5.敵国オークテリシア大帝国の頭脳ハル第二皇子
『ところで、枕元にある四角い物体はなんですか?』
リリーシャはスマホが気になるようだ。
『あぁ……これはスマートフォンといって……』
どれだけ便利な機器であるかを友香は説明すると、リリーシャは目を白黒させて驚く。
『あなたの世界は素晴らしいわ! こんなに文明が発展してるなんて』
『いろいろ問題もあるんだけどね 。でも、もうあの世界ではスマホなしでは生きていけないかも』
友香はおもむろに疾風のスクショ画面を表示してニヤニヤしていた。
(疾風君! 全て解決して、現場に参戦するわ! 待ってて! )
『その……スマホ? ……の中の人間の「ハヤテクン」様? アクアにそっくりなんだけど、ただ顔つきが全く違います』
リリーシャ令嬢は、友香の意識に語りかける。
『旦那さん、王様になる人だっけ? アクアって人。どんな人だったの?』
『人を全く信用していません。だから、周りの人間には厳しい人でした。王妃の私は、部屋に閉じ込められました。使用人には厳しく罰を与え「秩序」を保ち、私には「執着」しました。周りの人間も私も彼に萎縮してしまって、何もできなかった。彼が王座についた時には、立派な暴君になっていました』
『……疾風君は常に笑顔だから……同じ顔でも印象が違うかもね』
ーーはや……アクア君について、情報収集したいけど、もうそろそろ朝食が運ばれてくる。あとで明日彼に会う予定みたいだから対策練らないと! ーー
友香はリリーシャの姿でありながら、明日の妄想をしてはベッドでキャアキャアと叫んで跳び跳ねていた。
『友香様! もう少しお静かにお願いいたします! 容姿は私リリーシャ伯爵令嬢なのですから、気品を保ってくださいませ!』
思わずリリーシャの中のリリーシャは、友香の行動に憤慨するのだった。
一人の体に二人の意識があるのは、周りの人間から見れば異様に見えたようだ。
どうしても喜怒哀楽が表情に出るので、二人が頭の中で会話して、楽しかったら笑ってしまうし、言い合いになると険しくなる。
たまに一人で百面相をしてるみたいで、メイドはリリーシャから少し距離をおいて、冷めた目で眺めていた。
とりあえず、友香はこの世界のことは全くわからないので、部屋の外では体はリリーシャ本人に任せた。
自室で一人でいる時には、友香がリリーシャの体を動かして、二人で一人の体を共有した。
夜になり、友香は一人自室で寝着に着替えた。
リリーシャ本人の意識は疲れきって眠っている。
彼女の肉体は慌ただしい一日だったが、友香の意識はほぼ一日休んでいたので、今はリリーシャの意識と交代していた。友香は一人でこの異常事態をお茶を飲みながら整理していた。
どうやらこのスマホは充電が全く減らない。
なぜかWi-Fi環境まで設定されている。
それに、たぶん友香の世界で検索しても出てこない内容が表示される。
どこの世界に過去の異世界のことを詳細に教えてくれる検索エンジンがあるだろうか。
あと、時間もこの世界では24時間以上経ったはずなのに、スマホの時間は昨日の日付のままで1分しか進んでいない。
あっちの世界で、時間が止まったように見えたのは、こっちの世界と時間の速さが全然違うからだろう。
友香だけでなく、スマホもこの世界に飛ばされたのは、リリーシャの願いを叶えるための必要なアイテムのようだ。
ーーこの世界の滞在時間は気にしなくていいかも。現代は時間があまり進まないから。……とにかく明日。疾風君に似た王子様に会わなきゃ! 楽しみ~~! ーー
※ ※ ※
リアンナ王国王太子婚約パーティーの一週間前。
オークテリシア大帝国からリアンナ国へ入国しようとある馬車の隊列が長く続いていた。
馬車内には、大帝国の伯爵と若い騎士が同乗している。
「ハル第二皇子、本当に私の護衛騎士として、リアンナ王国に入るのですか?」
「ナルア伯爵。今から、オークテリシア大帝国第二皇子として、隣国リアンナ王国アクア王子の顔を拝んでおかないと。いずれあの国を支配して、我が国の一地方になるのだから。彼は家臣達に評判が悪いみたいだね」
「噂によると、2年前に父のリアンナ王が家来に命を狙われたことが原因のようです。未遂に終わったのですが、それからというもの異様にアクア王子は、人を疑うようになったと言われています。王妃の兄が宰相につき、内政を行いながら、アクア王子に徹底的な恐怖による支配をたたきこんでるみたいですね」
ハル第二皇子は、ナリア伯爵からの報告を無表情で聞いていた。
「……ふーん、その宰相の詳細は?」
「現リアンナ国王妃の兄ビチリヤ宰相です。2年前の護衛騎士によるリアンナ王襲撃未遂事件の黒幕です。その護衛はそのまま焼身自害。リアンナ王国ではこの事件は闇の中のようです。我ら帝国の情報網では、黒幕はビチリヤ宰相で間違いないと結論づけています。宰相は、甥のまだ幼いアクア王子を使って、内政を進めようとしてますね。アクア王子の評判を落とし、いずれは失墜させようと画策してるんでしょう」
それを聞いて、ハル皇子は肘をつき足を組んで、微笑みながら話す。
「戦争しないでリアンナ王国を手に入れれば、それに越したことはない。宰相は野放しにしておいても、近い将来内紛でも起きるだろう。アクア王子の婚約者は……リリーシャ伯爵令嬢だったかな? 歴代希に見る美しさだと聞く。その時は、私の側妃にしてやるかな?」
ナルア伯爵は、静かにうなづいた。
「ハル殿下もアクア王子より3つ上の17歳でいらっしゃるのに、『大帝国の頭脳』と評判じゃないですか。聡明で人望もあつく、帝国でも指折りの美男でいらっしゃる。第一皇子ペリド様よりも、貴族平民関係なく全帝国民から「次期皇太子」を熱望されている。本国では常に仮面をつけてらっしゃって残念ですが」
「褒めても何もないよ」
ハル皇子は、くすくす笑って馬車の外に目をやった。彼はただ若い婚約者二人との対面だけを楽しみにしていた。
特に、「14歳のリリーシャ嬢」に会ってみたかった。きっと生き生きとして、若くて希望に満ちていることだろう。
( 僕は生気のないやつれた顔をしていた君しか知らないから )
どうせ、このままだと「以前」のようにリアンナ王国は勝手に自滅する。
ハル皇子は、そう確信していた。




