42.光輝争奪戦ゲーム
別室で友香と美聡のやり取りを聞いている光輝は、明らかに動揺していた。顔が赤くして口元を手で覆っている。
「橘さん、友香さんすごいですね。美聡さんにも負けてない」
疾風は、美聡の交渉話にも毅然としている友香の態度に感心していた。
光輝の方に顔を向けると、顔を真っ赤にしている。
ーー橘さん、照れてる。かわいい。
橘の表情を元に戻すのは惜しいので、疾風は彼をそっとしておいた。
一方、橘光輝は友香の言葉一つ一つに心が震えるほど感動していた。
ーー友香さんが僕のために他の女性と争っている。
そう、君はそういう人だった、と異世界の事件を思い出して彼は懐かしくも胸が苦しくなった。
今回はリアンナ国、リリーシャ、アクア王子、ハル皇子のためではなく自分のために友香が頑張っている。その事実に彼には何か込み上げるものがあった。
※ ※ ※
「もうお金じゃ解決しないんですよ、意味がありません。アイドルが愛情をはかるために実践するゲーム知ってますか?」
友香が突然愛情を計れるゲームを提案した。
「ど、どんなゲーム?」
「相手のことをどれだけ知っているか答えるゲームです。好きな食べ物やら好きな色やら。多く正解した方が勝ち。見たことありませんか? アイドルがお互いメンバーのことどれだけ知ってるか、よくイベントでやるゲームがあるじゃないですか」
「それを私とやるって言うの?」
美聡は明らかに戸惑っていた。
「美聡さんは2年も光輝さんに片思いしてたのなら、ある程度彼の情報を知っているでしょう? 私なんて数回デート経験があるとはいえ、まだ2ヶ月前からです。お互い光輝さんに関する基本的な問題を交互に出し合って、それに答える方式でいかがですか? 解答がハッキリと存在しない問題は省いて下さい。」
美聡はしばらく考えこんでから友香にたずねる。
「そのゲームに勝ったら、友香さんは光輝さんを諦めるのね?」
「光輝さんは物ではありませんが、いいでしょう。私が負けることはないので」
友香は自信満々に返答する。
美聡はその表情を見て唇をかむ。
ーー 私だって、光輝さんに関することなら、答えられるはずだわ!! 二人きりはないけど、何度も一緒に食事になら行ったことあるもの!!
美聡は、心の中で自分自身を励まして奮い立たせた。
「じゃあ、私から問題出しますね」
友香は余裕の表情で美聡を見ながら話しかける。
「光輝さんの出身地は?」
「東京都〇〇区」
「最終学歴は?」
「〇〇大学経営学部」
「今まで少しでもプロデュースを手がけてきたグループはいくつ」
「REDWINDあわせて7つ」
こうして、応接室では橘光輝に関する問題を交互に出し合い、それに相手が答えるというオタクゲーム始まったのであった。
※ ※ ※
疾風は二人の女性がオタクゲームをしている展開に呆気にとられていた。
そして、光輝はこのゲームのやり取りを聞きながら、またクスクス笑っている。
彼はこのゲームがどう決着つくか楽しみでしょうがない。
ーー友香さん、最終的に僕が助け船出すから、それまで僕の争奪戦頑張って!
そして、光輝はまた笑いをこらえながら受信機から聞こえる会話に集中した。
※ ※ ※
やがて、ネタがつきたのか美聡が問題を出すのに苦労し始めた。
「美聡さんが出す問題がないなら、私が連続で出しますよ」
「……しょうがないわね、どうぞ」
「光輝さんの好きな食べ物は?」
「はあ? そんな問題どうやって正解かどうかがわかるのよ!」
友香はカバンから光輝がインタビューを受けた経済誌を取り出した。
「これ、読みました?」
「も、もちろん読んだわよ?」
「何冊持ってます?」
「サンプルを目に通しただけだけど?」
友香はそれを聞いて美聡にたずねる。
「本当に光輝さんのこと好きなんですか?」
「何よ! 載ってる雑誌を買うかどうかで愛情がわかるっていうの?」
「あなたみたいにお金があるなら、好きな人が載っている雑誌を一冊で満足できるわけがないでしょう? 一冊は読むため、一冊は保存用、一冊はスクラップ用……これに観賞用があれば完璧です。お金がなくて一冊しか買えなくても、何回も熟読して暗記するものですよ 」
「そんなオタクみたいなことしないわよ!」
「じゃあ、百歩譲って、お金があるのに雑誌を買わなくても愛情があることにしましょう。いいですか? 人を好きになると、その人のことを知りたくなるものです! どんなささいなことでも」
友香は男性の秘書を呼んで、光輝のページを開けさせ、二人の答えが正解かどうか確認するよう指示した。
友香は美聡に質問を続ける。
「好きな食べ物は?」
「し、知らないわよ」
「カレーライスと蕎麦です、秘書さん、そうですよね?」
秘書は美聡の睨んでいる視線を感じながらも、正解です、と返事をする。
「好きな色は?」
「読んだけど覚えてないわ!」
「黄緑です」
「彼は休日は何をしてますか?」
「映画でも観るの?」
「ショッピングとジム通いです」
美聡はたまらずテーブルを叩いて、ソファから立ち上がる。
彼女の表情は怒りで強張っていて、頬が紅潮している。
「こんなことして、一体何になるの?」
「相手のことをどれだけ知っているかの勝負ですよ。私の勝ちでいいんですか?」
美聡はあまりの悔しさに禁断の言葉を放った。
「彼がこの会社をクビになってもいいって言うの?」




