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推し活女子大生が王国を救うまで現代に帰れません!  作者: 夢野少尉
第三章 【現代編】推し活女子大生が王国を救ったので現代に帰りました!
41/45

41.五万円と五百万円と五億円

「『REDWIND(レッドウィンド)』って、ダンスも秀逸ですが、バラードが素晴らしいんです! 聴くたびに耳が歓喜です!」

「そ、そう……それは嬉しいわ」


 江口美聡は、友香による怒涛の推しへの讃美を浴びていた。

「少し軽く話す」つもりが、「REDWIND(レッドウィンド)」の話を切り出すと友香の口が止まらない。

 そろそろ本題に入らないと……と、美聡は友香の話をにこやかに聞きながらも、少し苛ついていた。





 そして、別室では盗聴機の受信機からイヤホンが外され、スピーカーにして光輝と疾風(はやて)が二人で応接室の会話を聞いている。

 光輝はお腹に手をあてて大笑いしていた。


(さすが友香さんはどこに行っても変わらない。本当に楽しい!)


「あの美聡さんがペースを乱されている……友香さんってすごいね」

 疾風(はやて)も友香の推しへの熱量に圧倒されていた。





 応接室では、友香の「REDWIND(レッドウィンド)」のライブの感想が一通り終わったタイミングで、美聡はおもむろに小さなチャック付きの黒のカバンを取り出す。


「友香さん、今日お呼びしたのは他でもありません。」

「はい、なんでしょう」


 友香は喋りすぎたのか紅茶で喉を潤していた。

 江口美聡は、一呼吸おき彼女の目をまっすぐ見ながら、ゆっくりと話す。


「単刀直入に言います。橘光輝プロデューサーと別れて下さい」

「え? ……」


 急にここで橘光輝の名前が出てきて、友香は途端に緊張が走った。


「交際されてるんでしょう? 光輝さんと」

「いえ……まだ……」

「そう、でも光輝さんはたぶん今日はっきりあなたに交際を申し込むと思います。違うかしら?」

「そ、そうかもしれません」

「断ってほしいの」


 友香は、美聡(みさと)のあまりにも無茶な要求に言葉を失う。


「交際する前なら、体の関係もないのでしょう? 間に合って良かったわ。別にあなたと光輝さんがどうなっていようと別れてもらうけど、ぎりぎりのタイミングでこの話ができて幸いです」

「光輝さんや私の気持ちも、あなたには関係ないのですか?」

「ええ、私は2年前からずっと彼に思いを寄せているのよ」

「光輝さんに告白しましたか?」

「してるわ」

「彼の返事は?」


 美聡はここで口を閉ざし、悔しそうに顔を赤らめた。

 何度告白しようと彼の答えは一緒だ。


『待ってくれている人がいる』『ごめんね、美聡さん』


こんな返事ばかり。

美聡みさとは何度も断られていた。

彼女は黒い小さなカバンのチャックを開け、中の物をテーブルに積み上げた。

 一万円札紙幣100枚の札束が5束。

 友香は大量の札束を前に、なんですかこれは、と美聡を睨みながらたずねる。


「とりあえず500万。これで奨学金借りなくても大学に通えるでしょ。振り込みやら小切手も考えたけど、実際目にした方が説得力が増すと思って」


 友香は札束を眺めながら、しばらく黙り込んだ。


「まだ交際されてないなら、手切れ金というのも変だけど、お願いできないかしら?」

「これを受け取って光輝さんとの交際を断れと」

「そういうことになるわね」


 長い間、二人の間に沈黙の時間が流れた。



※ ※ ※

 別室では、光輝と疾風(はやて)がリアルタイムでこの会話を聞いている。


「ひどい。友香さんをスカウトするんじゃなかったの?」


 この期に及んで、疾風(はやて)はまだそんなことを呟いていた。

 光輝は両手を組みテーブルに肘をついて、その上に顔をのせ黙っている。その表情からは彼の真意は読み取れなかった。


「友香さん助けに行かないの? このままじゃあ……」


 疾風(はやて)は、お金で解決しようとしている美聡から友香を連れ出したいようだ。


「いや、僕もはっきり彼女の気持ちが知りたい。それに……」

「それに?」

「たぶん、彼女はまた面白い提案をすると思うよ。僕は彼女のそんなところを好きになったんだから」




※ ※ ※

 友香は目の前の札束を手に取り、美聡に確認する。


「これが今のあなたが用意できる金額ですか?」

「足らないと言うの?」

「いいえ、貧乏学生には信じられないお金の量ですね」

「じゃあ、承諾してくれるのね?」


 美聡は胸をなでおろし、あからさまに嬉しそうに喜ぶ。

 その時、友香は自分の財布を取り出しテーブルに紙幣を並べた。一万円札5枚。

 美聡は友香の行動にとまどっているようだ。


「なんの真似?」

「今日は光輝さんとデートなので5万円持ってきましたが、いつもは1万円も入っていません。」

「……それがどうしたの?」

「ちょうど5万円の100倍が500万じゃないですか。私が今用意できるのは5万円で、あなたは500万円。お金の価値観が100倍違うんですよ。こんなのあなたは身銭を切ったことになりません。500万の100倍用意してやっとあなたの覚悟が可視化できるというものです」


 美聡はみるみるうちに顔が高揚して真っ赤になる。


「ご、5億なんて用意できるわけがないでしょう! なんて強欲な女なの?」

「じゃあ、今あなたの目の前に5億円があって、光輝さんとどちらを選ぶと問われたらどうですか?」

「それは……」


 美聡はその光景を想像して即答できずにいた。

 そして、友香に逆にたずねる。


「あ、あなたはどうなの? 5億なら光輝さんを手放すでしょ?」


 友香は美聡にハッキリと答える。


「500万でも5億でもお断りします。あなたとは、全ての価値観が合わないようですね」


 

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