30.この体は私のもの
婚約パーティーは結局、「ビチリア宰相断罪」「平和条約締結確約」という歴史的な大転換が起こった一日となった。
パーティー後、招待された隣国の王族や大公が、次々にハル皇子の元に挨拶に来て、自国も大帝国との平和条約締結を、と目論んだが彼はやんわりと拒絶した。
その後、ナリア伯爵他オークテリシア大帝国の一行は帰国した。
ことの顛末を大帝国皇帝に報告したが、当然、彼は平和条約の提案には反対し激怒した。
しかし、ハル皇子の承諾を得ていること、なによりハル皇子が人質であることで、渋々平和条約締結に許可を出した。
ハル皇子が人質である1ヶ月間、アクア王子が彼を離さなかった。
彼は一生懸命ハル皇子の様々な話を聞き、吸収しているようだ。
過去の人生において、ハル皇子はアクア王子を自らの手で処刑したので、彼にリアンナ王国の未来を託せる事実に胸が熱くなる。
ーー良かった、これでこの国と戦争をしなくてすむ。
それから、ハル第二皇子は、皇帝になりオークテリシア大帝国はもちろんリアンナ王国も平和で栄えるよう、弟のようなアクア王と頼もしいリリーシャ王妃と共に忙しい人生を送った。
※ ※ ※
「友香、どうしたの? 貧血?」
「呼吸はしてるんですけど、意識が……」
「今、救急車呼んでます!」
友香は数人の会話が聞こえ、目を静かに開けた。
どうやらバイト先のファミリーレストランのロッカールームで寝かされているようだ。
「あっ! 友香、目が覚めた? 良かったぁ」
バイト先の友人が、友香の顔を覗き込んだ。
「今、救急車来るからしばらく寝てて」
「わ、私は……?」
「突然倒れたのよ! びっくりしちゃった!」
友香の手にはスマホが握りしめられていた。
「あれ? 友香、さっきまでスマホ握ってたっけ?」
「倒れて何分くらい?」
「7、8分かなぁ」
やはり一日が一分の換算だ。
「救急車きた! 念のため病院連れていってもらってね!」
※ ※ ※
「びっくりしちゃった。どうしたんだろうね」
実家の友香の母親が、友香の一人暮らしのマンションまで様子を見にきてくれた。
友香は様々な検査を受け半日入院し退院。
母が台所で料理中、スマホで「リアンナ王国」を検索してみた。
【リアンナ王国】
『過去の異世界の小国。しかし、リアンナ王4代目アクアの時代は栄華を極めた。
アクア王の時代、隣国の大国オークテリシア大帝国に経済的にも政策的にも援助を受けた。特に大帝国ハル皇帝とリアンナ王国アクア王は血縁者の如く親密であった。
そのため、リアンナ王国は「オークテリシア大帝国寵愛の国」と名付けられた。
アクア王は歌唱力が高く芸術方面にも力を注いだ。そのため、彼の歌唱の愛好者が国内外から押し寄せた。リアンナ王国は「芸術の国」としても名を馳せた。』
友香はリアンナ王国が栄え、リリーシャとアクアが末長く幸せに暮らしたことに安堵した。
以前より300年もリアンナ王国は歴史が続いている。
次に「リリーシャ王妃」の情報も調べてみた。
【リリーシャ リアンナ】
『リアンナ王国第4代目アクアの正王妃。
彼女はアクア王が芸術にも力を注いでいるため、経済政策等、内政と外交に積極的に参加し、リアンナ王国栄華の礎を築いた。
彼女はオークテリシア大帝国に情報を与え、莫大な援助を引き出した実績をいくつも重ねた。
具体的な情報は今も不明である。
彼女はアクア王と理想的な王室を作り上げた。二人は、アッシュ王子、マリーナ王女、カンタナ王子に恵まれた。』
ーー良かった。リアンナ王国が長く栄えて。アクア君もリリーシャさんも幸せになったのね。
友香は、最後にハル皇子が気になったが、いまだに検索できずにいた。
ーー 彼はあの世界で幸せになってほしいのに……きっと正皇后を迎えているはず。いや、それでいいんだ。皇子なんだから。しかも、さっきオークテリシア大帝国を検索したら、ペリド第一皇子じゃなく、彼が皇帝になっていた。確実に皇后を迎えているはずだわ。
友香はそう思うと、胸が痛んで、どうしても「ハル第二皇子」の人生だけは目にしたくなかった。
(過去の異世界の人に妬いても……私には疾風君がいるじゃない! )
そう言い聞かせながら、友香は自分の世界で自分の体で眠りについた。
翌日。
母が起こしてくれて、学校の支度をする。
必修科目が一限目からあるので、出席するために駅へ急いだ。
自分の意思で自分の体を動かしている幸せを噛み締めた。
電車内でスマホをのぞくと、疾風の爽やかな顔面が表示される。
今日は「RED WIND」がファンクラブアプリで配信すると予告があった。
そのために時間を調整して生活する。
なんて幸せで充実した一日なんだろう。
リアンナ王国の出来事が嘘のようだ、いや、嘘だったかもしれない。
ーー ハル皇子……どうやってこの現実世界に現れるの? そんな方法があるの?
友香は今の生活に満足しながらも、優しくて優しい彼を思い出さずにはいられなかった。




