44. 夢の国でかなう夢
二人はそのまま夜の夢の国に入園した。
今日主役の光輝のリクエストで、乗り物に乗るというよりはイルミネーションを楽しみたいようだ。
(光輝さんって恋人同士が行くベタベタなスポットが好きなんだよねーー……私より乙女思考かも。)
そんなことを考えながら、ライトアップされたお城を眺めていると、右手がそっと優しく人肌に触れて握りしめられた。
友香が光輝を見上げると、にこっと笑って照れた様子を見せる。
(さらりと手にキスできる人が、手をつなぐことは照れるのか)
異世界の皇子様と現代人の二つの感覚を、光輝は持ちあわせていることを、あらためて友香は痛感した。
予約したレストランに入り、窓際に案内してもらえたので、夜のパレードが見れそうだ。
ブッフェ形式なので、サラダや肉を取り、ソフトドリンクだが乾杯をして食べながら会話を始めた。
「友香さんとここに来ることをずーーっと夢だったんですよ! パレード見ながら食事するのが。」
「光輝さんって私より女子ですね」
「ほら、僕はこんなキラキラした王子様じゃなかったけど、似たような服を着てたじゃないですか。懐かしい感覚もあります」
「私もお姫様の服着たかったなぁ。リリーシャさんの姿だったから」
「……今度着ましょうか」
不意に光輝にそう言われて、友香はサラダを口に運ぼうとするフォークを止めた。
「コスプレですか?」
普段の彼なら、また友香さんらしい、と笑われるところだがテーブルの上の手を握りしめられる。
友香は一気に緊張が走り、触れている部分から熱が上がる。
「僕の皇妃様になって下さい」
告白されることは分かっていたが、このセリフはずるい。
数ヶ月前、ハル皇子にプロポーズされた時と同じようなセリフ使うなんて。
異世界だから忘れようとした言葉。
その時、パレードが近づいたのか屋内のレストランにも様々な光が入り込んできて、幻想的な空間を作っていた。
「はい、皇子殿下」
光輝は大きく目を見開いて息をはく。
「やっと、彼氏になれた……」
彼は顔を赤くして、子供のようにはしゃぎながらも友香の手を離さない。
ほらパレード見ましょう、と友香は照れながら光輝に勧めるが、彼は煌びやかな隊列を瞳にぼんやりと映すだけだった。
光輝が夢心地なのも無理はなかった。
やっと彼の数百年の長い長い片思いは終わったのだから。
二人は手をつなぎながら、夢の国の出口に続いている道を手をつなぎながら歩く。
友香は長い今日一日を思い返していた。
「……そういえば美聡さんを『メルリ』って呼びませんでしたか?」
友香は本気でニックネームか何かかと思って、光輝に何気なく聞いた。
すると、彼は足を止める。友香は彼から気まずい空気を感じ取った。
「ハルの正皇后の名前です」
※ ※ ※
出口を出て、二人は光輝の車に乗り込む。
友香はあれから最低限な会話しかしなくなってしまった。
本当はこの後、彼女を自宅に送る予定にしていたが、このままでは帰したくなかった。
ちゃんと話さないと、と光輝は友香の気持ちと向き合うために、とりあえずパーキングエリアに車を入れる。
「友香さん、どこかで少し話をしましょう」
「……はい」
パーキングエリアで屋内のイスに座り、友香は光輝に温かいカフェオレを渡される。
「明日は休みですか? 大丈夫?」
「大学は3限目からなので大丈夫です」
友香はあまり目を合わせようとしない。
「ごめんね、怒りましたか? 彼女がハルの皇后だったこと」
「いえ……」
それでもやっぱり友香は下を向いて、光輝と目を合わせない。光輝は正直に友香に打ち明ける。
「僕は彼女に初めて会った時すぐに分かりました。当たり前だけど彼女は知らない。普通は前世なんて覚えてないんです。友香さんだってそうでしょ?」
友香は黙って頷いた。光輝はそんな友香の頭をなでながら話を続ける。
「美聡さんも潜在的に前世に囚われてるんです。彼女が僕に執着するのもそのためです。ハルはずっと友香さんが心の中にいたから、メルリには生涯罪悪感がぬぐえなかった。メルリとは完全な政略結婚だったから。彼女は大公家の娘だったからね」
友香はそこで、やっと光輝の目を見つめ直した。
「メルリもハルが別の誰かを求めていることは感じ取っていましたよ。悲しませたと思います。だけど、彼女は彼女で不幸でした。出会うべき人がいたはずなんです。メルリ自身も自分の気持ちに気づいてなかったけど」
「……そうなんですか? 正皇后にも他に愛する人が?」
「たぶん身分が違いすぎて、メルリは無意識に自分の気持ちに蓋をしていました。あの世界では貴族の結婚は本人の意思なんて関係ないですから」
しばらく二人は黙っていた。友香は少し冷静になって、自分の思いを整理する。
ハル皇帝もメルリ皇后も感情に自由はなかった。それは悲しい歴史だと思う。
しかし! それとこれとは話が違う! ちゃんと今の自分の気持ちを伝えなくっちゃ!
友香は光輝の両頬を手のひらで挟み自分の方に向け、光輝の目を見ながら口を開いた。
「今日は光輝さんの誕生日です。私にとっては世界一喜ばしい日です」
「あ、ありがとう」
光輝は、友香の両手できつく包まれたままの両頬のおかげで、口がとんがったまま答える。
「もう私は彼女ですからね! 隠し事はなしにして下さい、わかりましたか?」
友香は怒った表情をしているが、ちっとも怖くない。
光輝は、こうして少し空気が悪くなって仲直りする瞬間を楽しんでいた。
「わかりました、ごめんなさい」
「それから!」
友香は光輝の頬から手を離した。
「もう敬語と、さん付け禁止。わかった?」
「わかった、わかった」
すると、今度は光輝が友香をぎゅうっときつく抱きしめた。
「ちょっ! ここ外!」
「誰も見てませんって」
「見てる見てる見てる!」
「ねえ、もう一つプレゼント下さい」
そう言って、光輝は友香の唇に軽くキスをおとす。
友香は全身の力が抜け、哀れになるくらい顔を赤くするのだった。




