37.誕生日プレゼント下さい
友香は鼻血も止まり、オフィスビルの外に二人で出ようとしていた時。
社員か取引先かはわからないが、スーツ姿の女性たち三人が二人を凝視する。友香は彼女達の異様な視線が痛かった。
(はぁーー、どうせ橘さんがなんであんなダサい女子連れてるんだよって目線だわよね……)
友香はその視線に恐怖を感じながら早足で歩く。光輝も、そのきつい視線を送った女性たちに気づき睨み返した。すると、彼女たちは肩をすぼめて驚く。
「何あれ? 橘プロデューサーの家族? 女じゃないわよね?」
「あんな生活臭する女選ばないでしょ」
「でも、すごく橘さんに睨まれちゃったわよ。あんな彼初めて見た。すごく物腰柔らかい人なのに。超優良物件でモデルみたいだから業界一の標的じゃん。これは嵐が起こるわ」
「でも、橘さんって美聡さんのお気に入りじゃない。もし、彼女に知れたら大変なことになるわよ」
その噂をしている女性たち三人の後ろから、苦々しい顔で睨んでいる一人の女がいた。
江口美聡。
橘光輝が所属する事務所社長の娘だった。
※ ※ ※
「すみません、今日は体調悪かったんですか?」
光輝は友香を車で自宅近くまで送り、少し路駐して話をしていた。
「いえ、私が疾風君の顔面に耐性がないだけです」
「そうでしたね、あなたは向こうの世界でも一回倒れてましたね、僕の配慮が足りなかったです」
光輝は悲しそうな顔をして、また謝罪の言葉を述べた。友香はそこで光輝の両頬に手を添えて、自分の方に無理やり向ける。
「いいですか? 御者さんの時もアクア君には言ったんですが、私が疾風君の顔面耐性がないことは、誰のせいでもありません! もう謝らないで下さいね」
光輝は目を丸くして、頬に触れている友香の手を取り唇をあてる。友香は一気に体温が急上昇した。
「友香さんらしい考え方ですね」
「こ、これからお仕事まだありますよね? 私はもう大丈夫だから戻ってください。私も夜はシフトに入っているので」
友香は目をそらして、つかまれた手を引っ込める。光輝はそこで思い出したかのように、車の後部座席にあるビジネスリュックから大きな茶封筒を取り出した。
「これ、今日発売の経済誌が入ってます。僕インタビュー受けたので、良かったら読んで下さい」
友香は三週間前には、この本を三冊予約していて明日配達予定だが、本人には伝えず受け取った。
「『BREEZE』の間で少し話題になってました。ありがとうごさいます」
「はい、顔出しNGでもいいから、取材したいとの要望があったので。顔出しは日常生活を脅かしますからね」
ここで、橘光輝は一呼吸おく。言葉を探しているようだ。意を決したのか友香の両手を握って、真正面からまっすぐ見つめてゆっくり話す。
「僕……あと二週間後に誕生日なんです」
友香はここで心臓が跳ねた。
会うのは構わない。いや、会いたいけども。
「プレゼント下さい」
まさか……ちがうよね? 鉄板のセリフ言われないよね?
友香は思わず息を飲む。いや、橘さんは大人だから、大丈夫、そんなことは言わないと自分に言い聞かせる。
少し吐息が熱い。
「友香さんに告白する時間下さい」
※ ※ ※
友香は自宅のドアを閉め、靴を履いたまま座り込む。
「びっくりしたっっ! 絶対ワザとでしょ、あれっっ! 」
独り言とは思えない音量で声がもれる。
ーー 異世界では、「付き合う」とか「恋人」とか……なんなら「告白」もすっ飛ばして「プロポーズ」したハル皇子の生まれ変わりなんだから、「大人のプレゼント」を要求されるかと思ったじゃん!!
( 本当に心臓に悪い。恋愛って体が持たない !)
友香はテーブルの上に置いた茶封筒の中から、橘がインタビューを受けた経済誌を取り出す。 少し開けると、全く経済とか分からないので理解できない単語が並んでいる。
目次で橘のページを開けると、『時代を創生する若手プロデューサー』と銘打っていた。
組んだ脚やモザイクがかかった横顔。
しかし、ぼやけてても整った顔面であることは明白だ。
そして、インタビュー内容はアイドル雑誌のような質問が羅列していた。コラボ戦略とかトレンド分析等理解不能な部分は、友香は見事に飛ばして読んでいるからだ。
「好きな食べ物」「好きな色」「趣味」等……
一時間後、友香はファミレスのバイトがあるため自宅マンションを出た。マンションを出る姿をカメラにおさめる一人の男が物陰に潜んでいるのも知らずに。
※ ※ ※
(尾けられてたな)
光輝は自宅マンションで、珈琲を飲みながら、どう対策するか考える。
(もう一緒に住みたい。心配でおかしくなりそうだ。)
誰が指令を出しているか光輝はわかっていた。
もちろんその目的も。
ーー 手荒な真似はしない人ではあるけど、どうしたものか。
とりあえず、アプリで互いの居場所の共有は友香に許可をもらって実行することに決めた。
ーー ごめん、君の出会うべき人は僕じゃないんだ。あの世界のせいで、僕と君は運命を変えられただけだったから。




