令……それをあの人は全て「愛情」だと思い込んでいた。
リリーシャは脳内で友香に話しかける。
『失礼いたします、友香様! 馬車が止まったら、意識を代わってくださいませ! アクアに会うのが怖いのです!』
ゆっくり休んでいた友香の意識は、一気に覚醒した。
『もうすぐ疾風……いやアクア君に会えるの? やったーーー! 代わる代わる! 代わらせてください!』
『もう少しお静かにしてくださいませ! 馬車が止まってからで構わないのです。友香様は異世界の方なので、また何をされるかわかりません。アクアに会う直前まで交代しないでおきましょう。淑女の挨拶はできますよね?』
リリーシャは意識下の友香が浮かれてうるさいので、耳を押さえて険しい顔つきをした。
侍女はそれを見て、リリーシャ嬢がアクア王子の噂のため、緊張されているのだろうと彼女を思いやる。
王城の門をくぐり、アクア王子他騎士や使用人が待機している列の前で、馬車が止まった。
友香はリリーシャと意識を交代した。
ーーいよいよ、はや……アクア君に会える! ーー




