23.王子が処刑されない未来
「リリーシャ、今まで悪かった。許してほしい」
「な、なんの話でしょう……」
急にバルコニーに移動したかと思えば、アクア王子はリリーシャに謝罪の言葉を述べた。
「二年前の父上の襲撃事件から、全ての人間自体を信じられなくなってた。一国の王が、一人の近衛兵に命を奪われそうになるなんて、当時の僕では処理しきれななかった」
「それは……無理もありません。」
「でも、あれから二年経って……久しぶりに君に出会って、自分が生まれ変わったような気がする」
「アクア殿下……」
アクア王子は、リリーシャの手を取って口づけた。
リリーシャは突然のアクアの行為に、胸の鼓動が早くなる。
「僕はいろんな人と話をしてみようと思う」
「はい」
「この王城内の人間だけではなく……だから、昨日、僕はビチリア宰相を僕の教育担当から外したよ」
一瞬、リリーシャの時が止まった。
ーー 今、ビチリア宰相を自分から遠ざけたと言ったの? アクアが自分の意思で?
「確かに『秩序』や『罰』も必要な時もあるだろう。しかし、最近僕の周りの人達が、そんな締め付けがなくとも、ものすごく僕のために一生懸命働いてくれていることに気づいたんだよ。」
「……アクア……」
「君が僕に歌うことのすばらしさを教えてくれた。だから、僕はビチリア宰相の教えだけではなく、いろんな人から学びたいと思う……リリーシャ……?」
リリーシャの深い翠の瞳からは涙が幾筋も流れていた。
ーーアクアが……アクアが自分で間違っていることに気づいてくれた!! あなたの処刑なんて見なくてすむかもしれない! ずっと一緒に生きていけるかも……
「リリーシャ……どうしたの?」
アクアはおろおろしながら、リリーシャを抱き締める。
「いいえ……良くしましょう、この国を。私と一緒に」
「もちろんだ。ずっと一緒だよ」
リリーシャは、アクア王子が以前の優しい穏やかな王子に戻ったと安堵し心を震わせていた。
その頃、ビチリア宰相も婚約パーティーのために、正装に着替え、リアンナ王の側に控えていた。
「今、なんとおっしゃいましたか?」
「アクアから君を自分の教育担当から外すよう要望があった」
ビチリア宰相は驚いた表情に変わり、リアンナ王に反論する。
「し、しかし……私は王妃ともつながりがあり……彼女の顔に泥を塗るのですか?」
「本人の強い希望だから、どうしようもない。王妃には私から伝えておく。君も少し肩の荷が降りただろう。しばらく、宰相としての仕事に専念したまえ」
ビチリア宰相は、悔しそうにとりあえず承諾した。
ーーどういうことだ! あんな人形のように私の指導に従っていたアクアが……この一週間であの小娘のせいで、全てがパーだっっ! 何をしたんだ! 何を吹き込んだ!
思わず唇をきつく噛み締める。
しかし、すぐに気味悪く笑った。
ーーいや、これで早目にオークテリシア大帝国に接触していた甲斐があったというもの。あいつらも、どうせこの国が欲しいだろう。このパーティーが終わり、あいつらが帰国したら、すぐにまたコンタクトがあるはずだ
ビチリア宰相は、婚約パーティーが行われる会場にリアンナ王と共に向かった。
※ ※ ※
『えぇ? ビチリア宰相が教育担当解任されたの?』
パーティー会場のドレスルームで、リリーシャと友香はこっそり脳内で会話していた。
『そうなんです! 私たちが暴露する前に解任になったから、未来が変わってないかと思って!』
『わ、わかった! すぐリアンナ王国を検索してみる!』
友香はリリーシャに体を代わってもらって、カバンに隠していたスマホを取り出す。
『リアン……ナお……』
ポチポチ入力し終わると、結果が表示された。
すると、やはりこのままだとリアンナ王国は滅びる未来になっている。
しかも、その時期が2年も早まっていた。
『……どういうことですか? アクアがビチリアに洗脳されなくってもリアンナ王国は滅びるのですか?』
『しかも結婚してすぐにリアンナ王国は失くなっているわ』
『……やっぱりビチリア宰相を断罪しないと、リアンナ王国に平和は訪れないのですね』
『……でも、今となっては、もうそれが正解かどうかもわからなくなった……』
二人はしばらく沈黙した。
ーーどうしたら、リアンナ王国は生き残れるの?
どうしたら、私は元の世界に帰れるの?
『とりあえず計画を実行しましょう。きっと全部上手くいくわ』
リリーシャは、友香を励ました。
そして、この後のスケジュールを二人はもう一度確認し合った。




