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推し活女子大生が王国を救うまで現代に帰れません!  作者: 夢野少尉
第二章 【異世界編】ココロとスマホだけ異世界へ
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29.あなたの世界で幸せに

「ハル皇子には、平和条約が締結するまで、リアンナ王国に滞在してもらいます」


 その瞬間、会場全体が再びどよめいた。

 事実上、ハル皇子は「人質」だ。

 彼の身柄と条約締結が交換条件なのだ。


「こ、これはあまりにも暴言極まりない! 皇子を侮辱するにもほどがある!」


 ナリア伯爵は怒りに震え、リリーシャに声を荒げた。

 すると、リリーシャは涙を流して訴えた。


「鎮まりなさい! 私も命をかけてお願いをしているのです!」


 小国の伯爵令嬢は、大国の王妃のように迫力があり、思わずナリア伯爵は圧倒された。

 しかし、会場の貴賓達はあまりにも無謀な要求にあきれて、言葉もなかった。

 無理もない。

 彼女の行動は、リアンナ王国の寿命を縮めたいのかと錯覚するほどの凶行だ。


 すると、パチパチと拍手する音が鳴り響いた。

 ハル皇子だ。


「……リリーシャ嬢、頑張りましたね。良いものを見せていただきました。」


 彼の表情はとても穏やかで優しさに満ちている。


「あなたの33年間は無駄ではなかったですよ。私の心を動かすには十分な過去でした」


「……ハル皇子……」


 リリーシャは、その言葉を聞いて、また涙があふれ出した。


「一筆書きましょう。その後、リアンナ王国に留まりましょう。私も早く帰国しないとならないので、早急に条約を締結させなければ。すぐに紙とペンを用意して下さい」


「は、はい……ハル皇子、ありがとう。ありがとうございます……」


 リリーシャは涙でぐちゃぐちゃになった顔を手でぬぐいながら、行政官に書類とペンを用意するよう命令する。


「その間に彼女と話せますか? できれば対面で話をしたいのですが」


「わかりました。アクア王子殿下と一緒に下に降ります。」


 ホール上段の会場を見渡せる場所から、アクア王子と一緒にリリーシャは階段を下りてきた。

 アクア王子は夢の中にいるような足取りで、ふらふらしていた。


 ゆっくりハル皇子に近づいた二人は、アクア王子がまず跪いた。


「リアンナ王国王太子アクアと申します。オ、オークテリシア大帝国のハル第二皇子殿下に御挨拶いたします。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。先日の無礼をお許しください」


 震えた声でアクアが挨拶する。

 そんなアクア王子にハル皇子は、頭を上げて立ち上がるよう声をかけた。


「ラランカの件では私の方が失礼しました。謝罪するのはこちらの方ですよ」


 ハル皇子は柔らかい優しい声で、アクア王子に語りかけた。


「へ、平和条約は本当に我が国と結んでくれるのですか? 貴国には何も利益がないのに」

「……先ほど、殿下は平和の歌を歌唱されたではないですか。それに感銘を受けたと皇帝陛下には話しておきましょうか? どちらにしても心動かされる歌声でしたよ」

「あ、ありがとうございます!」


 アクア王子は照れるのと同時に、ハル皇子の圧倒的な包容力に憧れた。

 ハル皇子の方から、アクア王子に手を差し出して、二人は握手する。


 次にリリーシャにハル皇子は向き直った。


「頑張りましたね。計画的な行動ですか?」

「は、はい。おそれながら……あなたと友香様を利用いたしました」

「いいんですよ。それが外交というものです」


 ハル皇子は、にっこり笑ってリリーシャとも握手した。


「彼女はどうされてますか? あなたと代われそうですか?」

「はい、代わりますわ。落ち込んでらっしゃるので、励ましてあげてくださいませ」


 リリーシャは目を瞑り、友香に体を代わるよう語りかけた。

 そして、数秒後、彼女はゆっくり目を開けた。


「イ、イリアン子爵! ……また急に……びっくりしました」


 友香はまたハル皇子の顔面が目の前にあって、心臓がうるさく跳ね始めた。


「もう『ハル皇子』とバレたので、本名でいいですよ」


 ハル皇子は、またクスクス笑って友香の手を握った。


「まだ元の世界に帰れてなかったのですね。心細かったでしょう。すぐに言葉をかけれなくて申し訳ありません」


 アクア王子はじめ会場全体が固唾(かたず)をのんで、この光景を見守っているが、会話を聞いても内容がよくわからなかった。


「いいですか? 私はこれからリアンナ王国と平和条約締結に向けて簡易的な書類に署名をします。そうすればあなたは必ず帰れます。あなたが帰る条件は、ビチリア宰相断罪ではなかった。いや、それも必要だったかもしれませんが、最後はリリーシャ嬢の勇気だったようです。」


