45.友達になる約束
「甘い、甘すぎて吐きそう……」
翌日、事務所では疾風が、昨日の美聡の脅迫事件がどう決着したか橘から聞き出していた。
疾風は次のスケジュールがあったので、応接室に一緒に乗り込むことはできなかったからだ。
そして、聞いてもいないのにその後のデートの詳細まで話してくる。光輝はますますリア充度が増していた。
ずっと友香の話しかしない。彼は完全に壊れてしまった。
「いいなぁ、俺も彼女ほしい!」
「まあ、お前はしばらくは歌が彼女だな。『BREEZEもいるじゃないか』」
光輝は疾風の頭をなでた。
「お前も、もしかしたら出会うかもしれない」
「誰に?」
「異世界のお姫様に」
疾風は目をぱちくりとさせて笑い出した。
「橘さんって本当に乙女っすねーーっ!」
すると、ダンスレッスンが始まるのかREDWINDのメンバーに声をかけられた。
光輝は彼のその後ろ姿を見つめながら、最近感じたことがある。
ーーハル第二皇子、アクア王子、メルリ皇后……役者が揃いすぎている。まさか彼女もこの日本に、しかも近くにいるのか?
光輝は少しそんなことを予想しながら、イベント会社との打ち合わせに出向く準備をする。
彼は、仲直りした後、友香からもらった誕生日プレゼントのタブレットケースに備品を詰めこんだ。
※ ※ ※
「ねえ、お母様、私あの店行ったことない?」
「あのチェーン店? さすがにあそこはないわね」
あるファミリーレストランの前の国道を走るタクシーの中で、その女の子は母親にたずねた。
「本当に? あれはレストランなの?」
「あなたぐらいの年齢の学生なら気軽に利用するわね」
「私もお友達と行ってみたい」
「紗奈はちょっと……行きたいなら今度ホテルのレストランにしましょう」
「いやだ、あそこがいい! あの場所のあの店じゃないとダメなの!」
紗奈の母は自己主張に乏しい娘が、久しぶりに自分の希望を口にしたことに驚いていた。
「わかりました。今度お父様に頼んであげるわ」
「ありがとう、お母様!」
※ ※ ※
数日後、紗奈と両親は普段利用しないそのファミレスに足を踏み入れた。
「君は昔来たことがあるだろ?」
「まあ、あなた、私ももう20年以上こういうお店来たことないのよ、どうしましようか」
紗奈と彼女の両親は戸惑いながら、案内された席に座った。
すると、紗奈はきょろきょろとその店内を見回した。
「お父様お母様、私やっぱりここに来たことあるはずだわ、泣いたような記憶があるもの」
「じゃあ、赤ちゃんの時に来たのかしら?」
「そんな昔のこと覚えてるの? 紗奈はすごいなぁ」
ーー 赤ちゃん……? 違う、違うわ。もっともっと気が遠くなるほど昔の話。それは夜だった。外は暗いから店のあの窓に自分の姿が映ったの。私の髪は金色だった。寂しくて悲しくて……。すると、元気な女の子が私に声をかけてきてくれたのよ。その人と話していると、涙はすっかり止まったのーー
その時、友香はファミレスのフロアを忙しなく動き回っていた。
すると、あるテーブルの家族が注文用タブレットが使いこなせないのか四苦八苦しているのが目に入る。
「お客様、ご注文お決まりなら承ります」
友香は直接オーダーを取りに行く。
「ああ、ありがとう。困ってたんだよ。最近の機械に疎くて……私はこのチーズハンバーグと……」
すると、中学生くらいの制服を来た少女が、口元をおさえ目を大きく見開いて、友香をじっと見つめていた。
「ほら、紗奈は何を頼むんだ。自分で言ってごらん」
すると、紗奈の目からは涙が一筋流れた。
友香と両親は驚いて、泣いている少女を見つめている。
「ともか、さま……?」
友香は懐かしい響きの呼び名に、一瞬心臓が震えた。
「まさか、リリーシャさん……」
二人はあの時とは反対に、二人だけが時が止まったように、ただ見つめ合っていた。
だって、約束したのよ。
また会えたら友達になるって約束したの。
次にどこかであなたに出逢えたら。
だって、私たちは二人で一人だったんだもの。




