20.回帰者達の計画
就寝前、友香はリリーシャにスマホでビチリア宰相の売国発言の録音を聞かせてみた。
『すばらしいです! これを皆に聞かせれば、宰相は失脚の上、国外追放ですわ!』
リリーシャは声を弾ませて喜んだ。
『どこで暴露したらいいかな……私の指にしかスマホは反応しないんだよね』
試しにリリーシャの意識と入れ替わって、リリーシャに操作してもらっても反応しなかった。
やはり、たとえ肉体がリリーシャでも、意識が友香でないと操作できない。
『やっぱり婚約パーティーですわ! リアンナ国の貴族が集結してますし、他国からの招待客も多数参席していらっしゃいます。きっと言い逃れできませんわ。』
『リリーシャさんはいいの? せっかくの婚約パーティーなのに』
『リアンナ王国の未来がかかっていますもの。結婚式が完璧なら良いのです。早く膿を出しきりましょう!』
その後、友香はリリーシャの指示通り、ビチリア宰相の売国発言だけをリピートする形にするため、切り取って繋げる作業に取りかかった。
友香には、リリーシャはアクアとの婚約よりも、ビチリア宰相を断罪する行程の方が楽しそうに見える。
リリーシャも強くなったかもしれないと、友香はなんとなく感じていた。
※ ※ ※
一方、明日アクア王子は会場での歌唱リハーサルを控えていた。
公務が立て込んでいて、その間に歌唱の練習を確保しているため食事もままならない。
しかし、明日はパーティーのリハーサルに少し参加するので、やっとリリーシャに会えるのだ。
ラランカ事件以来だった。
その前に、アクアは父であるリアンナ王陛下に謁見を急遽申請した。
明日は自分の意見を陛下に直接伝えて、婚約パーティーまでに新しい環境を整えるつもりでいた。
彼は密かに決意したことがあったのだ。
※ ※ ※
今日は朝から、ラランカの花の代わりになる花束を買いにリリーシャは外出する予定だ。
次期王太子妃とわからぬよう平民の娘に変装して、花屋をまわる計画を立てた。
以前の人生では、結婚してからは部屋の外にも出れなかった。
婚約前後も外出には厳しかったと記憶している。
アクア同伴でしか外出できなかったのに……今は護衛をつければ、数時間の外出は許してくれた。
(やはり、彼は良い方向に変化している)
リリーシャは、リアンナ王国の未来に期待を寄せ始める。
「いろんな花をそろえましょう。人間がもてる最大級の花束に!」
リリーシャは久しぶりの外出ではしゃいでいた。
今、友香は体をリリーシャに任せている。
この外出を彼女に楽しんでもらえたら良い、と思っていた。
ただ、今日はアクア王子とのリハーサルもある。
リリーシャはまた彼を避けて、私が対処するのだろうか。
ーー私は疾風君のご尊顔を拝めるから、嬉しいけど……。突然、私が元の世界に帰ったらどうするつもり? やっぱり婚約するのだから、本人同士で理解し合わないと。
世話が焼けるわ、と友香はため息をついた。
※ ※ ※
花屋を5件まわって、幌馬車が花で埋もれた。
「これだけあればいいですわね。花だけ先に王城に運んでくださいませ」
この後、リリーシャは護衛2名を連れて、一時間ほど街を散策する予定だ。
彼女はこれから何をしようかワクワクしていた。
カフェに行こうか、雑貨屋さんをまわろうか……そんな考えを巡らしては、14歳の少女らしく胸をときめかせていた。
「あれ、リリーシャ嬢、偶然ですね」
後ろから聞き覚えのある声で呼び止められる。
「……イリアン子爵? どうしてここに……」
(絶対、偶然ではないわ! さすがオークテリシア大帝国のハル皇子……尾行の技術も優れていらっしゃる。それに比べて、我が国の護衛は気がつかないのですね……)
リリーシャは、内心リアンナ王国の防衛意識に肩を落としていた。
とにかく、彼女はイリアン子爵ことハル皇子にもトラウマがあるので、友香に意識を交代してもらった。
「えぇ! ハ、ハルお……いやイリアン子爵!」
意識が友香に変わり、彼女にとっては突然ハル皇子との会話の場面に切り替わったので、心臓が早鐘をならし始めた。
ーーこの前、プロポーズされたばかりで……意識するなって方が無理よーーっ!!
顔が一気に赤くなり、護衛達もリリーシャ(友香)の変化に気づいた。
「リリーシャ様、大丈夫ですか?」
「そろそろ帰城されますか?」
「い、いいえ! 帰りません! イリアン子爵と話がしたいので!」
まくしたてるように、リリーシャ(友香)は護衛達に伝えた。
婚約前の令嬢なのに、誤解を与えかねない発言だ。
「承知しました。では、あちらのカフェで話しましょうか」
イリアン子爵(ハル皇子)は、またクスクス笑って、リリーシャ(友香)をエスコートした。
※ ※ ※
カフェに入ると、イリアン子爵(ハル皇子)とリリーシャ(友香)が同じ席に座り、その近くの席に護衛二人が座った。
護衛二人に会話は聞かれても、たぶん内容は半分くらい理解できないだろう。
イリアン子爵(ハル皇子)は、そう憶測して堂々と彼らの前で話し出す。
「たくさん花を買いましたね」
彼は会話をその話題から切り出した。
「はい。リリーシャさんと相談したのですが、大きな花束を作って、それでスマホを隠そうと思います」
「では、その時は私が手伝います。ナリア伯爵に花束贈呈のプログラムを組み込むよう要請してもらいましょう」
具体的にいつ録音を流すか、どのように操作するか等打ち合わせをした。
やはり、「スマホ」「録音」「再生」の意味がわからない護衛達は、何を話してるか理解できないようだ。
途中から、集中して聞き耳を立てることをやめていた。
そして、友香は一番気になる話題をハル皇子にぶつけてみた。
「あなたは、過去の人生でリリーシャさんを好きだったんじゃないですか?」




