4.二人で一人?一人で二人?
「時間が止まった場合……」
友香は現代人らしく、ネット検索やAIを駆使して、この異常事態を乗り越えようとしていた。
しかし、当たり前だが時間が止まった場合の対処法など見当たらない。
(どうしたら、元の世界に戻るんだろう)
いろんなワードを入力たり、AIに問いかけてみた。
すると、一つだけ情報がヒットした。
『異世界から「迷い人」が、この現代に紛れ込んだ場合、時空にズレが生じ、現代は時間の影響を受ける。解決策は「迷い人」の願いを叶えること。「迷い人の願いを叶えられるアイテム」のみ自由に動けるので、そのアイテムが、「迷い人」の願いを叶えるために奔走するしかない』
ーー 何ですって……? 見たところ、私達以外みんな動きが止まっている……? 「迷い人」は明らかにこの異世界人でしょ? そして、私は動けているから、「迷い人の願いをかなえられるアイテム」ってこと? はぁ、どうしたものか。とりあえず、願いを聞いてみるか……ーー
「あの……リリーシャさん? 唐突なんだけど、あなたの願い事って何?」
「私……私は……ただ過去に戻ってリアンナ王国の王妃として幸せに過ごしたいだけてす。王のアクアも、昔の優しいアクアに戻ってほしいのです」
ーー あぁ……願い事が壮大すぎる……ただ、美味しいもの食べたいとかライブに行きたいとかなら叶えてあげられなくもなかったのに! 願いが壮大すぎてついていけない! ーー
友香が頭を抱えていると、机に置かれたスマホ画面をリリーシャが覗いた。
すると、彼女の表情が一変して、みるみる青くなった。
「これは……この物体は何ですか? ……王陛下が……アクアが小さくなっています!! この中にアクア陛下が入っているのですか?」
友香は途方もない現状に放心していたが、なんとなく彼女の大きな声は耳に入ってきた。
(『アクア』? ああ、彼女の旦那の王様か。王様……? )
友香は思考が凍りつく。
「ええーーーーっっ!! アクアって人、疾風君に似てるって言いたいの?」
リリーシャは口元に両手をあて、スマホ画面から目をそらしてうずくまり小刻みに震えている。
明らかに怖がっていた。
「ちょっ! 失礼な」
友香は、彼女の最愛の推しへの態度に呆れていた。
ーーこれはどうするか……この人の願いを叶えなければ、どちらにしろ前に進まない。こんな時空の中では生活できない。その世界に行くしかないのか。そうなると、私の存在ってここでも異世界でも、どうなるんだろうか……ーー
しかし、彼女は欲望に勝てなかった。
ーーごめんね、疾風君……しょうがないのよ! あなたのサイン会や握手会にライブに……現場に参戦するには、彼女の願いをかなえなければ! 決して『アクア』という王様を一目見たいわけではない! ーー
友香は意を決し、しゃがんでリリーシャに話しかける。
「行きましょう。あなたの過去へ。やり直したいのでしょう」
リリーシャは友香と目を合わせ、疑問をぶつける。
「どうやって……どうやって元の世界に行くのですか? 私も絶命して、ここに飛ばされただけで何がなんだかわからないのですよ!」
そのとたん、友香とリリーシャは真っ暗な世界に放り出された。
友香のスマホと共に。
「リリーシャ様、起きてくださいませ。明日から一週間後の婚約パーティーのため登城する予定ですよ!」
カーテンが開けられた音がして、朝日が部屋に降り注いだ。窓も開けられ、早起きの小鳥達がさえずる歌声が聴こえる。
「……えぇ~、あともう少し……」
「しょうがないですね。あと30分後には、食事を運びますので、それまでに部屋着にお召し替え下さい」
指示をしたメイドと思われる女性が部屋から出ていった。
(……メ、メイド……? )
友香はベッドから体を起こし、全身が映る鏡の前に立った。
「誰?」
18年間見てきた自分の姿とはかけはなれた美少女が、鏡に映っている。
あまりにも非現実な事態なので、驚きを通り越してしまって、冷静に小声でつぶやいてしまった。
いや、この姿は知ってる!
この世界に連れてこられた異世界人の姿!
アニメで設定される美少女の基本型!
金髪で深い翠の瞳に薄い唇。
なめらかな肌に丸くて愛らしい目の形。
ただ、少し違うのは明らかに「美女」ではなく「美少女」だ。
出会ったリリーシャさんより過去の設定か……。
人生やり直すんだから、そりゃそうよね。
ところで、本物のリリーシャさんはどこに行ったの?
「リリーシャさん? どこにいるの? 私、あなたの姿になったんだけど」
一人つぶやいてみたが、返事がない。
困った。
何がなんだかわからない世界なのに。彼女の協力なしでは……
『ここよ』
リリーシャの声が聞こえる。
「え? どこ?」
『私の体の中……』
確かに頭の中で、リリーシャさんの声が響く。
「なんですって? 一人の人間に二人の人間の意識が入ってるの?」
このリリーシャさんの体を二人で共有してるというの?
しかし、この方がいいのかなぁ。
いろいろ相談しやすいかも。
「じゃあ、心の中で話ができるのかしら。私は声に出さなくてもいいのね?」
『そうみたい。一人でぶつぶつ話すよりいいんじゃないかしら? ところで、あなたお名前はなんとおっしゃるの?』
試しに友香は声に出さず、心の中で自己紹介する。
『野岸友香、18歳。大学一年生。バイトはファミレス店員。REDWINDの疾風君を推してます!』
『ノギ……トモカ様? あなたがおっしゃっていることは、ほとんど理解できません。異世界の方だから、しょうがないことですね』
『「REDWIND」は、5人組実力派アイドルグループで、推しの疾風君は、19歳だよ! 「BLEEZE」は、彼らのファンクラブ名!』
友香は、リリーシャが何も理解できないことはわかってるが、オタクというものはそんなことは関係ない。
推しのこととなると、目を輝かせて熱く語るのが私達BLEEZEなのだ!