「リリーシャさんの……」


「そう。だから、これで最後です。私はあなたに必ず会いに行きます。だから、あなたは、あなたの世界で健康で幸せに日常を過ごして待っていて下さい。」


 リリーシャ(友香)の目からは、また涙がこぼれた。


「あ、ありがとう。ア、アクア君、リリーシャさん、ハル皇子……私、待ってます。待ってますから……」


 最後にハル皇子は友香の手にキスをして微笑んだ。


「アクア殿下、私が署名している間、リリーシャ嬢をしっかり支えておいて下さい。意識が朦朧(もうろう)とするかもしれないので」

「は、はい……!」


 アクアは状況がよくわからないが、ハル皇子の助言通り、リリーシャを脇から支えた。

 そして、ハル皇子は急遽用意されたテーブルに歩みより椅子にかける。

 ペンを取り、平和条約を締結する旨の内容が書かれた簡易的な書類に、ハル皇子が署名した。


 ーーその時。


「……リリーシャ!!」


 リリーシャの意識がなくなり、アクアの腕の中で力なく寄りかかる。


「リリーシャ! どうした!」


 何もわからないアクア王子は、顔面蒼白になり取り乱した。

 ハル皇子は立ち上がり、リリーシャの元に駆けよる。

 リリーシャはゆっくりアクア王子の腕の中で目を開けた。

 視界がぼやけてるようだが意識はしっかりしているようだ。


「帰られましたか?」


 ハル皇子はリリーシャに声をかけた。


「はい……最後に待っているとおっしゃっていました」


 ハル皇子は目を瞑り拳を握る。


(これから長い時間がかかるかもしれない。君に会える方法を模索しなければ)


 リリーシャは、しっかり自分の足で立ち上がり、ハル皇子に署名したか尋ねた。


「君は歴史に残る大仕事をしたね。人質期間に聞きたいことがいっぱいあるよ。異世界への行き方とか、彼女の名前とかいろいろ」

「言っときますけど、彼女の個人情報は我が国の重要な交渉カードでございます」

「え? お金要求するの?」

「当然ですわ。しかもうちの国家予算を揺るがすくらい」

「えーー、したたかだなぁ。以前の君とは大違いだよ……」

「小国が生き残るためですもの」


 リリーシャはハル皇子ににっこり笑いかけた。

 そんな会話の中、アクア王子はハル皇子と話がしたくて、うずうずする素振りを見せていた。


「ハ、ハル皇子! 1ヶ月の滞在中、私にぜひご教授をお願いしたいです。帝王学、政治、経済……たくさん話をしましょう!」


 14歳の少年にしか見えないアクア王子の姿に、ハル皇子は思わず微笑んだ。


「そうですね。私のことは兄のように接していただきたい。私も弟のように話しかけるので。3歳しか違わないのですから」


「さ、3歳ですか?」


 彼は、ハル皇子の冷静さと聡明な雰囲気に衝撃を受けた。

 それ以上に、自分のことを弟として見てくれることの喜びが大きい。


「は、はい! 兄弟のようになれたら嬉しいです!」


 顔を真っ赤にして喜んでいるアクア王子は、どこまでも素直でかわいかった。

 ハル皇子は、アクア王子はちゃんとした人から学べば善王になると確信した。


(まあ、私が生きている限り、この国の面倒を見ることになるだろうが……)


 彼は、自分の未来が多忙極まりないことが予想できた。


(私もこっちの世界で頑張るので、あなたも健やかでいてくださいね)


 ハル皇子は、顔も名前も知らない異世界の彼女に語りかけた。

 

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