32.この世界で見つかってしまったから
「ねえ、見て、あの人。関係者だと思うけど、めっちゃかっこよくない?」
「本当だ! やっぱり業界の人ってなんかあか抜けてるよね 」
「近くによって、列を乱して怒られようか?」
友香達3人はグッズ列に並んでいたが、彼女たちにもヒソヒソとファン達のそんな話が聞こえてくる。
「うーん、業界のイケメンに目移りするとは、ファンを名乗る資格はない!」
友香はため息をついて豪語した。
「でも、友香だって、イケメンは見ちゃうでしょ?」
「萌那は疾風君一筋じゃないの?」
「う~~ん、やっぱり『彼氏』と『推し』はちがうじゃん!」
「彼氏できてから言いなよー」
ケラケラ楽しそうに話していると、背中越しに声をかけられた。
「ノギシトモカさん? ……」
「はい、何……?」
とっさに返事をしたが、ライブ友達以外で知り合いなんていない友香は、びっくりして振り向いた。
すると、背の高いスマートな男性が立っていた。
友香は全く知らない人だったので気味が悪いはずだが、なぜか雰囲気に既視感があった。
「どこかで会ったことありましたか?」
そのスマートな人は、友香の手を取ってつぶやいた。
「ちょっと時間下さい」
いきなり知らない人に手を取られ彼女は困惑する。
「え? でも……友達が……」
「いいですよね? 友香さんを連れていっても」
光輝はライブ友達二人ににっこり笑いかけた。
「は、はい! どうぞ! 持っていって下さい!」
友達二人はスーツ姿のイケメンに話しかけられ、顔を赤くして声が裏返っている。
「えぇ? ど、どこに……」
友香は面識がない男性に連れていかれる恐怖が先に立って、繋がれている手を離そうと抵抗した。
「僕ですよ。ハルです」
「ハ……ハル……ハル皇子? 本当に?」
「ちゃんと待っててくれてました?」
急に友香の目が潤んできたので光輝は焦る。
とっさに彼女の手を引いて、走ってその場を離れた。
「ちょっとーー、また報告しなさいよーー友香!」
ライブ友達の声が遠くに響いていた。
ーー ハル皇子だ! 姿も声も年齢も違うけど、優しい口調、優しい眼差し……どうしよう。本当に出会ってしまった! 私を見つけ出したんだ!
二人は、ライブ会場から少し離れた公園のベンチに座った。
「やっと見つけた。ノギシトモカさん、18歳、◯◯女子大学一年、日本人、東京都在住、アルバイトは◯◯ファミリーレストラン」
「……どうしてそれを……」
「リリーシャ王妃から買ったんですよ、情報を」
「えぇ? だから、個人情報をハル皇子に教えるなとか言ってたんだ……リリーシャさんって金の猛者だわ」
「金額も今のこの世界だと、1つの情報に1兆〜2兆しましたよ。去ってからも、あなたはリアンナ王国をどれだけ救ったか」
くすくす笑いながら、光輝は答えた。
「はい、僕の名刺。ねえ、友香さんの連絡先教えてください」
「あの……本当に私を見て幻滅してないですか?」
「何故?」
「わ、私、普通のオタクで……リリーシャさんみたいな美女じゃないし……」
一瞬、光輝は言葉をつぐんだ。
彼は友香の手を取って、ゆっくりキスをした。
「ハ、ハル……おうじっ!」
友香は急に顔が熱くなった。
「想像の何万倍もかわいくて、びっくりしてるんですよ。あまり僕の趣味をバカにしないでください」
(いや、ちょっとここまでくると嫌みに聞こえるわ……美的感覚狂ってない? )
そして、友香は光輝の名刺を眺めて、また驚愕した。
「◯◯エンタ……疾風君の事務所じゃないっ! 嘘???」
「ふふ……『REDWIND』は僕が作ったグループですよ」
「なんですって?」
「他事務所のオーディションに落ちた疾風君に声をかけました。確かにアクア王子そっくりで驚きました。そして、僕がプロデュースしたんです。あなたを見つけるために」
友香はそこで言葉を失った。
「僕が……怖いですか? どうしてもあなたに会いたかったんです」
この人はきっとまだ私には話してないことを、たくさん経験したはず。その全てが私に出会うため……。
こんなに深くて怖い溺愛とかあるの?
「……ちょっと抱き締めていいですか? 本当に僕は君に出会うために長い時間かかったんです」
「……は、はい、どうぞ」
すると、光輝は友香の感触を実感するように、ゆっくり背中に手を回す。
手の感触から彼が震えているのが伝わってくる。
少し彼は泣いてるかもしれない。
友香も彼の背中に手を回した。
「頑張ったのね、本当に」
友香は幼い子供に声をかけるように、大きな背中をなでて慰めた。
「はい……長かった。大変でした。」
二人はしばらく抱き合ったまま動かなかった。
この世界で彼女と恋愛をするために生まれたんだと、光輝は彼女を抱き締める腕に力をこめる。
友香はハル皇子の腕の中で、もう逃げられないと悟った。
だって、この世界で、見つかってしまったのだから。




