31.やっと君に会える!
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」
24年前。
ある病院の分娩室で、橘夫婦に待望の赤ちゃんが産まれた。
3012グラムの男の子だった。
名前は「光輝」と名付けられた。
赤ちゃんはすくすくと育ち、3ヶ月ころには寝返りもできるようになった。
「光輝ちゃんは、携帯好きなのよね。写真撮ってると、よく手をのばしてくるのよ」
「赤ちゃんは皆好きみたいだよね。携帯」
「あとね、まだ自分の名前には反応しないのに、『ニホン』とか『トウキョウ』とかに反応するのよ」
「なんだ、それ」
「めっちゃ笑顔になるのよ! 光輝ちゃん、ここは『ニホン』ですよー」
とたんに赤ちゃんがケラケラ笑いだした。
「本当だ! うちの子は天才かもしれん」
「親バカねー」
夫婦は、ベビーベッドを囲みながら幸せな会話に花を咲かせていた。
※ ※ ※
6年が過ぎ、光輝は小学一年生になっていた。
ある日、光輝が公園でサッカーで遊んでいたら、急に動きを止めた。
友達が心配そうに駆け寄ってくる。
「どうしたの? 橘君? 」
光輝の顔を覗き込むと、震えながら涙を流していた。
「え? 大丈夫? どこか痛いの?」
心配した母親が近寄ってきた。
「光輝、どうしたの? 足でもひねったかな?」
「……お母さん……」
彼はすっかり泣きじゃくってしまって、サッカーどころじゃなくなり、母は彼を家に連れて帰った。
家では、母親が光輝の好きなマフィンを食べさせて機嫌を取っていた。
光輝はおやつもそこそこに、自分の部屋に戻った。
ーー君がこの世界のどこかで生まれた。神様は頑張った僕に、君がこの世界に生まれたことを教えてくれたんだよ。僕にはわかる。僕と君は、ここで必ず出会うんだ。
光輝は、6歳らしく泣きじゃくっていた。
※ ※ ※
「じゃーーーんっ! やっとスマートフォンを手に入れたわよ! 光輝!」
父と母が新しいP-phoneというものを買ってきた。
「これ……スマホっていうやつ?」
「すごい、光輝、知ってるの? ニュースとかで見たかな?」
「ううん、違うよ。でも、知ってる」
「光輝はもう少し大きくなったら、持たせてあげるからね」
光輝は親のスマホを触らせてもらった。
スマホ……これがスマホだ! いよいよ君の時代に近づいている!
ノギシトモカ……本当に君の世界に、僕は存在してるんだ! でも、この世界は広すぎて……個人情報管理もしっかりしてるから、自分一人では居場所を調べようがない。
あのノギシトモカが生まれた感覚が合っているなら、6歳差だ。少し離れてるかな?
それでも、僕は本当に頑張ったんだよ。
時間の早さが違うから、何回も様々な人生を生きた。
10人の人生は生きてないと思うけど、君に会うのに時間もお金もかかったよ。
出会えたら、よく頑張ったと褒めてほしい。
早く君に会いたい。君に会うために僕はこの世界に生まれたのだから。
※ ※ ※
ここは東京Tアリーナ。『REDWIND』の初アリーナ公演2日目。
ライブが終わり、メインボーカル疾風が、プロデューサーの橘に話しかける。
「えーー?! 今日もライブの反省会、橘さんは欠席ですか?」
「ちょっと関東の公演は、終了後会場の周りを歩いて、観客の反応見たいんだ。悪いね。」
「じゃあ、大阪では必ず話聞いて下さいよ!」
疾風は、何十万人も夢中にさせている愛らしい笑顔を橘に向ける。
橘光輝は、また明日、と別れの言葉をかけて控え室を去った。
ライブが終わってもグッズ購入の列ができていた。
光輝は18歳くらいのファンで「ノギシトモカ」を探す。
しかし、顔がわからないので、ただファン達の会話を聞いて互いに呼びあっている名前だけが頼りだった。
あの時、自撮りを見せてもらっていたら良かったとつくづく思う。
そこは本当に後悔しているが、「写真」というものが存在しない世界で思いつくはずもない。
リリーシャから得た情報は、名前と出身国名と住所の市町村、年齢、バイト先……これだけだった。
この情報だけで、リアンナ王国はかなり潤ったはず……リリーシャは、あれから見事な策士に成長した。
リリーシャに彼女の似顔絵を描いてもらったが、この時代の国民的アニメのネコ型ロボットに髪が生えているだけだった。
歴代級の淑女は画力が壊滅的だったのだ。
しかし、その絵を描いてもらうのにも大金を払っていた。
(まあ⋯⋯アクアもリリーシャも幸せそうだったからいいか)
とりあえず、光輝はグッズ売場の列を整理する素振りをしながら、友香らしき人物を探す。
(もう、運命を信じるしかないな)
しかし、皆楽しそうだ。
アイドルって偉大だとつくづく光輝は思い知らされていた。




